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患者団体に聞く!一般社団法人キャンサーフィットネス 代表理事 広瀬 真奈美さん

はじめに

今回お話を伺ったのは、一般社団法人キャンサーフィットネスの代表理事を務める広瀬 真奈美さん。

乳がんに罹患し、手術、抗がん剤放射線治療ホルモン療法、と、フルコースの治療を経験。当時、治療後の身体機能を回復するためのリハビリを受けられるところがなく、自ら運動について学び、がん体験者にリハビリエクササイズを提案する団体を立ち上げられた経緯や、団体の活動について伺いました。

*一般社団法人キャンサーフィットネス https://cancerfitness.jp/ 
*広瀬真奈美さんアメーバブログ https://profile.ameba.jp/ameba/cancerfitness/
*オンラインサロン Hello! https://lounge.dmm.com/detail/5628/

【胸の痛みとシコリ】

川上:はじめに、乳がん経験について教えてください。

広瀬:ある夜中、急に胸が痛くなったんです。45歳、2008年の11月でした。生理に関連する痛みかと思い、ロキソニンを飲んでみましたが収まらず、触ってみるとシコリがありました。乳房にへこみもあり、インターネットで調べてみると、まさに「乳がん」の状況でした。すぐに近所のクリニックを受診し、検査を繰り返し、乳がんであることが確定しました。治療のために病院を紹介されたのですが、とても混雑していて、手術は2か月後の1月に決まりました。

川上:40代って、お仕事も育児も大変な時期ですよね。精神的にはどのような影響がありましたか?

広瀬:当時は、笑顔づくりの仕事をしていて、メディアにも取り上げられるなど順調そのものでしたが、まず仕事を辞めなくてはならないと考えました。今でこそ、がんになっても仕事を辞めない、ということが知られるようになりましたが、当時はそのような状況ではなく、決まっていた仕事を全部キャンセルしました。

息子も当時中学1年生の多感な年頃だったので、母親としても気持ちは複雑で、本当に落ち込んでしまいました。とはいえ、手術まで2か月あったので、自分なりにいろいろと乳がんのことを調べたり、体力をつけようと走ったりして過ごし、手術を迎えました。

【がん治療がもたらした変化】

川上:手術を受けたことで、心境に変化はありましたか?

広瀬:まず、変わってしまった自分の胸を見るのが嫌で、耐えられませんでした。手術後はパニックになっていたので、正直、当時のことはあまり覚えていないくらいです。

退院後の日常生活で、以前はできていたことが、手術後にできなくなった、ということがいろいろと判明し、とてもショックを受けました。鬱状態になって精神科にも行き、適応障害の診断に内服薬を処方されたものの、効果はあまり感じませんでした。

手術後に抗がん剤、放射線治療、ホルモン療法を受けることになったのですが、抗がん剤治療をどうしても受ける気になれず、1か月時間をもらって大好きなハワイに行って気持ちを落ち着けて、4月から抗がん剤治療を開始しました。

脱毛しつつも、息子のために治療を頑張ろうと思っていました。

川上:抗がん剤の副作用はいかがでしたか?

広瀬:私が受けた抗がん剤は、AC療法(アドリアマイシンとシクロホスファミドという2種類の異なる作用機序の抗がん剤を組み合わせた治療)という治療で、脱毛しました。抗がん剤を始める前からウィッグを用意し、悩んだ末に、病院の美容室で丸坊主にしました。

でも、その他の副作用については、こまめに主治医に伝えていたこともあり、対策が功を奏ししてくれました。とくに吐き気を抑えるステロイドが魔法のように効いて、食欲は低下するどころか進んでしまって、食事が美味しくて10キロも太ったくらいです。

【がんと運動】

川上:副作用対策の効果があってよかったですね。抗がん剤治療中はどのように過ごされていましたか?

広瀬:幸い、脱毛以外の副作用はコントロールできていたこともあって、前向きに治療に取り組み、胸はなくなってしまったけれど元の運動機能を取り戻したい、と強く思うようになりました。

一方で、当時は、スポーツクラブでは治療中の患者は断られましたし、がん患者がリハビリや運動について相談できる場所はどこにもありませんでした。そんなとき、たまたま雑誌でニューヨークにある”MovingforLife”という団体を見つけたんです。この団体は、がん患者さんに運動を教える活動をしており、私に希望を与えてくれました。

川上:「これだ!」と。

広瀬:はい。絶対にニューヨークに行って、彼らから学び、日本でがん患者さんの運動を広めよう、と決めました。渡米する前に解剖学、生理学など基本的なことを日本で習得しておこうと、抗がん剤治療中に専門学校に通い、日本インストラクター協会認定フィットネスインストラクターの資格を取りました。

