動画タイトル:【正しい知識を】伊豆津 宏二 先生に聞く!悪性リンパ腫治療のいま OMCE #100
講師:伊豆津 宏二 先生(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)
ライブ配信:2024年4月26日/編集動画公開:2024年5月8日
※この記事はセミナー動画「【正しい知識を】伊豆津 宏二 先生に聞く!悪性リンパ腫治療のいま OMCE #100」をもとに作成されています。治療法やその開発段階については、セミナー実施時点のものであることにご留意ください。
1. 悪性リンパ腫の概要と疫学
悪性リンパ腫はリンパ球に由来する悪性腫瘍の総称であり、「リンパ球のがん」と理解され、病変はリンパ節だけでなく、全身のあらゆる臓器に及ぶことがあります。
2019年の統計では、日本の年間罹患数は36,000人であり、死亡数は13,000人となっています。罹患数が増加傾向にある原因の一つは人口の高齢化ですが、高齢化を調整した統計(年齢調整罹患率)でも増加しており、その原因は完全には特定されていません。診断技術(病理診断や生検方法)の進歩により悪性リンパ腫との診断がつきやすくなった可能性も指摘されています。
悪性リンパ腫は進行速度により、緩進行性、急速進行性、超急速進行性の3タイプに分けられ、さらにB細胞由来とT細胞・NK細胞由来に分類されます。日本ではびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL)が最も多く、全体の3割近くを占めており、次いで濾胞性リンパ腫が約20%で、この2つで全体の50%以上を占めます。
リンパ腫の分類はWHO分類(最近第5版が発表された)や、新しい国際コンセンサス分類(ICC)に基づいて行われ、それぞれのタイプに応じて治療研究や診療が進められています。
2. DLBCLの初回治療の進歩
従来の標準治療と課題
DLBCLは、月単位で病気が大きくなる急速進行性の代表的なリンパ腫であり、B細胞に由来し、細胞表面にはCD20やCD19、CD79Bといったマーカータンパク質が発現しており、これらが治療標的となります。
この疾患では、治癒(完治)を目指して治療が行われます。分子標的薬リツキシマブ(抗CD20抗体)が導入される前はCHOP療法が行われていましたが、リツキシマブを加えたR-CHOP療法が開発され、2000年以降、DLBCLの標準治療となってきています。R-CHOP療法は、約70%の患者で治癒が期待できる治療です。
R-CHOP療法を超える治療成績を目指し、治療強度を上げるための様々な臨床試験(治療間隔の短縮や新たな薬剤の追加など)が行われていますが、長らくR-CHOP療法を上回る結果は得られませんでした。
抗体薬物複合体 (ADC) の導入
この状況を変えたのが、新しい抗体薬物複合体(ADC)であるポラツズマブ ベドチン(商品名:ポライビー)。ポラツズマブ ベドチンは、CD79Bに対する抗体に抗がん剤MMAEを結合させた薬剤で、標的細胞に取り込まれてから抗がん剤が放出され効果を発揮します。
R-CHOP療法からビンクリスチン(商品名:オンコビン)を除き、ポラツズマブ ベドチンを加えたPola-R-CHP療法とR-CHOP療法を直接比較する第III相試験が行われ、その結果、Pola-R-CHP療法の方が無増悪生存期間(再発なしで生存している期間または割合)において優れていることが示されました。
この結果に基づき、Pola-R-CHP療法は現在、日本を含む各国でDLBCLの初回標準治療の一つとして承認・使用されています。副作用はR-CHOP療法と同程度ですが、発熱性好中球減少症などの感染症はやや高頻度で起こるとされています。
DLBCLのサブタイプとBTK阻害薬
DLBCLは、遺伝子発現プロファイリングにより、予後の良いGCB型と予後の悪いABC型(非GCB型)に分類されることが分かっています。Pola-R-CHP療法の優位性は、特にABC型の患者で顕著でした。
ABC型の一部は、CD79BやMYD88といった遺伝子に変異を持つMCD型と呼ばれ、B細胞の活性化信号経路に異常があり、この信号伝達を抑制するBTK阻害薬(イブルチニブ[商品名:イブルチニブ]など)が治療に有効ではないかと期待されています。
イブルチニブをR-CHOP療法に併用する試験も行われましたが、試験全体では効果の改善は見られず、承認には至りませんでした。しかし、若年者かつMCD型に限定すると、イブルチニブ併用により治療効果が大幅に改善するデータが得られており、次世代BTK阻害薬(アカラブルチニブ[商品名:カルケンス])を用いた同様の試験結果が現在注目されています。
3. 再発・難治性リンパ腫に対する新たな治療法
従来の標準治療(二次化学療法後の自家移植など)が奏効しなかった再発・難治性のDLBCL患者の予後は非常に悪く、新しい治療法の開発が急務でした。
