写真はイメージです。(AIによる生成)プロフィール
お名前:とむさん(ニックネーム)
年代:40代
性別:女性
家族構成:夫と2人暮らし
仕事:自営業(診断時は会社員)
がんの種類:舌がん
診断時ステージ:ステージ1
診断年:2015年
現在の居住地:東京都
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用、生活への影響には、個人差があります。医療的な判断や治療方針の決定の際には、必ず医師・医療従事者にご相談ください。
2015年、当時30代半ばだったとむさんは、口腔内の異変をきっかけに大学病院を受診し、ステージ1の舌がんと診断されました。診断後は手術を行い、2週間の入院生活を経て職場に復帰しました。その後5年間の経過観察期間を経て、診断から11年が経過した現在までの経緯についてお話しいただきました。
舌がん診断のきっかけは、舌側面の白い異変
2015年9月下旬、私は歯茎に口内炎ができたため、鏡で口の中を確認しました。その際、舌の側面にこれまで見たことがない白いものがあることに気づきました。大きさはあずき大ほどで、表面が少しケバケバしており、触ると硬い感触がありました。
通常の口内炎であれば痛みを感じますが、その白い部分には全く痛みがありませんでした。気になって自分自身で調べたところ、インターネットで「白板症」という疾患の情報が見つかりました。白板症は将来的にがん化する可能性がある前がん病変であるという記載があり、早期に専門的な医療機関を受診する必要があると考えました。
口腔外科医がいるクリニックを受診
私は自宅の近くにある口腔外科を標榜するクリニックを受診することにしました。そのクリニックを選んだ理由は、以前、口腔内の腫瘍治療や顎の骨の再生に関する専門的な資格を持つ先生がいることを示す修了証が掲示されていたのを覚えていたからです。
受診した際、先生は私の舌を見て「すぐに精密検査が必要です」と判断されました。先生の説明によると、舌がんに罹患する人の多くは50代以上で、喫煙歴や飲酒歴があるという特徴がありますが、私の場合はそのいずれの要因にも当てはまっていませんでした。その先生は大学病院の外来も担当していたため、先生が勤務する日の外来に合わせて、大学病院への紹介状を書いてもらうことになりました。
電話で告げられたがん告知
大学病院を受診した後、まずは白板症の組織を切り取って調べる精密検査を行いました。局所麻酔を使用して、あずき大だった白い部分とその周辺を含めた約1cmの範囲を切除しました。その組織の中にがん細胞が含まれているかどうかを確認するという手順でした。
切除した組織の結果については、1週間後にクリニックに伝えられることになっていました。精密検査から数日後、大学病院に勤務中のクリニックの医師から直接電話がかかってきました。電話の内容は「残念ながらがん細胞が見つかりました」という告知でした。30代でがんに罹患することは想定しておらず、さらに舌がんは自分の中で完全にノーマークの疾患であったため、電話での告知には非常に驚きました。
全身麻酔による手術の実施
精密検査の結果、病名は舌がんでステージ1であることが確定しました。転移の有無を確認するためにCT検査などを行いましたが、リンパ節や他の臓器への転移は認められませんでした。治療方針として、放射線治療についても念のため質問しましたが、私の場合は病変が小さく、また年齢が若いことから放射線による後遺症のリスクを考慮し、手術による切除が最善であるという説明を受けました。
10月下旬に、再発を予防するために周囲の組織を広めに切除する手術を行いました。手術は全身麻酔で行われ、舌の左側面の約1割を切除しました。手術自体は無事に終了し、2週間の入院生活が始まりました。
入院中、舌の安静保持のため禁止された会話
手術後の約8日間は、舌の傷口を安静に保つために会話はなるべく控かえるように指示されました。医師や看護師とのやり取りはなるべく筆談で行いました。食事についても、口を動かすことを避けるため、鼻からチューブを通して胃に直接栄養を送る「経鼻経管栄養」を8日間継続しました。
私は医師の指示を厳守し、なるべく言葉を発しないように過ごしました。手術後11日目に抜糸が行われた後は、少しずつ口から食事をする許可が出ました。舌の1割を切除しましたが、発声や味覚に大きな支障が出ることはないと説明を受けていました。実際に、リハビリを兼ねて会話を再開した際も、大きな違和感はありませんでした。10月末に無事退院し、自宅での生活に戻りました。
退院後3日での職場復帰と周囲の配慮
退院してから3日後には、当時勤務していた会社に出勤して仕事を再開しました。体力的には元気でしたが、長時間話すと疲れやすかったりしたため、職場には事前に状況を説明していました。
