写真はイメージです。(AIによる生成)プロフィール
お名前:清水佳佑さん(本名)
年代:40代
性別:男性
家族構成:妻と子ども2人との4人暮らし
仕事:フリーランスデザイナー、肺がんHER2「HER HER」発起人
がんの種類:非小細胞肺がん(肺腺がん)
診断時ステージ:ステージ3B
診断年:2017年
現在の居住地:滋賀県
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用には個人差があります。オンコロマイストーリー含め、ネット上の情報には、進行や再発といった厳しい闘病を経験された方の発信が多く残る傾向がありますが、実際には再発なく平穏に過ごされている方も数多くいらっしゃいます。情報の一つとして受け止め、治療方針の決定の際には、必ず主治医や医療従事者にご相談ください。
2017年、清水佳佑さんは、幼い2人の子どもを育てる中で肺腺がんと診断されました。当初は治療方針に悩み、病状が悪化して入退院を繰り返す苦しい時期もありましたが、正しい医療情報との出会いとさまざまな治療を経て、現在は免疫療法を続けながら日常を送っています。ご自身の過酷な闘病経験を背景に、がんになった親が子どもに病院のことを伝えることもできる「お父さんえほんプロジェクト」を立ち上げ、一冊の絵本を完成させました。病気の発覚から現在に至るまでの心の変化や、共に制作を進めた亡き仲間たちの思いを引き継いで取り組む患者支援活動についてお話しいただきました。
健康診断での異常発見と標準治療への抵抗
2016年12月、会社の健康診断で受けた胸部レントゲン検査で影が見つかりました。すぐに再検査となり、CT検査を受けたところ、縦隔腫瘍の疑いがあると診断されました。その後、大学病院を紹介され、組織検査や脳のMRI、PET検査などさまざまな精密検査を受けた結果、年が明けた2017年2月に肺腺がんのステージ3Bと診断されました。 担当医からは、標準的な治療として化学放射線治療を勧められました。しかし、当時の私は「抗がん剤=怖いもの、体を壊すもの」といった偏った知識や、インターネット上の不確かな情報に強く影響を受けており、化学療法を受けることにどうしても強い抵抗がありました。そのため、すぐに標準治療を開始することはせず、会社を休職し、まずは生活習慣を改めることから始めました。食事療法や栄養補助食品を取り入れたり、免疫力を高めるとされる治療を積極的に試みたりして、なんとか抗がん剤を使わずにがんを治せないかと模索する日々が始まりました。命の危機から標準治療と治験を経て現在の治療へ
標準治療を先延ばしにして代替療法などに頼っている間、病状は確実に悪化していきました。心臓の周りに水が溜まる「心タンポナーデ」を何度も繰り返すなど、絶えず命の危機と隣り合わせの状況に陥りました。そうした中で、大学病院で研究の一環として行われていた遺伝子パネル検査を受けました。その結果、HER2遺伝子変異が発見され、それと同時にHER2をターゲットとした治験の存在も知りました。 体力が限界に近づいてきたころ、私は大きな転機を迎えました。がん患者の学会やセミナーに参加し、専門医の講演や正しい情報に直接触れる機会を得たのです。そこで、科学的根拠に基づいた標準治療こそが、患者にとって最も効果が期待できる最善の治療であるという事実をようやく理解することができました。耳障りの良い不確かな情報に振り回され、結果的に自分の身体を危険にさらしてしまったことに気づかされました。 この学びを機に、2017年12月からは大学病院でカルボプラチンとアリムタを用いた抗がん剤治療を正式にスタートさせました。4クールの治療を経て、2018年3月からはアリムタ単剤での維持療法へと移行しました。一時期は病状が良くコントロールされている状態となり、計15クールにわたって治療を続けることができました。 1年余りにわたって標準治療を続けましたが、最終的にがんの増悪が認められました。そのため、2019年2月からHER2を対象とした治験に参加しました。この治験薬がよく効いて、一時は完全奏効となり、2023年9月に治験を無事卒業できたものの、2026年2月にリンパ節への局所的な再発が発覚しました。根治を目指して約1か月間の入院で放射線と抗がん剤による治療を行い、同年5月からは免疫療法として月に1回、イミフィンジの点滴投与を続けています。現在は目立った副作用もなく、フリーランスのデザインの仕事や患者支援の活動を無理なく行える状態を保てています。子どもたちへ遺すための絵本プロジェクトの立ち上げ
