作成 社会保険労務士 井後伸一(徳島県社会保険労務士会所属)

【前編】社員ががんに罹患したときの支援の取り組み

両立支援を取り組むことによるメリット

■会社のメリット

○病気になっても大丈夫ということで、仕事に専念してもらえる。
○安心感が生まれ、士気の高揚につながる。職場の活性化や生産性の向上が期待できる。
○モチベーションや信頼関係が向上し、職場の雰囲気が良くなる。
○突然辞められることによる事業活動の一時的な停滞を防ぐことができる。
○離職を食い止めることができ、定着が高まる。
○お互いに支え合ったり、協力しあうという気持ちが高まる。
○両立支援の取り組みが先行していたり、先進的であれば、注目され、会社の評判や社会的評価が高まる。優れた人材が集まる。

■社員のメリット

○病気になっても辞めることなく働くことができる。(仕事と治療のどちらも犠牲にしなくて済む)
○大切にしてくれていると思って、仕事に専念できる。
○安心して長く勤めることができる。
○仕事は生計を維持するためにも大切。生きがいでもある。
○お互いに支え合おうという気持ちになる。

治療を始めてから通常勤務に復帰するまでの流れ

ガイドラインで示されている両立支援の進め方

①社員から治療を始めたいと相談があると

・病状や治療予定(通院か入院か)など診断書を兼ねた医師の意見書の提出を求める。そのときに、意見書の作成に役立ててもらえるよう勤務情報を渡す。
「医師の意見書:病名、現在の症状、治療予定、就業継続の可否、職場で配慮すべき内容を記入してもらう。」
「勤務情報:社員の仕事の内容を医師に伝えるもの(会社が作成)」

・産業医からも、就業継続の可否と配慮すべき内容の意見を求める。

・社員の就業継続の意思を確認する。

②治療が通院によって可能ということであれば

・医師と産業医等の意見を参考にして、通院中における配慮すべき内容を検討する。両立支援プランをつくる。
「配慮すべき内容:通院、仕事の内容、勤務時間、残業、休憩、出張、就業場所、通勤などで配慮する事項」

・両立支援プランにそって支援する。定期的に面談する。病状や治療に変化があればプランを見直す。

③入院が必要ということであれば

・休暇を与える。

・休職期間中は連絡を取り合い、治療経過を確認したり相談に応じる。

④休職していた社員から職場復帰の申し出があると

・職場復帰が可能かどうか医師の意見書の提出を求める。そのときに、意見書の作成に役立ててもらえるよう勤務情報を渡す。
「医師の意見書:復職に関する意見や職場で配慮すべき内容を記入してもらう」
「勤務情報:社員の復帰後の仕事の内容を医師に伝えるもの(会社が作成)」

・産業医からも、職場復帰の可否と配慮すべき内容の意見を求める。

・社員の希望と上司の意見を聞く。

・医師と産業医等の意見を参考にして、職場復帰の可否の判断をする。

⑤職場復帰が可能と判断したときは

・医師と産業医等の意見を参考にして、職場生活のリズムを取り戻せるまでの期間中における配慮すべき内容を検討する。職場復帰支援プランをつくる。
「配慮すべき内容:通院、仕事の内容、勤務時間、残業、休憩、出張、就業場所、通勤などで配慮する事項」

・職場復帰支援プランにそって支援する。定期的に面談する。体調に変化があればプランを見直す。

⑥通常勤務に復帰する

・治療が終了し職場生活のリズムを取り戻せても、治療による影響から身体的な制限を受けておれば、引き続き症状に合わせた支援をする。

(注1)産業医は、労働者が50人以上いる事業場において健康管理等を行うために選任された医師
(注2)産業医がいない会社では、医師の意見を参考にする
(注3)医師の意見書、勤務情報、両立支援プラン、職場復帰支援プランの様式例は、ガイドラインで示されている(以下に様式例を添付している)
(注4)この取り組みは、がん患者のみならず、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、難病などの反復・継続して治療が必要な病気の患者にも適用できる

両立支援を行うため、事前に整えておくべき事項

■円滑に対応できるよう対応手順を定める(マニュアル化しておく)
■休暇制度や勤務制度を新たに導入する、現行制度を拡充する
■両立支援の制度を社員に周知する
■気兼ねなく相談や報告ができ、それを快く受け入れる社内風土をつくる
■健康を大切にする職場環境をつくる

 役立つ休暇制度や柔軟な勤務制度として、ガイドラインでは時間単位の年次有給休暇、傷病休暇・病気休暇、時差出勤制度、短時間勤務制度、在宅勤務(テレワーク)、試し出勤制度が示されています。会社の実情にそって制度を設けることになります。

○時間単位の年次有給休暇
・1年で5日分まで時間単位で休暇を与えることができる
・通院に利用できる

○傷病休暇・病気休暇
・入院や自宅療養、通院のため、年次有給休暇とは別に休暇を与えるもの
・会社が自主的に設ける法定外の休暇制度

○時差出勤制度
・始業時刻や終業時刻を変更するもの
・通院時間を確保することができる
・通院中や職場復帰後において、身体に負担のかかる通勤時間帯を避けて通勤することができる
・会社が自主的に設ける法定外の勤務制度

○短時間勤務制度
・所定の勤務時間を短縮するもの
・通院中や職場復帰後における身体への負担を軽減することができる
・通院時間を確保することができる
・会社が自主的に設ける法定外の勤務制度

○在宅勤務(テレワーク)
・体調に合わせて、場所や時間にとらわれずに働くことができるもの(例えばパソコンを利用して自宅で勤務するなど)
・職場復帰後における身体への負担を軽減することができる
・通勤による身体への負担を軽減することができる
・会社が自主的に設ける法定外の勤務制度

○試し出勤制度
・職場復帰をする前に、一定期間試しに出勤するもの
・長期間休職していた場合には、円滑に復職することができる
・早期の復職に結び付けることができる
・会社が自主的に設ける法定外の勤務制度

(注)新たに制度を設けたり、現行制度を改善するときには、就業規則での規定化や改正が必要となる(時間単位の年次有給休暇は労使協定で可能)

参 考

■様式例集(別添)

●医師と情報をやり取りするときの書面の様式例
・勤務情報を主治医に提供する際の様式
・治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式
・職場復帰の可否等について主治医の意見を求める際の様式

●両立支援プラン、職場復帰支援プランの様式例、その作成例

■がん検診の受診率(平成26年度)


早期発見と早期治療は、両立支援を取り組む上でも大切です。受診を積極的に勧奨することや実施項目の見直し、精密検査を指示された社員に受診を勧奨することが必要です。

■取り組みを検討するとき、産業保健総合支援センターの支援が受けられる

両立支援は、厚生労働省と産業保健サービスを提供している独立行政法人労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター」が普及に努めています。ガイドラインにもとづいた社内のルールづくりや休暇制度・勤務制度の整備づくりなどについて、近くの産業保健総合支援センターで助言や相談が受けられます(無料です)。ご利用をお勧めします。


勤務情報を主治医に提供する際の様式例 PDFファイル


治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式例 PDFファイル


職場復帰の可否等について主治医の意見を求める際の様式例 PDFファイル


両立支援プラン/職場復帰支援プランの作成 PDFファイル


両立支援プラン/職場復帰支援プランの作成例 PDFファイル