患者団体に聞く! NPO法人腺友倶楽部 武内務さん掲示板から始まった患者会活動 -治療の選択肢を知り、納得の選択を!-


  • [公開日]2023.11.03
  • [最終更新日]2023.10.31

はじめに

今回は、前立腺がんの患者会、NPO法人腺友倶楽部 理事長、「ひげの父さん」こと、武内務さんにお話を伺いました。

サードオピニオンで納得の治療、ブログで情報発信

川上:はじめに、武内さんご自身のがん体験について教えてください。

武内:前立腺がんの告知を受けたのは50代だった2004年、今から19年前のことです。
PSAは147という異常高値、病期は被膜外浸潤ありのT3、グリソンスコアはGS9、と悪性度も高かったのですが、幸い遠隔転移はありませんでした。
最初に受診した病院では、手術は難しいとの判断で、ホルモン療法を勧められました。セカンドオピニオンでも同じ意見で、治療しても5年生存率は2割とのことでした。他に方法がないものか、とサードオピニオンまで受診し、根治率は50%、という放射線治療の選択肢に出会うことができました。
当時はまだ保険適応になっていなかった強度変調放射線治療(放射線の照射中に照射野内の放射線の強さに強弱をつけ、腫瘍に対して集中的に照射を行うことができる方法)を、ホルモン療法併用で受けることができ、その後、無事に6-7年を過ごすことができました。

川上:サードオピニオンまで行動されて、放射線治療を受けることができたのですね。

武内:最初の病院も、セカンドオピニオンの病院も、放射線治療の選択肢の提示はありませんでした。サードオピニオン受診を求めていなかったら、知ることができていなかったかもしれません。
当時は浸潤前立腺がんの治療法について調べてもあまり情報はなく、情報収集のためパソコンの前に数週間座すという苦行を経てのサードオピニオン取得でした。
私が苦労して得た情報を、あとに続く同病患者の為に、役に立てることはできないだろうか、と治療を終え半年後に、患者がほんとうに欲しいと思われる情報を日米のサイトから掻き集め、 ”もしもあなたが”前立腺がん”を告げられたら・・・” を、「ひげの父さん」というハンドルネームでブログにアップしました。 一般患者向けの「前立腺がん情報」としては、当時どこよりも詳しい解説サイトだったと自負しています。

川上:それは多くの方に参考になったでしょうね。

武内:ブログを訪れてくれた方々と掲示板機能を通して交流をしたり、個別相談に応じて前立腺がんの疾患情報、治療の選択肢の紹介、治療可能な病院の情報提供等などをしていましたが、治療選択肢を知らされていない方は少なくなかったですし、なかには自分の病状を把握していない方もいました。

患者会を立ち上げて学びと交流の機会を創出

川上:ブログでの情報発信から、患者会を立ち上げたのはどのような経緯だったのですか?

武内:掲示板での交流が活発になってきたのと、ブログのコンテンツも増えてきたため、2012年頃に「腺友ネット」というWebサイトに情報をまとめました。そこに、私のほかにブログで情報発信している方々の情報も掲載したところ、1日200人くらいの方がアクセスしてくれるようになりました。
そのうちに「患者会を作ってほしい」との声が聞かれるようになり、2014年に「腺友倶楽部」を立ち上げると、すぐに120名ほどの会員があつまり、2016年4月にNPO法人化しました。

川上:腺友倶楽部ではどのような活動をされているのですか?

武内:患者会結成の翌年から、ほぼ毎年、講師を招いて「前立腺がんセミナー 患者・家族の集い」を開催しています。遠方から参加してくれる方もいて、セミナー開催後の懇親会では、普段はメーリングリストで交流していた会員同士がリアルな交流で盛り上がります。こうした交流は会員にとっても大切な時間だと思っています。

川上:前立腺がんは男性特有のがんなので、女性のようにグループで集まって体験を分かち合ったり情報交換したり、といった機会はなかなかなさそうですものね。

武内:コロナ禍以降はZoomが普及してきたこともあり、オンラインでの交流会「腺友サロン」も月に1回、開催しています。進行度別にグループ分けして交流できる機会が好評です。患者会の活動としてはサロンのほか、年1回、会報を出版し、全国の病院に送付もしています。
※会報は、「腺友倶楽部」のWebサイトから、どなたでもダウンロードが可能です。
また、2018年からは、ひげを男性がんのシンボルと見なす男性がんの啓発運動と、各分野の専門医による男性がん総合フォーラム「Mo-FESTA CANCER FORUM」を開催してきました。過去のセミナーやMo-FESTAの動画のアーカイブについても、YouTube「Mo-CHANNEL」(腺友倶楽部の動画サイト)で視聴できるようにしています。

会報のイメージ

患者会のやりがい

川上:患者会をやっていて良かった、ということはありますか?

武内:情報発信を始めた動機は、患者がきちんと治療の選択肢を知った上で、納得のいく治療を選ぶことが大切だと思ったからです。前立腺がんの医療情報は、泌尿器科と放射線治療科の両分野に跨っており、総合的な情報収集が難しいと感じています。
それぞれの医療情報を患者に漏れなく公平に届けることに注力していますが、腺友倶楽部の情報発信を通して、治療の選択肢を知った方も多く、お役に立てているのは嬉しい限りです。個別相談への対応や会の運営は正直、多少しんどいこともありますが、会員のなかで経理や事務などをサポートしてくれる方もいるので、なんとかやれています。

川上:情報発信のほか、社会に向けた活動などはありますか?

武内:海外では実施されていて、まだ日本では承認されていない治療として、進行した去勢抵抗性前立腺がんに対するPSMA治療(Prostate Specific Membrane Antigen:前立腺細胞の表面に存在するタンパク質に特異的に結合する物質に放射性物質を組み合わせて、癌細胞だけに放射線を届かせる治療)がありますが、これを日本でも実施できるよう、日本核医学会と連携し国に要望を出したりもしています。ただ、日本は放射線に関する規制が厳しく、承認までは少し時間がかかりそうです。

2023年11月23日(祝)Mo-FESTA CANCER FORUM 2023 開催

川上:さいごに、今年のMo-FESTA CANCER FORUMについて教えてください。

武内:今年も日本泌尿器腫瘍学会との共催で、東京の神保町で開催します。PSA検査、診断と治療、手術から放射線治療に加え、サバイバーシップまで取り上げて1日がかりで前立腺がんを学べる企画です。終了後には、中華料理店で懇親会もありますので、ぜひ、ふるってご参加ください。
内容やお申し込みなど詳細は、Mo-FESTA CANCER FORUM 2023公式Webサイトからお願いいたします。

川上:コロナ禍が明けて、リアルに会場に集って開催できるので、楽しみですね。盛会をお祈りしています。本日はありがとうございました。

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