写真はイメージです。(AIによる生成)プロフィール
お名前:心愛さん(ニックネーム)
年代:50代
性別:女性
家族構成:1人暮らし(子どもは独立、夫とは死別)
仕事:会社員
がんの種類:大腸がん(下行結腸)
診断時ステージ:ステージ3B
診断年:2022年
現在の居住地:長崎県
試験フェーズ:第3相
試験参加時の治療ライン:周術期治療(術後補助療法)
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用には個人差があります。オンコロマイストーリー含め、ネット上の情報には、進行や再発といった厳しい闘病を経験された方の発信が多く残る傾向がありますが、実際には再発なく平穏に過ごされている方も数多くいらっしゃいます。情報の一つとして受け止め、治療方針の決定の際には、必ず主治医や医療従事者にご相談ください。
※本記事は、新薬の承認取得を目的とした「治験」ではなく、がん治療の発展を目的として行われた臨床研究(医師主導臨床研究)への参加体験です。
2022年、腹痛や血便をきっかけに大腸がんステージ3Bと診断された心愛さんは、術後に腫瘍内科の医師から臨床研究への参加を提案されました。それは、血液中の腫瘍DNA(ctDNA)が陰性である患者を対象に、再発予防の術後補助化学療法を行うグループと、手術単独(経過観察)のグループに分けて治療の必要性を比較する臨床研究でした。以前から新薬の開発などに関心があり、「誰かの役に立てるなら」と臨床研究への参加を即決した心愛さん。結果として術後補助化学療法を行うグループに割り付けられ、つらい副作用を経験したものの、手厚いサポートを受けながら治療を完遂。臨床研究の参加を通して感じた、医療の発展に向けた思いについてお話しいただきました。
臨床研究を知ったきっかけ
数年前から会社の健康診断で便潜血の異常を指摘されていましたが、「便潜血検査は引っかかりやすいから大丈夫だろう」と自己判断して放置していました。しかし、2022年に入ったころからひどい腹痛と血便が続くようになり、近所のクリニックを受診しました。紹介先の総合病院で詳しい検査を受けた結果、大腸がん(下行結腸)のステージ3Bと診断されました。同年9月半ばに腹腔鏡手術を受け、がんは無事に切除することができました。
手術が終わり、入院生活も落ち着いていたころ、術後の治療を担当する腫瘍内科の医師から臨床研究の提案を受けました。それは、手術でがんを完全切除できた大腸がん患者のうち、最新の検査で血液中にがん細胞由来のDNA(ctDNA)が検出されなかった(陰性であった)人を対象とした、複数の国の医療機関が参加する第3相試験でした。
通常、ステージ3の大腸がんの手術後は、再発を防ぐために抗がん剤治療を行うのが標準治療とされています。しかし、この臨床研究では、患者を「約3か月間の術後補助化学療法を行うグループ」と「術後補助化学療法を行わず、手術単独で経過観察のみを行うグループ」にランダムに分け、再発率や生存率に違いが出るのかを比較するという内容でした。
「もしctDNAが陰性であれば、再発リスクが低いため、つらい抗がん剤治療を行わなくても再発率は変わらないのではないか」という仮説を検証し、今後の患者さんが不要な治療を受けずに済むようにするための重要なデータを集めることが目的だと説明を受けました。
私自身、以前からSNSなどで新薬の臨床研究や治験に関する話題を目にする機会があり、関心を持っていました。そのため、医師から臨床研究の話を聞いたときは、「あ、こういう病気の手術後にも臨床研究があるんだな」と思ったくらいで、すんなりと話を聞くことができました。
臨床研究への参加を決めた理由
臨床研究や治験と聞くと、「未知の薬を試されるのではないか」「人体実験のようで怖い」といったネガティブなイメージや不安を抱く方も少なくないかもしれません。しかし、私の中にはそうした迷いや抵抗感は全くありませんでした。むしろ、「もし自分にもチャンスがあって、誰かのお役に立てることがあるのなら、いつか参加してみたい」と以前から前向きな思いを抱いていたため、「ついに私にも、誰かの役に立てる機会が来た」とすんなり受け入れることができました。
最終的な臨床研究への参加の決め手となったのは、腫瘍内科の先生からの言葉でした。先生は「この臨床研究は希望すれば誰でも参加できるわけではないんです。年齢やこれまでの病歴、がんのステージ、手術で完全に取り切れたかどうか、そして血液検査の条件などを総合的に考慮して、対象になりそうな方にお話ししているんですよ」と教えてくれました。
その言葉を聞いて、「誰でもいいわけではないのに、私に声をかけてくださったのだから」と、参加への意思がさらに強くなりました。「私で役に立つなら参加したい」と先生に伝え、その日の診察で同意書にサインしました。
また、この臨床研究は患者の意志で治療法を選ぶことはできず、システムによって完全にランダムにグループが割り付けられる仕組みでした。どちらのグループになるかは、私にも担当の先生にも事前にはわかりません。しかし、「どちらのグループに割り付けられても、そのデータが未来の誰かの役に立つのであれば全く構わない」と思っていました。仮に治療を行うグループになったとしても、「標準治療をしっかり受けられるのだから安心」という感覚だったため、結果を冷静に受け止める覚悟はできていました。
臨床研究に参加して大変に感じたこと
数日後、割り付けの結果が出て、私は「術後補助化学療法を行うグループ」に割り付けられました。これにより、点滴薬と飲み薬を併用する治療を、約3か月間にわたって受けることになりました。
