写真はイメージです。(AIによる生成)プロフィール
お名前:マスカットさん(ニックネーム)
年代:40代
性別:女性
家族構成:夫と2人暮らし
仕事:パート勤務
がんの種類:乳がん
診断時ステージ:ステージ1
診断年:2022年
現在の居住地:愛知県
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用、生活への影響には、個人差があります。医療的な判断や治療方針の決定の際には、必ず医師・医療従事者にご相談ください。
2022年、マスカットさんはステージ1の乳がんと診断されました。乳房温存手術でがんが取り切れず全摘出の選択を迫られ、自ら病院を探してインプラント(シリコン)による同時再建を受けました。しかし、術後に右腕が上がらなくなる後遺症に見舞われます。担当医との関係悪化、シリコン抜去、長期間のリハビリ、働き方の変更など、次々と生じる試練に直面しながらも、自身が納得できる自家組織による乳房再建を求めて専門病院へ赴きました。大手術の末に温かい胸と心を取り戻すまでの道のりについてお話しいただきました。
検診の遅れと突然の乳がん告知
40歳になったころ、初めて受けた乳がん検診で石灰化を指摘されていましたが、医師からは「がん化の可能性はわずか」と言われていました。その後、毎年定期的に乳がん検診を受けていましたが、仕事の忙しさから2021年は検診に行けていませんでした。
2022年7月、1年半ぶりに地元の乳腺専門クリニックで検診を受けました。マンモグラフィと超音波(エコー)検査を受けたところ、医師から「気になるところはありますが、何もなければ安心できるので針生検をしましょう」と言われました。検査の結果は1か月後でしたので、その間は生きた心地がしませんでした。
自分で車を運転して結果を聞きに行くと、受付で突然「付き添いの方はいらっしゃいますか」と尋ねられ不安な気持ちで診察室に入りました。診察室に入ると、医師から「乳がんです」と告げられた瞬間、頭が真っ白になり、どう運転して帰宅したかも覚えていません。その日は、情報を求めてインターネットで調べ続け、なかなか眠ることができませんでした。
乳房温存手術後、断端陽性が判明
がんは小さかったため、担当医からは乳房温存手術で対応できると説明を受けました。セカンドオピニオンを受けることも考え、他の病院の状況を調べましたが、当時は手術までに2か月から半年ほど待つ必要がありました。何か月も待つよりも早くがんを取り除きたいという思いが強かったため、そのまま同じクリニックで手術を受けることに決め、MRIとCT検査を受け、翌8月に乳房温存手術を受けました。病理検査の結果、ステージ1のホルモン受容体陽性のルミナルAの乳がんと診断されました。ルミナルAタイプでしたが、念のため術後の抗がん剤が必要かどうかを確かめるために、オンコタイプDX検査を受けました。この検査は、がんの遺伝子(mRNA)の発現量を調べる検査です。手術で切除したがん組織を使って調べるため、患者さんが追加で痛い思いをする必要はありません。その結果、抗がん剤治療は必要ないということになりました。
しかし、約1か月後の病理検査の結果で、がんがまだ残っている「断端陽性」と告げられました。取り残した病変を再手術で取り除き、その後放射線や薬物療法を追加するか、全摘出するかの選択を迫られました。放射線や薬物療法はどうしても避けたい一方で、胸がすべてなくなることは精神的に耐えられません。そのため、全摘出と同時再建を希望しましたが、そのクリニックでは対応していないと言われました。
自ら情報を集め、同時再建が可能な別のクリニックを探して転院しました。そこでは、乳頭、乳輪、皮膚を残して中の乳腺をすべて取り除き(皮下乳腺全摘術)、直接シリコンを入れる同時再建が可能でした。私は右胸が乳がんでしたが、右側だけにシリコンを入れると左右のバランスが大きく崩れると指摘を受けました。予定していませんでしたが、全体のバランスを整えるため、自費で左胸にもシリコンを入れ調節することを決断しました。2022年10月、両胸にシリコンを入れる同時再建手術を受けました。
シリコンの硬化と右腕の麻痺、そして担当医との関係悪化
手術から半年ほど経った2023年の春ごろ、右胸に入れたシリコンが硬くなり、上の方へずれて変形し始めました。左右の形も崩れ、見るのもつらい状態になりました。さらに深刻だったのは、右腕が全く上がらなくなってしまったことです。髪も洗えず、化粧をするのも困難になりました。最初は五十肩を疑いましたが、明らかに右胸の異変と連動していました。