こうした治療を続ける中で、私は正しい医療情報を得ることの重要性を痛感しました。また、「アドボカシー(患者の権利擁護・政策提言)」の概念に触れ、自分にできる社会貢献を模索し始めました。国立がん研究センターのがん対策情報センターにおける「患者・市民パネル(第6期)メンバー」として活動に参加したほか、同じ遺伝子変異を持つ患者同士が情報交換できる場所が必要だと感じ、HER2遺伝子に特化した肺がんHER2「HER HER(ハー ハー)」を立ち上げるなど、少しずつ患者支援の活動に取り組むようになりました。 自身の治療が落ち着きを取り戻していく中で、私はある強い思いを抱くようになりました。私ががんの告知を受けたとき、息子たちはまだ1歳と4歳でした。デザインの仕事をしてきた私は、幼い子どもたちに向けて何か形に残るもの、特に「絵本」を残しておきたいという願いをずっと持ち続けていました。 2020年、子どもを持つがん患者のためのオンラインコミュニティ「キャンサーペアレンツ」に参加した際、コミュニティ内で絵本を作る「えほんプロジェクト」が立ち上がっていることを知りました。第1弾として、お母さんの視点から描かれた絵本「ママのバレッタ」がすでに制作されていたため、私は「次はぜひ、お父さんの視点で作ってみてはどうか」と提案し、2021年2月に「お父さんえほんプロジェクト」を立ち上げました。 コミュニティ内で呼びかけたところ、私と同じように幼い子どもを持つ同年代の男性患者である2人のお父さんが賛同してくれました。私たちは月に1回オンラインで集まり、意見を出し合いながら、どのような絵本にするか構想を練っていきました。がんを抱える父親として、子どもに病気のことをどう伝えるべきか、あるいは伝えないべきか。悩みを共有しながら、親子のコミュニケーションのきっかけとなるような作品を目指しました。制作に立ちはだかった壁と温かい支援
しかし、絵本を具体的な形にしていくまでには、いくつかの大きな壁が立ちはだかりました。課題のひとつに、イラストをどなたにお願いするかということでした。私たち3人は絵本のアイデアを出すことはできても、自ら本格的な絵を描くプロではありませんでした。 しっかりとしたクオリティのものを世に出すために、私は以前一緒に仕事をしたことのあるプロのイラストレーターのサタケシュンスケさんに相談を持ちかけました。そのサタケさんは「お金は後からでもいいから描きますよ」と快く引き受けてくれようとしました。しかし、私はプロの仕事に対して無償でお任せするのは心苦しく、きちんと予算を確保した状態でお任せしたいと悩んでいました。 ようやくいけそうだと見通しが立ったのは、たまたまインタビュー調査を通じて知り合った、マーケティングリサーチ会社のピーエムリンク代表の田口さんとの出会いでした。その方が私たちの思いと絵本の意義に強く共感してくださり、「ぜひイラストレーションの費用を支援させてください」と申し出てくださったのです。このご支援がなければ、イラスト制作のステップに進むことはできませんでした。 また、サタケさんご自身も、ご家族にがん患者がいたこと、東日本大震災の被災経験から防災デザインの仕事を手がけるなど、社会的課題への理解が非常に深い方でした。リアリティを持たせるため、私が通院している大学病院に一緒に足を運んでもらい、実際のがん治療の現場の雰囲気や医療設備を直接見学していただいた上で、イラストを描き上げていただきました。亡き仲間との想いが詰まった絵本の完成
