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「女性ではない」私が、乳がんと性別違和の二重苦の中で見つけた生き方

[公開日] 2026.02.20[最終更新日] 2026.02.19

写真はイメージです。(AIによる生成)
プロフィール お名前:まこと(ニックネーム) 年代:40代 性別:性別違和あり 家族構成:母との2人暮らし 仕事:事務職(パート) がんの種類:乳がん 診断時ステージ:不明 診断年:2022年 現在の居住地:関東地方
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用、生活への影響には、個人差があります。医療的な判断や治療方針の決定の際には、必ず医師・医療従事者にご相談ください。 2022年、当時39歳だったまことさんは、セルフチェックで左胸にしこりを見つけたことをきっかけに、乳がんの告知を受けました。進行の速いタイプのがんであり、告知のショックは計り知れないものでしたが、まことさんにはもうひとつ、大きな心の葛藤がありました。それは、自身の性自認が女性ではないという「性別違和」です。女性に多いがんと言われる乳がんとの闘いは、まことさんにとって、自らの身体と心、そして医療現場に潜む無意識の偏見との闘いでもありました。過酷な化学療法や全摘手術を乗り越え、現在は副作用と向き合いながら前向きに歩みを進めるまことさんにお話しいただきました。

突然の告知と、置き去りにされた心

2022年当時、私は関西で暮らしていました。39歳という年齢で、まさか自分ががんになるとは夢にも思っていませんでしたが、何気なく行ったセルフチェックで左胸に明らかなしこりを感じました。すぐに近くの総合病院を受診し、マンモグラフィーや超音波(エコー)検査、生検へと進みました。 医師から告げられた診断結果は「浸潤性乳管がん」でした。サブタイプは、ホルモン受容体陽性、HER2陽性のルミナルBと診断されました。親戚にがん経験者がいたため、自分もいつかはなるかもしれないという予感はどこかにありましたが、いざ告知をされると、頭の中は真っ白になりました。医師の説明の7割ほどは耳を通り抜けてしまい、ただひたすらショックで涙が止まらなかったことを覚えています。 告知後、私は治療のために実家へ戻る決断をしました。関西に引っ越してまだ半年ほどで、土地勘もなく、頼れる家族がそばにいない状況で治療を続けるのは難しいと判断したからです。実家では、母のサポートを受けられる安心感と、通いやすさを重視して、自宅近くの総合病院に転院しました。

「いらない部分」が人生を苦しめる理不尽

がんそのものの恐怖以上に、私を苦しめたのは、がんという病気が「乳房」という部位に発生したことでした。私は幼少期から性別違和を抱えて生きてきました。身体の造りとしては女性であっても、自認する性別は女性ではありません。胸という部位は、私にとって元々「いらない部分」であり、できることなら手放したいと感じていたものでした。 それなのに、その「いらないもの」ががんになり、さらに自分の命や人生を脅かしてくる。その現実は、私にとってあまりにも理不尽で、二重の意味で苦しめられているという感覚でした。「どうしてよりによって、乳房なのか」という暗い感情が、心の奥底に沈殿していきました。 しかし、治療を止めるわけにはいきません。地元の病院では、まず腫瘍を小さくするための術前化学療法が提案されました。しこりの大きさはすでに3cmほどに達していたためでした。

終わりの見えない副作用との闘い

術前化学療法として、ドセタキセルに分子標的薬のハーセプチンとパージェタを加えた治療が始まりました。この期間は、私の人生の中で最も身体が辛い時期でした。 化学療法は通院で行われましたが、投与から数日経つと猛烈な副作用が襲ってきました。全身の倦怠感と吐き気で、ほぼ寝たきりの状態になりました。歩くことさえままならず、このまま最後まで治療を続けられるのか、そして手術にまでたどり着けるのかという不安に駆られる日々でした。副作用が強く出る期間と、少し回復する期間が波のように交互にやってくる。その繰り返しを、なんとか精神力で乗り切りました。 ようやく化学療法を終えたとき、腫瘍は手術が可能な大きさにまで縮小していました。そして2023年1月、私は左胸の全摘手術を受けました。 全摘後の病理検査で、最初の診断では乳管がんと言われていましたが、小葉がんに診断が変わりました。脇のリンパ節も半分ほど切除することになりましたが、身体の一部を失うことへの悲しみよりも、ようやく「悪いもの」を切り取れるという安堵感の方が強かったように思います。

言葉の刃と、医療現場のアンコンシャスバイアス

治療を進める中で、私は自身の性別違和について、主治医や看護師には一切伝えませんでした。その理由は、伝えたところで現場を混乱させ、がんという命に関わる治療に悪影響が出ることを恐れたからです。私は「とりあえず女性として扱われていればいい」と割り切り、あくまで標準的な「女性の乳がん患者」として治療を受けることに集中しました。 しかし、その決断は知らず知らずのうちに心を削っていきました。医療従事者から「あなたは女性なんですよ」と、身体の構造のみを根拠に断言されるたび、心にダメージを受けました。 特に抗がん剤治療の際、将来の妊娠や出産について「抗がん剤治療により妊孕性に影響がでる可能性がありますが、大丈夫でしょうか」と真剣に問われたとき、私は複雑な思いを抱きました。女性として扱う以上、必要な説明であることは理解しています。しかし、その言葉の端々に潜む「女性ならこう思うはずだ」という無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)が、私のような立場の人にとっては時に凶器になります。性別を断言されることが、どれほど個人の尊厳を傷つける可能性があるのか、医療従事者の方々にも知ってほしいと感じています。