再建手術を行ったクリニックの担当医に相談しましたが、「原因はわからない」と突き放されました。自分の腕が今後どうなってしまうのか不安を感じ、「他の医師に診ていただくことは可能ですか」と尋ねたところ、医師は激怒し、紹介状を書いてもらうことすら拒否されました。
完全に失われた医師への信頼
腕の状態が一向に良くならず、原因もわからないまま放置されることに強い不安を覚え、市の補助金を活用して検診センターでPET-CT検査と人間ドックを受けました。その結果、右胸に何らかの異常があることが指摘されました。
客観的なデータを得た上で医師の意見を聞きたかったため、その結果をクリニックの担当医に見せました。しかし、医師からは「なぜ勝手なことをするのか」「人間ドックなどなぜ受けるのか」と激しく怒られました。さらに、「あなたは新しい診断が欲しくてドクターショッピングをしている」とまで言われました。私は実際に自分の体に起きている異常の原因を知りたかっただけです。しかし、この言葉を聞いて医師への信頼は完全に失われ、このクリニックに通うことをやめました。
総合病院でのシリコン抜去と働き方の変更
PET-CT検査と人間ドックの結果を持って総合病院を受診し、理学療法士の指導で3か月ほど腕のリハビリを行いましたが、状態は改善しませんでした。医師と相談の結果、まずは原因となっている右胸のシリコンを取り出す抜去手術を受けました。抜去して再びリハビリに通い始めると、約3か月後には右腕が元のようによく動くまでに回復しました。
この治療とリハビリの過程で、働き方を変えざるを得なくなりました。通院で半日休む必要があり、20年間フルタイムで続けてきた仕事を退職しました。収入面を考えるとフルタイムで働きたい気持ちはありますが、がんを経験して体力が落ちたと感じており、現在はパートの勤務形態を維持しています。
エキスパンダーの再挿入と自家組織再建への高い壁
右腕がスムーズに動くようになった後、総合病院でエキスパンダーを入れて約1年間、皮膚を伸ばす予定で治療が始まりました。しかし、8か月ほど経過してシリコンに入れ替える時期が近づいてくると、「同じように腕が上がらなくなったらどうしよう」という強い恐怖が込み上げてきました。医師に相談すると、自分の組織を使った自家組織再建があることを教えてもらいましたが、その総合病院では対応していませんでした。
自家組織再建は高度な技術を要するため、専門とする形成外科医が限られています。自力で複数の病院を探しましたが、私の場合、左胸にシリコンが入っており、右胸に入っているエキスパンダーが比較的小さかったため、「自家組織で左右同じ大きさにするのは非常に難しい」と何人もの医師に断られてしまいました。
乳房再建の専門病院での決断と10時間半に及ぶ手術
情報を探し続けた結果、遠方でしたが自家組織再建を専門とする病院を見つけ、夫と一緒に受診しました。専門病院の医師からも手術の難易度や通院の負担について説明を受けましたが、夫と話し合い、やってみる価値はあると判断しました。その日のうちに手術を受けることを決断し、まずは入っていたエキスパンダーをより大きなものに入れ替え、さらに1年間待機することになりました。そして2025年12月、お腹の組織を使った自家組織再建の手術を受けました。
お腹の組織を使った乳房再建では、一般的に体の深部にある血管を利用するDIEP再建が行われます。この方法でも腹筋は温存されますが、血管を採取する際に筋膜や筋肉の間をかき分ける必要があります。
私の場合は、浅いところにある血管のほうが太かったため、SIEA再建という術式になりました。これは、お腹の浅い場所を走る血管(浅下腹壁動静脈)を利用する方法です。筋肉や筋膜にほとんど触れずに済むため、お腹へのダメージをより抑えられるというメリットがありました。
採取したお腹の組織を顕微鏡を使って胸の血管に繋ぐ(遊離皮弁)という点や、自分のお腹の脂肪を使う点はどちらも同じです。大きな違いは、「利用する血管の深さ」と「お腹の壁(腹壁)への影響の度合い」でした。
手術は10時間半にも及びました。術後数日間は高度治療室で全身管理を受け、ベッド上で過ごしました。背中を約30度起こした姿勢で過ごし、食事もペースト状だったため、思っていたより食べやすく、何とか乗り切ることができました。しかし、本当に大変だったのは、自分で起き上がり、トイレまで歩いて行くようになってからでした。
自家組織で取り戻した「温かい胸」と左右のバランス