プロジェクトは順調に進みましたが、悲しい出来事もありました。一緒に企画を進め、熱心にアイデアを出し合っていたお二人が、残念ながら絵本の完成を待たずに他界してしまったのです。深い喪失感に襲われましたが、彼らと語り合った想いは、完成した絵本の隅々にまで息づいています。 私たちが絵本を作る上で目指したのは、親ががんになったことや、がんとはどのような病気なのかを子どもにどう伝えればいいか悩む親たちのための、「お父さんの目線から伝えられるコミュニケーションツール」にすることでした。そのため、絵本は「病院内でいなくなったお父さんを探す」というストーリーを中心に据えていますが、単に「お父さんを探す」だけの物語ではありません。 子どもにとって、病院はとっつきにくく怖い場所になりがちです。しかし、親が病気になると、病院は日常の一部になります。だからこそ、「病院には助けてくれる人がたくさんいる」「こういう設備がある」ということを子どもたちにも正しく知ってほしいと考えました。作中では、お父さんを探しながら採血室や検査室などの役割をわかりやすく説明し、病院について正しく学べる要素を盛り込んでいます。さらに、イラストレーターのサタケさんのアイデアで、隠しキャラクターとしてさまざまな動物たちを配置し、子どもが楽しみながら学べるバランスを大切にしました。出版社の方とも編集会議を重ね、親子の対話のきっかけとなり、学びの要素もうまく融合した立派な絵本を完成させることができました。疾患を越えて広がる絵本の反響と活用
出版後、実際にこの絵本を手にとってくださった方々から、多くの反響をいただきました。「自分の病気や治療について、子どもに説明しやすくなった」という同じがん患者の方からの声はもちろんのこと、予想外の使われ方も耳にしました。 あるとき、心臓病の手術を控えたお父さんが、これから自分がどんな場所で何をするのかを子どもに伝えるために、この絵本を読み聞かせたというお話を伺いました。絵本の手術室のシーンを見せながら「お父さんは今度、こういうところで手術をするんだよ」と伝えたところ、子どもがすんなりと状況を理解してくれたそうです。がんという特定の疾患に限らず、病院という非日常の空間を子どもに優しく伝える普遍的なツールとして役立っていることを知り、私たちが込めた想いがしっかりと届いているのだと大変嬉しく思いました。 また、別の読者さんからは、「がん拠点病院を紹介してくれる身近なクリニックの先生が、子どもに向けて『これからお父さんはこういう大きな病院に行くんだよ』と説明する際にも非常に役立つ」というご意見もいただきました。現在、この絵本を全国に468か所あるがん診療連携拠点病院に1冊でも多く寄贈するため、協賛企業や個人を募るプロジェクトを行っていますが、今後は大きな病院だけでなく、街の小さなクリニックや公共の図書館、学校の図書室など、より多くの子どもたちが集まる場所へこの絵本を届けていきたいと考えています。 病気を経験して、いつ何が起こるかわからないという死生観を持つようになりました。だからこそ、今自分にできること、やりたいことに全力を注ぎたいと思っています。絵本を広める活動と並行して、私自身が立ち上げた患者コミュニティの肺がんHER2「HER HER」などを通じて、孤独を感じている患者さん同士をつなぎ、正しい情報を共有する活動も続けていきます。これからも、病気になっても前を向いて歩んでいける社会づくりに、自分なりのペースで貢献していきたいです。今、がんと向き合っている方へのメッセージ
今、がん治療をしている方にお伝えしたいことがあります。 正しい情報を得て、納得できる治療を選んでください 私自身、告知直後はパニックになり、インターネット上の不確かな情報に飛びついて、効果が証明されていない代替療法に時間を費やし、標準治療への理解が遅れてしまった苦い経験があります。治療において最も大切なのは、科学的根拠に基づいた正しい情報を知ることです。主治医との対話や、がん情報サービスやがん相談支援センターなどを活用し、ご自身が心から納得できる治療を選択してください。 決して一人で抱え込まずに周囲を頼ってください がんの治療中は、どうしても孤独を感じやすくなります。しかし、周りを見渡せば患者会やオンラインのコミュニティ、支援してくれる機関や相談窓口がたくさんあります。決してあなたは一人ではありません。「周りに頼ってもいいんだ」という気持ちを持ち、周囲の人や同じ境遇の仲間に頼りながら、前向きに治療に取り組んでいってほしいと願っています。関連リンク
絵本『どこだ?パパ』 ゆまに書房 https://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843373002 公式サイト https://dokodapapa.com/がん体験に関するインタビュー参加者募集中
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