写真はイメージです。(AIによる生成)プロフィール
お名前:ゆりさん(ニックネーム)
年代:60代
性別:女性
家族構成:夫と娘との3人暮らし(子ども1人は独立)
仕事:求職中(診断時は会社員)
がんの種類:乳がん
診断時ステージ:ステージ0
診断年:2017年
現在の居住地:福岡県
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用、生活への影響には、個人差があります。医療的な判断や治療方針の決定の際には、必ず医師・医療従事者にご相談ください。
2017年、ゆりさんは職場の人間ドックを受診し、超音波(エコー)検査で異常を指摘されたことをきっかけにステージ0の乳がんと診断されました。乳房の全摘出と自家組織を用いた再建手術を受ける決断をし、他人のプライベートに対する好奇心が強い職場の環境を考慮し、病名を伏せたまま手術に臨みました。乳がんの経験を通して「自分を後回しにする生き方」を見つめ直し、会社を早期退職してヨガや演技の勉強を始めるなど、新たな人生のスタートを切っています。ご自身で納得のいく治療法を選び取った経緯と、病気を経て変化した人生観についてお話しいただきました。
病院選択の基準はすぐに受診できることと評判の良さ
私は会社員としてフルタイムで働きながら、毎年7月に会社の人間ドックを受診していました。2016年の検査では全く異常がありませんでしたが、2017年7月に受けた人間ドックのエコー検査で、胸に影のようなものが見つかりました。マンモグラフィの画像にははっきりと写っていませんでしたが、エコー検査の結果から、約1週間後に「すぐに大きな病院を受診してください」と電話で連絡を受けました。
紹介先の病院として3つの候補を提示され、私は近所の評判と受診の早さを基準に選びました。1つはあまり評判が良くない病院、もう1つは別の患者さんが「3か月待ち」と言われた病院でした。3つ目の総合病院は電話をするとすぐに診てもらえるということだったため、そこに決めました。後になって、同僚がひとつ目の病院を選んだ際、検査機器が揃っておらず別の施設に行かなければならず苦労していたのを知り、この総合病院を選んだ自分の判断は正しかったと感じました。7月の終わりに受診し、初診の日に「どうせやらなければならないから」という医師の提案で、そのまま生検とMRI検査を受けました。
仕事を優先し、全摘出で治療を終える選択
生検から数日後、私は一人で検査結果を聞きに行きました。仕事がありましたし、結果を聞くだけのために家族に付き添ってもらう必要はないと考えたからです。医師からは乳がんのステージ0と告知されました。詳しいサブタイプについての説明はありませんでしたが、非浸潤がんという早期であり、治療が難しい状態ではないと説明を受けました。
医師から提示された治療の選択肢は2つありました。1つは乳房を部分切除し、術後に約5週間にわたる放射線治療などの通院治療を定期的に行う方法です。もう1つは、乳房を全摘出し、その後は通院での治療は一切行わないという方法でした。私は平日の9時から17時まで会社員として働いており、術後に何度も通院して長期間の治療を続けるのは生活や仕事への支障が大きいと考えました。そのため、できるだけ短い期間で治療を終わらせるため、全摘出をその場で希望しました。
待合室の本で得た知識をもとに、自家組織による同時再建を希望
私が告知の場で迷うことなく全摘出を選び、さらに自分から次の行動を起こせたのには理由があります。実は、生検を終えてから検査結果を待つ数日間のうちに、病院の待合室に置いてあった乳がんに関する本を読んで、あらかじめ知識を蓄えていたからでした。多くの患者さんに読まれてボロボロになっていたその本には、乳がんのサブタイプや治療法だけでなく、術後のきれいな胸の写真とともに「乳房再建」という選択肢があることが詳細に書かれていたのです。
そのため、担当の乳腺外科の医師から全摘出についての説明を受けた際、私の方から本で得た知識を基に「再建手術をしたい」と希望を伝えることができました。すると、医師もすぐに理解してくださり、その日のうちに形成外科へ案内され、担当の医師と面談することができました。形成外科の医師は非常に技術が高く、何でも器用にこなす先生でした。
再建方法には人工物(インプラント)を入れる方法と、自分の組織(自家組織)を使う方法がありました。インプラントは寿命が約10年と言われており、将来的なメンテナンスが必要なことや、人にぶつかった際に破損するリスクを避けたかったため、私は自家組織での再建を選びました。私は胸が小さかったため、お腹の脂肪ではなく背中の広背筋を使った再建が可能だと言われ、全摘出手術と同時に皮膚を伸ばすための組織拡張器(エキスパンダー)を入れる手術を受けることになりました。
手術のための入院は、お盆休みの旅行として休暇申請
2017年8月8日に、乳房の全摘出とエキスパンダーを挿入する1回目の手術を受けました。お盆休みの時期と重なっていたため、スケジュールの都合が非常によく合いました。エキスパンダーを入れて皮膚を伸ばしている期間は、冷たいビールを飲むと、エキスパンダーがある胸のあたりに冷たい水が流れていくような不思議な感覚がありました。その後、約半年が経過してスペースが十分にできたのを確認し、2018年2月にエキスパンダーを抜いて背中の筋肉を移植する2回目の手術を行いました。
当時勤めていた職場は、他人のプライベートに対する好奇心が強く、病気のことを正しく理解してもらうのは難しい環境でした。そのため、最も親しい友人一人にだけ事実を伝え、職場には病名を一切伏せ、「旅行に行ってくる」とだけ伝えて休みを取りました。