大変な手術を乗り越えた結果、右胸には血の通った、温かく柔らかい胸を再建することができました。
以前入れていたシリコンは血が通っていないため、冬になると氷のように冷たくなりました。医師から「冷たいからといって使い捨てカイロを当てすぎると低温火傷をするから気をつけて」と注意されるほど不快なものでしたが、自分のお腹の組織を使った今は、見た目も自然で心から満足しています。
なお、左胸には全体のバランスをとるために入れたシリコンがまだ入っています。こちらは右胸と違って乳腺が残っているためか、冷たさや変形といったトラブルは起きておらず、そのまま維持しています。
強皮症の疑いと、再建先の専門医と地元医師の連携による傷跡治療
乳がん自体の経過観察については、地元の総合病院の乳腺外科で継続しており、現在まで再発の兆候はありません。
一方で、大手術に伴う手術痕のケアについて新たな出来事がありました。今年受けた人間ドックの血液検査で異常が見つかり、皮膚科を受診したところ、新たに強皮症の疑いがあることがわかりました。まだ具体的な症状は出ておらず確定診断には至っていませんが、強皮症になると傷が治りにくくなるという特徴があると言われました。
この状況を受け、再建手術をお願いした遠方の専門病院の担当医が、地元の皮膚科医と丁寧に連携をとってくださいました。現在は地元の皮膚科で、傷跡を治すための副腎皮質ホルモン(ステロイド)のテープを処方してもらっています。痒みも治まり、「治りにくいかもしれないけれど気長に治していきましょう」という言葉に励まされながら、傷跡の治療を続けています。
傷ついた過去を乗り越え、工夫して再開した温泉巡り
私がこれほどまでに胸の再建にこだわった背景には、昔からの趣味である温泉巡りをまた心から楽しみたいという強い思いがありました。
乳がんの手術後、胸の形が変わってしまった状態で初めて温泉に行ったときは、周囲から「見てはいけないものを見てしまった」というような視線を向けられ、深く傷つきました。
しかし現在は、自家組織で自然な胸を再建できたことに加え、乳がん患者専用の入浴着や傷跡を隠せる長いバスタオルなども普及してきています。それらを活用し、脱衣所や洗い場ではできるだけ端の場所を選ぶなど、自分なりに工夫しながら再び温泉を楽しめるようになってきています。
乳房再建は美容整形ではなく、患者の心を取り戻す「治療の一部」
私がこうした経験を通して痛感しているのは、社会における乳房再建への理解がまだ十分ではないということです。一般の方だけでなく、驚くことに医師の中でさえも「再建手術は美容整形と同じ、自己満足の治療だ」と誤解している方が少なくありません。
しかし、形成外科の医師がおっしゃる通り、乳房再建はがんによって傷つき、失われた患者の心を取り戻すための立派な「治療の一部」です。
自家組織やインプラントなどさまざまな再建の選択肢があること、そしてそれが患者の精神的な回復にどれほど重要であるかが、社会全体にもっと広く認知されることを心から願っています。
これからがんと向き合う方へのメッセージ
今、がん治療をしている方にお伝えしたいことがあります。
一人で抱え込まず、専門家や経験者に相談しましょう
がんと診断されると、今後の治療や生活についてたくさんの不安を抱えると思います。その不安を一人で抱え込まず、がん相談支援センターや看護師、そして患者会の方々に相談してみてください。私自身、看護師に話を聞いてもらうだけで心が救われた経験があります。さまざまな人の意見を聞き、多角的な視点を持つことが大切です。
インターネットの情報には冷静に向き合いましょう
病気のことや治療法について検索することが増えると思いますが、インターネット上には正しい情報もあれば、根拠のない誤った情報も混ざっています。情報に過度に振り回されず、疑問や不安があれば、必ず主治医や信頼できる医療従事者に直接確認し、正確な知識に基づいて判断するようにしてください。
乳房再建は自分の心を取り戻すための治療です
乳房全摘出によって胸を失うことは、精神的に非常に大きなショックを伴います。再建手術は決して美容目的や自己満足ではなく、前向きに生活していくための治療の一部です。再建にはシリコンや自家組織などさまざまな方法があり、医師によって得意とする術式も異なります。諦めずに情報を集め、ご自身が心から納得できる選択肢を見つけてください。
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