川上:抗がん剤治療中に?すごいパワフルですね。「がん」と「運動」というキーワードが広瀬さんの心に火をつけた感じですね。

【キャンサーフィットネスの設立】

広瀬:もともと運動は好きだったんですが、当時、Lance Armstrong財団(自転車レース「ツール・ド・フランス」で7年連続総合優勝を達成した、精巣腫瘍のサバイバー、Lance Armstrong氏が設立した、がん啓発団体)の活動も知り、日本でも活動している方がいて、一緒にウォークイベントを手伝ったりしていました。マラソン大会にも出たりしましたよ。完走の達成感はひとしおです。落ち込むようなことがあっても、運動すると気持ちも元気になるんです。

2012年には乳がんフィットネスの会を立ち上げその後、念願の渡米を果たし、Moving for Lifeで100時間の研修を受け資格を取りました。帰国後、乳がんだけでなく、どのがんでも運動が必要だと感じていたので、すべてのがんを対象に運動を広める団体として、2014年6月、キャンサーフィットネスを設立したんです。

川上:広瀬さんのほかにも、同じように、がん治療後のリハビリや運動について知りたい、身体を動かしたい、と思っていた方々も多くいらしたと思います。キャンサーフィットネスは、どんな活動をされているのですか?

広瀬:ニューヨークで学んだことを伝えるため、「動くからだ作り学講座」というタイトルで、2014年から毎年開催しておりますが、1年間にわたり、治療の影響を受けたからだをどのように動かしていくか?を解剖学、動作学をはじめ、さまざまな視点から、からだの動かし方を学んでいく講座を開催していますが、これが1番のキャンサーフィットネスの特徴です。たくさんの方が、ここで改善されています。

そのほかに、治療中・後の健康管理を学ぶ講座など、さまざまなプログラムを作り取り組みました。毎週、さまざまな運動教室も開催しました。株式会社アデランスのご厚意で会議室を無料で使用させていただいたり、ご縁のあったスポーツクラブでは定休日に朝から夕方までお借りして活動することができ、口コミもあり、たくさんの方が参加してくださるようになり、地方の認定インストラクターも増え、順調に活動を東京以外にも広めていけるようになっていました。

しかしながら、2020年の春に、新型コロナウィルスが蔓延し、対面でのプログラムをいったん取りやめなくてはなりませんでした。

川上:コロナ禍では活動はどうされていたのですか?

広瀬:試行錯誤し、まずはZoomの使い方を学ぶところから始めました。10クラス以上あった運動教室は2クラスまで減ってしまいました。2022年12月にオンラインサロンHello!を立ち上げ、現在はDMMのオンラインサロンのシステムを使って新しいプログラムを実施しています。座学の講座はZoomが便利でした。オンラインの活動になってから、全国から参加していただけるようになったことは、嬉しい誤算でした。

川上:コロナ禍でオンラインでの活動が急速に普及したことによって、良いこともたくさんあり、元に戻れない、戻せないこともありますよね。

【全国キャラバン~Move with me~】

広瀬:そうなんです。オンラインサロンでは現在、毎日の10分の運動配信や、専門家をお招きしてトークライブ、座談会に加え、月ごとのテーマ(5月は早起きフィットネス)に沿った配信もあり、充実したプログラムになってきております。またオンラインによって全国の方々と繋がることができ、また、インストラクター同士も密な絆ができました。それが、「がんと運動全国キャラバン」をコロナ明けの2023年6月から始めるのにとても役立ちました。

オンラインも良いですが、各地で実際に参加者と直接お会いできる良さもあり、また今年はちょうど団体設立から10周年になることもあって、2024年8月まで、全国13か所を巡る企画を進行中です。「運動」というと身構えてしまう方もいらっしゃるかな、と、” Move with me“というキャッチフレーズで展開しています。

2024年5月26日に北海道 東川町で開催したキャラバンの様子
北海道新聞にも掲載され、満員御礼の大盛況のキャラバンになりました。

川上:今年で10周年なんですね。今後の活動の展望についても教えてください。

広瀬:全国キャラバンを実施したことで、団体の中に有志メンバーが実行委員会という形を作ってくれたので、今後もこの活動が続いていけばいいな、と思っています。私も60歳を過ぎて、次の世代にバトンタッチすることも意識しなくてはならない状況ではありますが、なかなか難しいのが現状です。皆さん、私の活動への熱量を知っているから(笑)。オンとオフを精一杯楽しみながら、運動することの良さを伝えていきたいです。相変わらずチアダンス(全員ががんサバイバーのチアダンスチーム)もやっています。

川上:広瀬さんは、本当に楽しみながら活動をされているご様子が伝わってきます。いろいろとご苦労もあるかとは思いますが、広瀬さんを見ていると、自分も身体を動かしたい!と思います。最後に、オンコロ読者の方々にメッセージがあればお願いします。

広瀬全国キャラバンで各地でいろいろな方とお会いして思ったことは、主治医からは、治療後の副作用や日常生活での身体の困りごとについて助言されることはあまりないようだ、ということです。私たちの活動でお役に立てることがあれば、ぜひお手伝いさせてください。

また、退院後のがん患者リハビリテーション料の診療報酬の算定の要望書の署名活動をしております。こちら(https://forms.gle/GSYJVbtiXqw3GhuS7)から署名ができるようになっておりますので、ご賛同いただける方はぜひ、ご協力ください。

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