自家組織による再建後、エステ通いで取り戻した自信
自家組織の移植を終えてからしばらく期間を空け、乳頭の再建手術も行いました。乳頭は非常にデリケートなため、服や人に触れて圧迫されないよう、プラスチックのカップのようなものを当てて保護しながら生活しました。
私は以前からエステやマッサージに行くのが楽しみでした。しかし、胸にインプラントを入れている場合、うつ伏せなどの圧迫を伴う施術は破損のリスクがあるため、店側から断られることが多くあります。エキスパンダーを入れている期間はうつ伏せの施術を避けていましたが、自家組織に入れ替えて傷口が完全に塞がってからは、形成外科の医師から「エステやマッサージに行っても大丈夫です」とお墨付きをもらいました。広背筋皮弁法 で再建した胸は時間が経つとしぼむ人が多いそうですが、私は日ごろから運動をして体を鍛えていたためか、しぼむことなく現在もきれいな形を維持できています。
乳房を失った直後は、胸も乳首もなくなり、自分は「人間ではなくなってしまったのではないか」という強い喪失感と後ろめたさがありました。しかし、2019年10月には、乳輪や乳頭の再建手術で取り戻すことができました。
自家組織で胸を作り直し、エステに行って人の手で直接背中や体に触れてもらうことで、自分が再び人間として認められ、本来の姿を取り戻せたような感覚になり、心が大きく救われました。
また、年に1回、「九州の乳がん患者さんサポート・ブレストケアを考える会」が主催する『With you Kyushu』という、当事者と医療従事者が交流するイベントにも参加するようになりました。 全国から集まった同じ病気を経験した仲間や、患者の気持ちに寄り添ってくれる医師たちと交流することで、私が勤めていた会社とは違い、乳がんであっても一人の人間として尊重されていると感じ、生きる勇気をもらっています。
入院生活を機に人生を棚卸し、完璧を求めない生き方へと変化
がんになる前の私は、仕事でも家事でも「全部私がやらなければ」と抱え込み、自分のことは常に後回しにしていました。しかし、手術のための2週間の入院期間は、これまでの人生の棚卸しをする貴重な時間となりました。家族は私ががんになっても過剰に心配することはなく、自家組織を移植した2018年2月の2回目の入院中も、夫は自転車でケーキを買ってきて、一緒に病室のテレビで平昌冬季オリンピックを見るなど、まるでリゾート地にいるかのように穏やかに過ごしてくれました。
この経験から、命は永遠ではないこと、そしてあと5年、10年という限られた時間を意識するようになりました。やるべきことを先延ばしにせず、今の環境をどれだけ良くできるかを考えるようになりました。「完璧でなくてもいい」「人に任せてもいい」と思えるようになり、自分を大切にする生き方へと大きく変わりました。
定年を待たずに64歳で早期退職を決断
私は契約社員として働いており、契約期間は65歳まででした。しかし、64歳になった今年の初めごろから、見積書などの作成業務に追われて夜も眠れない日々が続くようになりました。顧客からは「ゆりさんにお願いするよ」と頼りにされていましたが、精神的にも体力的にも限界を感じ、「もう一抜けしたい」と悩み続けていました。しかし、責任感から自分から辞めるとは言い出せず、一人で葛藤する日々でした。
そんな中、会社から「契約の延長はない」と通達が下りました。その言葉を聞いた瞬間、ショックを受けるどころか、私は「これで自由の身(無罪放免)になった!」と深く安堵しました。会社からの通達によって、自分からは決して手放せなかった重圧と責任から解放されたのです。そして、定年の65歳まであと1年待つのではなく、このタイミングで完全に離れることを自ら決断し、2026年の5月に退職しました。
1年先延ばしにしてしまえば、それだけ歳をとってしまいます。退職した現在は、指導員の資格をとりヨガを教えたり、演技の勉強を始めたりしています。演技を学ぶことで、自分の早口な喋り方や精神的な癖を見直し、カウンセリングのように自分を整えたいと考えています。残りの人生を自分のやりたいことのために使う決断ができたのも、がんの経験があったからこそだと感じています。
今、がんと向き合っている方へのメッセージ
今、がん治療をしている方にお伝えしたいことがあります。
自分の選択を信じて進んでください
治療の過程では、さまざまな選択を迫られます。迷いや不安が行きつ戻りつすることもありますが、自分で情報を取りに行き、納得して選んだ道であれば、必ず前へ進んでいくことができます。周囲の言葉に振り回されず、ご自身で決断した選択を信じて治療に向き合っていけば、見える世界が違ってくるはずです。
先延ばしにせず、今の楽しみを見つけてください
がんを経験すると、命の限りを意識するようになります。だからこそ、やりたいことを先延ばしにしないでください。「これが終わったらあれをやろう」「どこかへ行こう」と少し先の楽しみを計画し、それを目標にすることで、つらい治療も乗り越える力が湧いてきます。
完璧を求めず、自分に優しく生きてください
今まで仕事や家族のためにすべてを抱え込んできた方は、少し人に任せる勇気を持ってください。自分が完璧にこなさなくても大丈夫です。自分自身に一番優しくなることを目指し、肩の力を抜いて、今ある環境をどれだけ楽しく良くできるかを考えながら過ごしてほしいと思います。
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