CAR T細胞療法
CAR T細胞療法は、患者自身のT細胞を採取し、体外で遺伝子を導入して、リンパ腫細胞(CD19陽性)を攻撃する人工的なタンパク質(CAR)を発現させたT細胞(CAR T細胞)を作製・増殖させ、患者に戻す治療法です。
これまで治癒が困難だった患者に対しても、長期にわたる完全奏功(病気が消えた状態)を維持させ、約40%の患者で治癒が期待できる画期的な治療です。
主な合併症には、CAR T細胞が腫瘍細胞と反応する際にサイトカインが放出されることによるサイトカイン放出症候群 (CRS)や神経合併症がありますが、多くは薬剤で管理可能です。
この治療は当初三次治療として開発されたが、現在では、初回のR-CHOP療法中に進行した患者や1年以内に再発した予後不良の患者に対する二次治療としても有効性が確認され、標準治療として利用されています。
ただし、CAR T細胞療法は製造に数週間かかること、また細胞治療に慣れた限られた施設(主に同種移植を行う施設)でしか実施できないという課題があり、治療を受けられる患者の数が限定的です。また、治療費用は依然として高額(約3000万円)ですが、高額療養費制度により患者の自己負担は抑えられています。
二重特異性抗体(Bispecific Antibodies)
二重特異性抗体は、リンパ腫細胞の表面抗原(CD20)と、患者自身のT細胞に発現する抗原(CD3)の2つに同時に結合する能力を持った抗体薬です。この薬剤を点滴や皮下注射で投与すると、リンパ腫細胞とT細胞が引き寄せられ、T細胞がリンパ腫細胞を攻撃する。CAR T療法と異なり、細胞の製造を待つ必要がないという利点があります。
副作用としてCRSや神経系有害事象があるが、CAR T療法に比べて重症度の頻度は低いとされています。
日本では、CD20/CD3二重特異性抗体であるエプコリタマブ(商品名:エプキンリ)がDLBCLの三次治療として承認され、保険診療で利用されています。この薬剤は、40%近い患者さんが完全奏功(CR)となり、少なくともその半数ほどの患者さんが長期にわたりCRを維持できることが臨床試験で示されています。二重特異性抗体は、今後DLBCLの二次治療や初回治療での併用など、幅広い段階での役割が検討されています。
4. その他の進歩とリンパ腫のゲノム医療
ADCと免疫チェックポイント阻害薬の適用拡大
ADCはDLBCL以外にも適用が広がっています。例えば、CD30を標的とするブレンツキシマブ ベドチン(商品名:アドセトリス)は、末梢性T細胞リンパ腫や古典的ホジキンリンパ腫の初回治療で、従来の化学療法との併用により効果が改善することが示されています。
免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ[商品名:キイトルーダ]など)は、DLBCLに対する効果はほとんどありませんが、古典的ホジキンリンパ腫の再発・難治性治療で承認されています。また、DLBCLの特殊型である原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対しては有効性が確認され、ペムブロリズマブが2023年に承認されました。
ゲノム医療の現状
ゲノム検査は、海外では急性白血病を中心に先行していますが、リンパ腫においては、標的治療薬が限られているため、まだ広くは行われていません。
しかし、特定のリンパ腫タイプ(例:濾胞性リンパ腫のEZH2変異、T細胞リンパ腫のALK遺伝子異常)では、対応する標的薬が存在します。将来的には、血液腫瘍を対象とした遺伝子パネル検査が国内で承認されれば、DLBCLのMCD型などの遺伝子異常を特定し、標的治療を選択する道が開かれることが期待されています。
5. 診断と寛解・完全奏功の定義
一般の人が悪性リンパ腫を疑う場合、まずはしこりやコブの有無が重要であり、診断には生検が不可欠です。ただし、しこりを作りにくい稀なタイプ(血管内大細胞型B細胞リンパ腫など)では、原因不明の発熱や検査値の異常がきっかけとなり、ランダム皮膚生検などにより診断に至る場合があります。
血液がんで用いられる「寛解」という言葉は、リンパ腫では「完全奏功(CR)」という用語が使われます。完全奏功とは、CTやPET-CTで病気の残りが示唆される異常がなくなった状態を指します。病気を治すためには、まずこの完全奏功の状態になることが前提となります。
完全奏功になっても再発の可能性は残りますが、DLBCLのように治るタイプのリンパ腫では、一旦CRに至れば再発する可能性は10%から20%程度と高くはなく、そのまま治る可能性が高いと考えられています。
悪性リンパ腫、特にDLBCLの治療は、新しい薬剤や免疫細胞療法によって大きく変わりつつあり、患者にとって希望となる進歩が続いている状況にあります。