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【専門医が語る】前立腺がん治療の最前線:個別化医療と革新的な新技術が拓く未来

[公開日] 2025.10.01[最終更新日] 2025.11.06

動画タイトル:【どう変わった?】赤倉 功一郎 先生に聞く!前立腺がんの治療 OMCE #93 講師:赤倉 功一郎 先生(JCHO東京新宿メディカルセンター 泌尿器科) ライブ配信:2023年9月22日/編集動画公開:2024年5月10日
※この記事はセミナー動画「【どう変わった?】赤倉 功一郎 先生に聞く!前立腺がんの治療 OMCE #93」をもとに作成されています。治療法やその開発段階については、セミナー実施時点のものであることにご留意ください。 前立腺がんの治療は、近年目覚ましい進歩を遂げ、患者にとって希望の光となっています。診断技術の向上から、手術、放射線、そして薬物療法に至るまで、その選択肢は飛躍的に増えました。JCHO東京新宿メディカルセンター泌尿器科の赤倉功一郎医師の解説に基づき、前立腺がん治療の現状と未来を詳しく紹介します。

治療を理解するための第一歩:「標準治療」とは何か

まず、がん治療において最も重要な概念の一つである「標準治療」を理解する必要があります。この言葉は「並の治療」を意味するものではありません。標準治療とは、科学的な根拠に基づき、有効性と安全性が十分に証明された、現時点での「最善の治療」を指します。

早期発見と正確な診断を支える技術革新

前立腺がんの治療成功は、早期の正確な診断にかかっています。この分野でも革新的な技術が次々と登場しています。

1. 新しい腫瘍マーカー「Phi(プロステートヘルスインデックス)」

従来から広く使われるPSA(前立腺特異抗原)やフリーPSA比に加え、「Phi(Prostate Health Index)」という新しい腫瘍マーカーが開発されました。これは、PSA検査だけでは判断が難しかったケースにおいて、がんである可能性をより正確に評価する能力に優れています。2021年に保険適用となり、診断の精度向上に大きく貢献しました。

2. MRIと超音波の「融合生検」

生検(組織を採取して病理診断を行うこと)は、前立腺がんの確定診断に不可欠な検査です。従来の生検ではランダムに組織を採取するため、がんを見逃すリスクがありました。しかし、「融合生検」では、事前に撮影したMRI画像でがんが疑われる病変の位置を特定し、その画像をリアルタイムの経直腸超音波画像に重ね合わせて、病変をピンポイントで狙って組織を採取します。この手法は2022年から保険適用となり、診断の精度が飛躍的に向上しました。

局所療法:手術と放射線の進歩

がんが前立腺内にとどまっている局所がんである場合、根治を目指す「局所療法」として、手術(前立腺全摘除術)と放射線療法が選択肢となります。治療成績に大きな違いはないため、患者の年齢、既往歴、全身状態、合併症(後遺症)、そして個人のライフスタイルや好みを総合的に考慮して、最適な治療法を選択することが重要です。この際、複数の専門医の意見を聞くセカンドオピニオンの活用も推奨されます。

1. 手術療法の進化:ロボット支援下手術の普及

手術は、開腹手術や腹腔鏡下手術に加えて、ロボット支援下手術(例:ダヴィンチ)が広く普及しています。ロボットアームは人間の手よりも繊細かつ複雑な動きが可能で、3Dの高解像度画像を見ながら手術を行うため、より精緻な操作ができます。これにより、手術の合併症である尿失禁や勃起障害(ED)のリスクを軽減するための神経温存術がより確実に行えるようになりました。

2. 放射線療法の進化:精度向上と副作用の軽減

放射線療法は、いかに前立腺に放射線を集中させ、周囲の臓器への影響を抑えるかが鍵となります。 •強度変調放射線療法(IMRT):コンピューター制御により、放射線の強度を細かく調整し、前立腺の複雑な形状に合わせて正確に照射します。 •粒子線治療:陽子線や重粒子線は、特定の深さで最大のエネルギーを放出し、その先の組織にはほとんど影響を与えないという特性があります。これにより、がん細胞にピンポイントで大線量を照射できます。 •直腸障害の予防:前立腺のすぐ後ろには直腸が接しているため、直腸障害のリスクがあります。2020年から保険適用となったハイドロゲルは、前立腺と直腸の間に注入・留置することで両器官の距離を広げ、直腸への放射線量を大幅に減らせます。

