脳腫瘍(膠芽腫)を対象とする免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブの第2相試験 SNO


  • [公開日]2016.12.12
  • [最終更新日]2017.06.29

膠芽腫は神経膠腫(グリオーマ)の中で最も悪性度が高く(グレード4)、すべての神経膠腫のうち膠芽腫は約36%を占める。病理診断上の悪性度によりグレード1からグレード4まであり、グレード3の退形成星細胞腫と退形成乏突起神経膠腫、グレード4の膠芽腫が特に悪性グリオーマとされる。頭痛や痙攣、運動麻痺、認知症症状などの症状が急速に悪化し、発症からの生存期間中央値は1年程度とされる。組織学的、病理学的に多彩な形態を示す多形膠芽腫(GBM)は極めて悪性度が高い。

米国で2016年11月17日から20日に開催された第21回神経腫瘍学会議(SNO)で、PD-L1抗体デュルバルマブの多形膠芽腫(GBM)患者を対象とする第2相試験で、デュルバルマブ単剤の治療6カ月後、30人中6人が無増悪状態を維持していたと発表された。すなわち、6カ月無増悪生存率PFS-6)が20%で、この値はベバシズマブ(商品名アバスチン)が登場する前のヒストリカルデータ(PFS-6は10%)を基準にすると2倍に上昇したことになる。米国Dana-Farberがん研究所のDavid Reardon氏が発表した。2016年11月19日、OncLive にReardon氏へのインタビュー記事も掲載され、抄録(データカットオフ2016年2月5日)作製時よりも最新のデータ(同2016年6月30日)が紹介された。

対象はベバシズマブ治療歴のない再発患者、デュルバルマブ単剤治療の有効性と安全性

本試験(NCT02336165)は米国、オーストラリアで2015年に開始された非無作為化非盲検試験で、再発の多形神経膠芽腫(GBM)の適応で承認されている血管新生阻害薬ベバシズマブの治療歴がない再発GBM患者31人を登録し、デュルバルマブ単剤の治療を実施した。デュルバルマブは10mg/kgを2週ごとに静注した。

2015年3月5日に最初の患者に投与され、2016年6月30日のデータカットオフで、デュルバルマブの治療期間中央値は11.1週間、投与回数の中央値は6.0回であった。

有効性解析対象30人で、主要評価項目である治療6カ月後の無増悪生存率(PFS-6)は20.0%(6/30人)であった。無増悪生存(PFS)期間中央値は13.9週間であった。全生存期間OS)中央値は28.9週間、6カ月後、12カ月後の全生存率はそれぞれ59.0%、44.4%であった。全奏効率は13.3%で、4人に部分奏効(PR)が得られた。病勢安定SD)の14人(46.7%)を含めると、病勢コントロール率は60.0%(18/30人)となった。

なお、6カ月後も無増悪状態を維持していた6人のうち、最新データでは5人は1年を超えてその状態を維持し、残り1人も48週間を維持していた。

安全性解析対象31人で、グレード4またはグレード5の治療関連有害事象は認められなかった。また、免疫関連毒性や有意な臨床検査値異常も認められなかった。グレード3の治療関連有害事象はリンパ球数減少(1人)、頭痛(1人)、およびめまい(1人)であった。

以上、ベバシズマブ治療歴がなく、再発した多形神経膠芽腫(GBM)患者に対するデュルバルマブの忍容性は良好で、単剤で奏効例を認めたこと、生存ベネフィットが得られたことは有望な結果であると結論された。

デュルバルマブは、リンパ球に発現するPD-1に結合するヒトIgGモノクローナル抗体で、PD-1と腫瘍に発現するリガンドPD-L1との相互作用に介入することにより、T細胞が腫瘍を認識し攻撃するように誘導する。抗腫瘍免疫を介した効果が期待される免疫チェックポイント阻害薬である。GBMの腫瘍患部には多数のリンパ球が浸潤し、PD-1リガンドPD-L1は腫瘍の61%から100%に発現しているとされる。

膠芽腫とIDH1遺伝子変異の関連

2008年、神経膠腫患者にはイソクエン酸脱水素酵素(IDH)の遺伝子変異が多く、変異型の膠芽腫は野生型の膠芽腫と比べ予後が良好であると報告された。IDHは細胞のエネルギー産生を担うクエン酸回路を進行させる酵素で、膠芽腫患者で認められるIDH変異は、ミトコンドリア内で機能するIDH2よりも細胞質で機能するIDH1の方が多い。

IDH1/2遺伝子変異が神経膠腫の予後因子となる根拠について、十分な解明には至っていないが、その可能性はその後の研究に大きく寄与し、2016年、神経膠腫をまずIDH1/2変異の有無により分類するという世界保健機関(WHO)改訂の柱となった。

本試験で、無増悪生存(PFS)期間が1年前後に達した6人中、3人はIDH1遺伝子が野生型で、残り3人はIDH1遺伝子が変異型であった。全31人のIDH1遺伝子検査では、変異型が4人(12.9%)、野生型が22人(71.0%)、不明が5人(16.1%)であった。本試験では対象患者数も少なく、これまでの結果のみで考察することは難しいが、今後のデータの蓄積により一定の知見が得られると期待される。

ATIM-04. PHASE 2 STUDY TO EVALUATE THE CLINICAL EFFICACY AND SAFETY OF MEDI4736 (DURVALUMAB [DUR]) IN PATIENTS WITH GLIOBLASTOMA (GBM): RESULTS FOR COHORT B (DUR MONOTHERAPY), BEVACIZUMAB (BEV) NAÏVE PATIENTS WITH RECURRENT GBM

記事:川又 総江

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