写真はイメージです。(AIによる生成)プロフィール
お名前:舘野正枝さん(本名)
年代:60代
性別:女性
家族構成:娘と孫との3人暮らし
仕事:営業アシスタント
がんの種類:小腸がん
診断時ステージ:ステージ2
診断年:2024年
現在の居住地:栃木県
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用、生活への影響には、個人差があります。医療的な判断や治療方針の決定の際には、必ず医師・医療従事者にご相談ください。
2024年、舘野正枝さんは小腸がんと診断されました。40代に経験した大腸がんから、実に26年という歳月を経ての出来事でした。今回の闘病を機に受けた遺伝子検査によって、自身が遺伝性がんの「リンチ症候群」であることも判明しました。幸いにも娘2人への遺伝がないことがわかった現在は、自身の次なるがんの早期発見を期して、定期検査を欠かさない日々を過ごしています。2度のがん体験と遺伝子検査を経て見えてきた、命を守るための覚悟についてお話しいただきました。
予期せぬ場所で見つかった影、26年越しの2度目のがん
私のがんとの闘いは、今から26年以上前に遡ります。40歳の時、大腸がんを患いました。当時は手術のみで治療を終えましたが、それ以来、がんという病気は常に私の人生の片隅に存在していました。私はもともとポリープができやすい体質であったため、術後も数年に1回は定期的に大腸や胃の内視鏡検査を受けてきました。「自分はがんになりやすい」という自覚があったからこそ、検査だけは怠らないようにしてきたつもりでした。
異変がわかったのは、2024年のことです。いつものように大腸内視鏡検査を受けた際、大腸の中に新しいポリープが見つかりました。しかし、そのポリープは通常の内視鏡処置では切除が難しい、平坦に張り付いたような形状をしていました。精密な処置を行うため、紹介された総合病院を受診し、改めてCT検査を受けることになったのです。
本来、そのCT検査は大腸のポリープの状態を確認するためのものでした。ところが、画像を見た医師から告げられたのは、予想もしない言葉でした。「大腸とは別に、小腸にも何かあります」詳しく調べましょうということになり、特殊な内視鏡検査を受けることになりました。その結果、下された診断は小腸がん(空腸がん)でした。
26年前に大腸がんを克服し、自分なりに健康管理には気をつけてきたつもりでしたが、まさか小腸という、がんができること自体が珍しい場所に病気が隠れているとは思いもしませんでした。驚きはありましたが、それ以上に「早く見つかってよかった」という安堵の気持ちの方が大きかったことを覚えています。
稀少がんという不安からがんセンターへの転院を決意
小腸がんは、全消化器がんの中でも数%にも満たないほど症例が少ない稀少がんに分類されます。総合病院の先生からも、手術は可能だと言われましたが、症例が少ないだけに「より専門的な経験を持つ病院があれば紹介します」という提案をいただきました。
私自身、インターネットや本で小腸がんについて調べましたが、情報は驚くほど限られていました。一般の方のブログや動画も見当たりません。わずかに見つけたのは、同じ病気を公表していた著名なジャーナリストの方の情報くらいでした。
「症例が少ないがんを、経験の少ない病院で治療を任せていいのだろうか」
そんな不安が頭をよぎりました。そこで、私はかつて住んでいた場所にも近く、土地勘のあったがんセンターへの紹介を希望しました。通院が多少不便でも、「このがんを診たことがある先生に託したい」という思いが勝りました。
がんセンターを受診し、改めて専門の先生にお会いした時、真っ先に尋ねたのは「私のような小腸がんの患者さんは診られたことはありますか」ということでした。前の病院では「経験がない」と言われていたので、先生から「ええ、いらっしゃいますよ。大丈夫です」と言っていただけただけで、心の中の霧が晴れるような気がしました。
当初、手術の説明では、腫瘍が十二指腸に近い場所にあるため、癒着の程度によっては膵臓や十二指腸の一部も切除し、大規模なバイパス手術になる可能性があると言われていました。手術時間は1日がかりになるかもしれないという覚悟で臨みましたが、実際に開腹してみると、がんは幸いにも空腸の一部を切除するだけで済みました。娘が待ってくれていたのですが、予定よりも大幅に早い3時間ほどで終わったことに、私以上に驚いていました。
術後の病理検査の結果は、ステージ2でした。リンパ節への転移も認められず、まずは大きな峠を越えたのだと実感しました。
抗がん剤治療と今も残る末梢神経障害の後遺症
手術は成功しましたが、再発防止のために術後補助化学療法を行うことになりました。使用した薬剤はFOLFOX療法と呼ばれるもので、大腸がんの治療でも一般的に使われる治療法です。2024年の後半から約半年間、計12回の投与を目標に開始しました。