薬物療法:ホルモン感受性から去勢抵抗性へ

前立腺がんの治療において、薬物療法は重要な役割を果たします。特に、転移がある場合や再発した場合に中心的な治療となります。

1. ホルモン感受性前立腺がんの治療

前立腺がんは、男性ホルモン(アンドロゲン)に依存して増殖するという性質を持っています。そのため、初期の段階では男性ホルモンの分泌や作用を抑えるホルモン療法(ADT:アンドロゲン除去療法)が非常に有効であり、ほぼ全ての症例で効果が見られます。 近年、転移のあるホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対しては、治療をより強化することが標準となっています。 •併用療法の標準化:ADT単独ではなく、抗がん剤(ドセタキセル[商品名:タキソテール])や、新しいホルモン薬(アビラテロン[商品名:ザイティガ]、エンザルタミド[商品名:イクスタンジ]、アパルタミド[商品名:アーリーダ])を併用することで、生存期間が有意に延長することが証明されています。 •トリプレット治療:2023年に保険適用となった「トリプレット治療」は、ADTに抗がん剤(ドセタキセル)と新しいホルモン剤(ダロルタミド[商品名:ニュベクオ])を加えた三者併用療法です。この治療法は、無増悪生存期間と全生存期間の両方を大幅に改善することが示されています。 転移の中でも「オリゴ転移」が近年専門医の中で注目を集めています。オリゴ(Oligo)は「少ない」という意味であり、転移の数が少ない状態を示します。これまで、転移性のがんは転移の数が少なくても全身治療が必須であり、局所療法(手術や放射線)は適用外とされていましたが、オリゴ転移のがんに対しては、完全に治すことができるのではないかという可能性が模索されています。少数転移に対する局所療法の実施には、以下の意義が期待されています。 •根治の可能性:がんを根治する可能性があります。 •効果の向上:腫瘍量(がんの量)を少なくすることで、治療効果がより高まる可能性があります。 •全身療法の増強:ホルモン療法や抗がん剤などの全身療法の効果を強める可能性があります。 •症状緩和:前立腺や骨の転移を治療することで、痛みや出血といった症状面での有用性があります。 このような局所治療の上乗せ効果が期待できる転移の数は、骨転移が3個以下であることが目安とされています。転移した病巣(例:骨)に放射線治療を行うことで、PSA(前立腺特異抗原)の反応性が改善し、ホルモン療法なしで済む期間が長くなるという臨床データが示されています。 標準的なホルモン治療に、アビラテロンと放射線治療の両方を加える複合治療(PEACE-1試験)において、治療成績が向上することが報告されており、転移のあるがんであっても放射線治療を行うことの意義についてコンセンサスが得られつつあります。

2. 去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の治療

ホルモン療法が効かなくなり、がんが男性ホルモンなしでも増殖するようになります。これを去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)と呼びます。しかし、この段階でも治療の選択肢はあります。 •新規ホルモン剤:ホルモン療法が効かなくなった後でも、より強力な作用を持つアビラテロンやエンザルタミドが有効な場合があります。 •抗がん剤:ドセタキセルはCRPCに対する標準的な抗がん剤であり、全生存率を改善します。ドセタキセル治療後に進行した場合でも、カバジタキセル(商品名:ジェブタナ)という新しい抗がん剤が次の治療として有効であることが示されています。 •放射線内用療法:ラジウム223は、骨転移部に集まり、α線という強力な放射線でがん細胞を破壊する注射薬です。骨転移があるCRPCの患者において、生存期間の延長効果が認められています。 CRPCの治療は、標準的な順番が厳密に定められているわけではなく、患者の病態や過去の治療効果、副作用などを考慮した個別化治療が重要です。

精密医療(プレシジョン・メディスン)と将来の治療

がん治療の未来を切り拓く概念として、精密医療が注目されています。これは、個々の患者の遺伝子情報などを解析し、最も効果的な治療法を選択するものです。

1. 遺伝子変異を標的とした治療

•PARP阻害薬:BRCA1/2などのDNA修復関連遺伝子に変異を持つ患者に対し、オラパリブ(商品名:リムパーザ)という薬剤が非常に有効であり、2021年から保険適用となっています。 •免疫チェックポイント阻害薬:MSI-Highと呼ばれる特定の遺伝的特徴を持つがんには、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)などの免疫チェックポイント阻害薬が効果を発揮します。 これらの治療法は、一部の患者に劇的な効果をもたらす可能性を秘めていますが、検査を受ける際には遺伝カウンセリングを受け、その意味や結果を十分に理解することが重要です。

2. PSMAを標的とした放射線内用療法

PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)は、前立腺がん細胞の表面に多く発現するタンパク質です。このPSMAを標的とした革新的な治療法が開発されています。 ルテチウムPSMA療法は、PSMAに放射性同位元素(ルテチウム177)を結合させた注射薬です。体内に注入すると、ルテチウムががん細胞に集積し、ベータ線という放射線でがん細胞を内部から破壊します。国際的な臨床試験(VISION試験)では、従来の標準治療と比較して生存期間を延長する効果が示され、治療の選択肢として大きな期待が寄せられています。