会社は、私が電話対応をしなくて済むように業務を調整してくれたり、静かな別室で作業ができるように部屋を用意してくれたりといった配慮をしてくれました。このように周囲の理解があったおかげで、通常の業務に戻ることができました。仕事に集中する時間は、病気のことを考えずに済むため、精神的な回復にもつながったと感じています。
診断後2年間続いた再発への不安
身体的な回復は順調でしたが、精神面では不安な時期が長く続きました。特に診断から2年間は、常に再発の不安が頭から離れない状態でした。音楽ライブに行っても集中できず、以前のように読書を楽しむことも難しくなりました。
今振り返ると、当時は軽いうつ状態に近い精神状態だったのかもしれません。自分の体調だけでなく、家族が少し体調を崩しただけで「この人も重大な病気なのではないか」と過剰に心配してしまうこともありました。30代という若さで、がんという死を意識する病気に罹患した衝撃は、それほどまでに大きいものでした。
不安を軽減するために行った手作業の効果
手先を動かす作業を行いました。具体的には、ミシンを使った洋服作りや編み物、料理などです。
このように何かに没頭して手を動かしている間は、がんのことを考えずに済みました。脳が余計な思考を停止し、目の前の作業だけに集中できる時間は、私にとって必要な回復のプロセスでした。3年目に入ったころ、ようやく「気持ちが楽になってきた」と実感できるようになりました。お正月に親族と会った際も、兄から表情が明るくなったと言われ、時間が解決してくれた部分があると感じました。
科学的な視点を持つ対談からの影響
精神的に不安定だった時期、私は感情的な闘病記を読むことができませんでした。他人のつらい経験を知ることで、自分の不安がさらに増幅されてしまうのを防ぐためでした。そのような中で、物理学者の戸塚洋二氏と立花隆氏の対談も収録された、戸塚氏の闘病記録は、最後まで読むことができました。
その本では、がんという病気を科学的な視点で客観的に観察し、分析する態度が示されていました。感情に流されず、事実として病気と向き合うという考え方は、当時の私にとって大きな支えとなりました。自分自身の病状を客観的に捉える視点を持つことで、不安に飲み込まれすぎないように意識しました。
5年間の経過観察を卒業
手術後の経過観察は、5年間継続して行われました。当初は1か月から2か月に1回の頻度で通院し、リンパ節の触診や口内の確認、エコー検査や造影CT検査を受けました。異常がないことが確認されるにつれて、受診の間隔は半年に1回と徐々に伸びていきました。
5年が経過した際、大学病院の先生から「今日でひとつの区切りです」と言われ、経過観察を終了しました。5年という目標を達成できたことは、自分の中で大きな安心感につながりました。その間、再発や転移が一度もなかったことは、早期発見と早期治療のおかげだと思っています。
11年が経過した現在の生活と体調
診断から11年が経過した2026年現在、私は元気に生活をしています。仕事については、親の介護という事情もあり会社を退職しましたが、現在は実家の自営業を手伝っています。
身体的な影響としては、現在でも寒い時期になると切除した部分の舌が少しつっぱるような感覚や、じんじんとするような違和感が出ることがありますが、日常生活に支障はありません。かつてのような強い恐怖心は消え、今では「あの時、早めに対応してよかった」と客観的に振り返ることができるようになっています。
現在も継続している健康管理と検診
がんを経験して以来、私は以前よりも健康管理に対して注意を払うようになりました。もともと健康診断や乳がん・子宮がんなどの検診は定期的に受けていましたが、現在もそれを継続しています。
また、がんを診断してくれた口腔外科クリニックには、現在も数か月に1回の頻度で通院し、歯のクリーニングと合わせて口腔内の状態をチェックしてもらっています。少しでも気になることがあれば、すぐに専門医に相談するという習慣がつきました。
これからがんと向き合う方へのメッセージ
今、がんと向き合っている方や治療を終えて不安を感じている方に、お伝えしたいことがあります。
気になることがあれば、早めに行動してください
私は痛みのない白い異変を放置しなかったことが、早期発見につながりました。自分の体に見慣れないものや違和感がある場合は、迷わず専門医を受診してください。納得がいかなければ、複数の医療機関に足を運ぶことも選択肢のひとつです。
不安を和らげるための時間を意識的に作ってください
がんのことを考えないようにするのは難しいことですが、手作業や仕事、趣味など、他のことに集中できる時間を強制的に作ることが、心の安定につながる場合があります。私にとっては、手を動かす作業がその役割を果たしてくれました。
正しい情報を客観的に捉えるようにしてください
インターネット上の溢れる情報に惑わされず、公的ながん情報サービスなどの信頼できる情報を参照してください。感情的な情報に触れるのがつらいときは、科学的、客観的な視点で書かれた情報に目を向けることで、落ち着きを取り戻せることもあります。