臨床研究に参加して最も驚き、大変だと感じたのは、毎回提供する血液検体の量がとても多かったことです。この臨床研究ではctDNAの解析などが重要になるため、通常の診察用の採血に加えて研究用の検体が必要でした。そのため、毎回6~8本ほどの採血管に血液を採取されました。初めて見たときは「うわ、こんなにたくさん取るの?」と驚きましたが、このデータが未来の医療の役に立つのだと言い聞かせて乗り越えました。
また、抗がん剤によるつらい副作用もありました。私の自宅は臨床研究を実施している病院から遠かったため、毎回2泊3日の入院で点滴を受け、退院後は自宅で2週間服薬するというサイクルを4回繰り返しました。1回目の治療後は激しい吐き気と倦怠感で寝込んでしまいましたが、2回目の入院時に担当の先生に「きついです」と正直に相談したところ、すぐに薬の量を2割ほど減らして調整してくれました。点滴時の血管の痛みや手のしびれなどはありましたが、先生の素早い減薬対応のおかげで、無事に3か月間の治療を乗り切ることができました。
臨床研究に参加してよかったこと
すべての治療と臨床研究の期間を終え、経過観察に入った現在、臨床研究に参加したことに対する後悔は全くありません。むしろ、参加して本当に良かったと心から思っています。
臨床研究に参加してよかったことのひとつは、医療スタッフの手厚いサポートを受けられたことです。そもそも、私がこの臨床研究に参加しようと思えたのは、治療を担当してくれた腫瘍内科の先生への信頼があったからです。その先生は、私が手術を受けて入院していた2週間の間、毎日病室へ様子を見に来てくれました。
さらに、診察の際にはいつも臨床研究コーディネーターの女性スタッフが同席していました。彼女は診察のたびに「体調は大丈夫ですか?」「何か困っていることや大変なことはないですか?」と細やかに声をかけてくれました。また、毎回量の多い採血の際にも必ず採血室まで一緒に来てくれて、専用のラベルを貼った採血管を準備するなど、煩雑な事務手続きをスムーズに進めてくれました。先生と臨床研究コーディネーターの方が常に寄り添ってくれたおかげで、孤独を感じることはありませんでした。
後日、担当の先生に「あの臨床研究は進んでいるんですか?」と尋ねたところ、「まだ最終結果は出ていないけれど、研究データから傾向が見え始めているよ」と教えてもらいました。
私が割り付けられたのは「術後補助化学療法を行うグループ」だったため、結果的に3か月間のつらい副作用を経験することになりました。しかし、私がこの臨床研究に参加し、身をもってデータを提供したことによって、近い将来、同じ条件の大腸がん患者さんが、あの苦しい抗がん剤治療を受けずに済むようになるかもしれないのです。そう考えると、自分の副作用の経験が決して無駄ではなかったと思えます。自分の提供した血液とデータが、これから病気に向き合う人たちの負担を減らすためのひとつになれたのだと実感しています。
臨床研究の参加前に知っておきたかったことと実際に体験したイメージ
臨床研究に参加する前に特別に知っておきたかったことや、後から知って驚いたようなことは特にありませんでした。強いて言えば、抗がん剤治療が始まる前に「副作用で髪の毛は抜けますか?」という点だけが気になっていましたが、先生に質問したところ「今回使うお薬は、脱毛の可能性は低いタイプの薬ですよ」と事前に答えてもらえていたため、不安なく臨むことができました。
臨床研究に対するイメージは、参加する前と後で大きく変わることはありませんでした。臨床研究や治験に対して「人体実験のようで危険だ」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実際には全く違いました。治療中の体調変化や安全面は常に注視されており、何かあればすぐに対応してもらえる体制が整っています。医師や臨床研究コーディネーターによる体調管理も通常の治療以上に徹底されており、患者の安全が何よりも優先されているシステムであることを、身をもって体験することができました。
臨床研究に関わる医療者や未来の医療への思い
今回、私が無事に臨床研究を完遂できたのは、細やかな配慮と手厚いサポートをしてくださった主治医の先生や臨床研究コーディネーターのおかげです。心から感謝しています。新しい薬や、より患者の負担が少ない治療法というものは、多くの方のたゆまぬ研究と、それに賛同してデータを提供する患者の協力があってこそ少しずつ開発され、確立していくものです。
新しい薬や治療法は、臨床研究や治験というプロセスを経て開発されていきます。自分の経験が、未来の医療に貢献する一助になればと思っています。
臨床研究や治験を検討されている方へのメッセージ
今、臨床研究や治験への参加を検討されている方にお伝えしたいことがあります。
臨床研究や治験は治療の選択肢のひとつです
最初から「怖い」「未知の薬だ」というイメージだけで選択肢から外してしまうのはもったいないと思います。まずは選択肢のひとつとして検討してみることで、ご自身の治療の幅を広げることができます。
まずは詳しい話を聞いてから判断しても遅くはありません
臨床研究や治験に参加するかどうかは、決して強制されるものではありません。医師から提案を受けたとしても、その場で決めなければならないわけではありません。まずは医師や臨床研究コーディネーターから詳しい説明を聞き、メリットやデメリット、どんな負担があるのかをしっかりと理解した上で、ご自身が納得してから参加するかどうかを判断しても遅くはないと思います。まずは話を聞いてみてください。
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