早期発見のための検診と患者へのメッセージ

前立腺がんは、がんの中でも治療成績が非常に良好な部類に入ります。病期1〜3期で発見された場合の10年相対生存率はほぼ100%に達します。しかし、転移が起きてから発見されると生存率は低下します。 日本泌尿器科学会は、死亡率を減らすためにPSA検査を用いた前立腺がん検診を強く推奨しています。特にコロナ禍以降、検診を受ける人が減少し、将来的に進行した状態で発見される患者が増え、死亡率が増加することが懸念されています。 前立腺がんの治療は、新しい薬や治療法が次々と登場し、選択肢が増えています。これは、進行した状態であっても、有効な治療がどんどん出てきていることを意味します。患者自身も積極的に情報を収集し、主治医や専門看護師とよく話し合い、病気に合わせた適切な治療を適切なタイミングで受けることが重要です。

Q&Aセッション

1.複合治療の安全性と副作用への対応

前立腺がん治療では、高い効果を目指し、異なるタイプの薬を組み合わせる「複合治療」が増加しています。 治療効果と副作用の現実 ・効果向上と懸念: 治療成績は向上するが、異なる薬(例:抗がん剤とホルモン剤)を組み合わせるため、副作用が増えることは当然の懸念として認識する必要があります。 ・主な副作用の例:  ―抗がん剤:白血球減少、神経障害(しびれ)など  ―ホルモン剤:ホルモン剤特有の副作用 副作用管理の進歩 ・支持療法(指示療法)の発達: 副作用へのケアが大きく進歩しており、適切な管理が可能になっています。 ・具体的なケア: 吐き気止めや白血球を増やす薬などの発達しています。 ・結論: 気をつけるべきことは増えますが、適切な支持療法を使えば、治療を乗り切ることが可能です。

2.根治を目指す局所療法の選択肢

根治を目指す局所療法として、「手術(ロボット支援手術など)」と「放射線療法(IMRT、粒子線など)」がありますが、治療成績に大きな差はないため、選択には患者側の検討が重要です。 治療選択の考慮事項 ・治療成績の差: 前立腺がんの場合、手術と放射線療法の治療成績に大きな違いはありません。 ・考慮すべき要素:  ―治療スケジュール、入院期間、通院回数  ―合併症や後遺症(排尿機能、性機能など)  ―再発した時の治療方針  ―患者の既往歴、全身状態、年齢  ―患者の好み(手術を望むかどうかなど) セカンドオピニオンの重要性 ・推奨理由: 全ての治療法を一つの病院で網羅できないため、多角的な意見を聞くことが必須です。 ・相談先: 泌尿器科医(手術の専門家)だけでなく、放射線治療医(放射線治療の専門家)からも意見を聞くことを強く推奨します。

3.複雑化する治療と患者・医師間のコミュニケーション

新しい治療や検査の複雑化により、患者が治療法について医師と話し合うのが難しい現状があります。 患者が意識すべき「検査」の影響 ・遺伝性リスク: 遺伝子検査により、患者本人だけでなく子や孫にも影響する遺伝病の情報が判明する可能性があります。 ・事前の知識: 検査を受ける前に、遺伝カウンセリングを含めて「知らなくてもいい情報を知る影響」について知識を得た上で、検査の是非を決めるべきです。 ・検査の制約: 治療や検査には保険適用の制約があり、有効性が期待されても保険上認められないことがあります。 ・総括: 治療の鍵となる「検査」について、患者側もその影響を理解し、知らなければ積極的に相談することが重要です。 相談先の活用 主治医に十分な時間を取ってもらうのが難しい場合、がん専門看護師など、サポートしてくれる専門スタッフがいる施設が増えているため、そういった専門家に相談すると良いでしょう。

4.遺伝子パネル検査の現状と課題

前立腺がんにおける遺伝子パネル検査は、個別化治療の可能性を秘めていますが、現状では課題もあります。 実施と保険適用の制限 ・実施施設: がんゲノム医療拠点病院およびその関連施設に限定されます。 ・保険適用時期: 標準治療がすべて終わった患者に限定されています。 課題と将来展望 ・タイミングの遅さ: 現行の保険適用タイミング(標準治療後)は、泌尿器科医が望むタイミング(もっと早い段階)よりも遅く、治療機会の逸失に繋がる可能性があります。 ・有効な治療薬の現状:数百個の遺伝子情報を調べても、現状では必ずしも全てに対応する有効な治療薬が見つかるわけではありません。 ・今後の期待:今後、対応する治療薬が開発されれば、遺伝子パネル検査の有用性は高まることが期待されます。
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