26年前の大腸がんの時は、手術後に錠剤の薬を数か月飲んだ記憶がある程度で、本格的な点滴による化学療法は今回が初めてでした。情報の溢れる現代、副作用についても事前にいろいろ調べましたが、実際に経験してみると、教科書通りにはいかない苦労がありました。
まず現れたのは味覚障害でした。食べ物の味が以前と変わり、食事が偏ってしまいました。髪の毛が完全に抜けることはありませんでしたが、髪質がふわふわと細くなり、以前のようなコシがなくなったように感じました。
何よりも辛かったのは、オキサリプラチンによる末梢神経障害でした。回を重ねるごとにしびれは強くなり、11回目を終えた頃には、日常生活に支障をきたすほどになりました。物が掴みにくく、ふとした瞬間に手にしたものを落としてしまう。主治医と相談し、最終の12回目はオキサリプラチンを抜き、別の薬剤のみで終える判断をしました。
化学療法を終えてから1年近くが経過した今も、指先のしびれは完全には消えていません。日常生活の家事をこなす際、不便を感じることもありますが、これもがんと闘い抜いた証なのだと受け止めています。
判明した遺伝性疾患「リンチ症候群」
今回のがん治療において、私にとって手術と同じくらい大きな意味を持ったのが、遺伝子カウンセリングと遺伝子検査でした。
私の家族は、私を含めた3人の兄弟全員が大腸がんを経験しています。以前から「家系的にがんになりやすい」という漠然とした確信は持っていましたが、今回、がんセンターの先生から勧められ、正式に遺伝子検査を受けることにしました。
結果は、特定の遺伝子に変異がある「リンチ症候群」という診断でした。この診断結果は、私1人の問題ではありません。娘が2人いるため、彼女たちに遺伝している可能性がありました。がんセンターの遺伝子カウンセラーの方を交え、娘たちと一緒に説明を受けました。娘たちは、私が2回もがんの手術を受けている姿を間近で見てきたこともあり、自分の体質を知ることに非常に前向きでした。「もしリスクがあるなら、早く知って対策を立てたい」と、2人とも自ら検査を希望しました。
結果として、2人の娘には遺伝子の変異は見つかりませんでした。私の代で、この遺伝的な連鎖が止まったことがわかった瞬間、これまで抱えていた重い荷物をようやく下ろせたような、深い安堵感に包まれました。私自身はリンチ症候群という体質と共に生きていくことになりましたが、娘たちの将来に対する不安が消えたことは、何物にも代えがたい救いとなりました。
1人で抱え込まず、言葉にすることの強さ
40歳で大腸がんになった時、私は周囲に病名を隠していました。当時は今よりも「がんは高齢者がなるもの」「死に至る病」というイメージが強く、若くしてがんになった自分を周囲がどう見るか、過剰に心配されることが怖かったのです。「胃腸が少し弱いから」と濁し、1人で病の不安を抱え込んでいました。
しかし、60代で小腸がんになった今の私は、全く違う考えを持っています。今は友人や知人、職場の人たちにも「私は稀少がんなんだよ」「がんになりやすい体質なんだ」と、包み隠さず話すようにしています。
言葉にして外に出すことで、自分の中の不安が少しずつ軽くなっていくのがわかります。自分の胸の内に溜め込んでしまうと、心はどんどん沈んでいってしまいます。しかし、オープンに話すことで、周囲も普通に接してくれますし、私自身も「これが私の体なんだ」とありのままを受け入れられるようになりました。
26年前とは情報の量も、治療の進歩も、そして社会の理解も大きく変わりました。稀少がんという情報が少ない病気であっても、専門の先生を信じ、自分の思いを言葉にして伝えることで、道は開けるのだと確信しています。
現在は、1年に1回の胃と大腸の内視鏡検査、そして4か月に1回のCT検査と血液検査を継続しています。リンチ症候群である以上、新しいがんが見つかるリスクは常に隣り合わせです。それでも、「おかしいと思ったら後回しにしない」「定期的な検査で早めに見つける」という揺るぎない方針が、今の私の生活を支えています。
今の私の目標は、共に暮らす孫の成長を1日でも長く見守り続けることです。体質は変えられませんが、生き方は変えられます。これからも自分の体と丁寧に向き合いながら、家族との時間を大切に過ごしていきたいと思っています。
これからがんと向き合う方へのメッセージ
今、がん治療をしている方にお伝えしたいことがあります。
不安は1人で抱え込まず、周りに伝えてください
がんと診断されると、周囲に気を使わせたくないという思いから、自分の中に溜め込んでしまうことがあります。しかし、言葉にして伝えることで、心は確実に軽くなります。1人で悩まず、家族や友人、医療従事者に不安を口にしてみてください。共感や理解を得ることは、治療に向き合う大きなエネルギーになります。
「おかしい」と思ったら、迷わず検査を受けてください
早期発見こそが、がん治療において最も重要です。体に違和感があった時、仕事や家事の忙しさを理由に後回しにしないでください。「何でもなければ安心できる」と考え、早めに受診する勇気を持ってください。特に再発や遺伝的な不安がある場合は、定期的な検査を習慣にすることが、あなたと大切な家族を守ることに繋がります。