孤独を埋めるための発信

がんの告知を受け、治療方針を決めていく過程で、私は多くの専門用語に突き当たりました。病理検査の結果に出てくる「ILC(Invasive Lobular Carcinoma:浸潤性小葉がん)」や「TNM分類」などの記号のような文字列。医師に尋ねても「医学書を読んでください」と突き放されたため、私は自分で一つひとつ調べ、勉強しました。 自分の状況を客観的に把握したい。その思いから、私は早い段階でブログを書き始めました。今日、何を言われ、何を感じ、身体はどう反応したのか。日記のように記録をつけることで、ぐちゃぐちゃになった心の整理をしていきました。また、治療専用のノートも作り、日々の体調の変化を記録し続けました。 このブログやノートは、孤独な闘病生活における数少ない支えとなりました。ネット上には多くの乳がん体験談がありますが、そのほとんどが「女性らしさを失う悲しみ」や「女性として再び輝きたい」といった、私には響かない価値観で溢れていました。トランスジェンダーや性別違和を持つ乳がん患者の体験談は、驚くほど世に出ていません。同じ境遇の人がどこかにいるはずなのに、誰の声も聞こえてこない。その孤独を埋めるためにも、私は自分の記録を書き残し続けました。

4年目の今、向き合う新たな日常

手術から時間が経ち、現在は術後4年目に入りました。現在の治療は、タモキシフェンの服用を中心とした10年を予定しているホルモン療法中です。強制的に更年期のような状態になるため、薄毛や身体の重だるさといった副作用に悩まされていますが、なんとか折り合いをつけています。 手術の後遺症もゼロではありません。左肩を動かすたびに違和感があり、低気圧の日や雨の日には、リンパを郭清した部分が重く腫れ、痛みが走ります。それでも、2023年11月からはパートでの事務仕事を始め、少しずつ社会との接点を取り戻しています。 経過観察の検査後に病院から「伝え忘れたことがあるから早めに来て欲しい」という電話がありました。電話口では内容を言えないと言われ、再発への不安が頭をよぎり、心がざわつきました。病院に行き、医師から告げられたのは、リンパ節への転移でした。胸骨の中の中央部分にあるリンパ節への転移です。手術ができる箇所ではないため、ステージ4扱いで化学療法による治療を行うことになりました。 こうなると職場にもがんのことを隠し通せなくなり、上司に相談することにしました。職場の異動や直接かかわる正社員の方にだけ状況を説明してもらうなど働く環境を整えてもらうことができました。

どうでもいいことに構っている暇はない

がんを経験し、さらにその後、ある難病指定も受けました。私の人生は、がん、難病、そして性別違和という、非常に複雑な状況になっています。人から理解してもらうことを半ば諦めている部分もありますし、説明することさえ面倒に感じるときもあります。 しかし、がんという死を意識する病気を通じ、私の死生観は大きく変わりました。「世の中のどうでもいいことに構っている暇はない」。自分の人生において、本当に大切なこと、自分自身がどうありたいかということだけに集中しようというスタンスになりました。 職場でも、がんのことは一部の人に話しましたが、性自認のことは伏せています。周りが結婚や家庭の話に花を咲かせていても、「それは私とは関係のない話だ」と、良い意味で距離を置けるようになりました。ストレスがまったくないわけではありませんが、自分の心を守るために「どうでもいいことは気にしない」という結論に至ったのです。 私の体験が、どこかで孤独を感じている「性別違和を持つ乳がん患者」に届くことを願っています。あなたの痛みも、あなたの違和感も、決して間違っているわけではありません。

これからがんと向き合う方へのメッセージ

今まさに、がんと向き合っている方、特に性別違和のある方に伝えたいことがあります。 自分の心と身体を切り離して考える時期があってもいい がんの種類によっては、自分の性自認と矛盾する部位の治療を余儀なくされることがあります。その葛藤は非常に苦しいものですが、治療を優先するために、一時的に「身体のメンテナンス」と割り切ることも、自分を守るためのひとつの知恵です。 記録をつけることで自分を客観視してください ブログでも、誰にも見せないノートでも構いません。自分の感情や治療の経過を可視化することは、混乱した状況を整理し、客観的な視点を持つ助けになります。後で読み返したときに、自分の歩んできた道のりが自信に変わるはずです。 医療従事者の言葉に傷つきすぎないでください 悪気なく発せられた言葉があなたの心を傷つけることもあるでしょう。しかし、それは相手の無知や想像力の欠如によるものであり、あなたの存在が否定されたわけではありません。辛いときは、その場所から心を遠ざけても良いのです。 「どうでもいいこと」を手放す勇気を持ってください がんは、人生の優先順位を整理する契機にもなります。他人の目や社会的な枠組みなど、自分を縛っていた「どうでもいいこと」にエネルギーを割くのをやめ、自分が平穏でいられる選択を最優先にしてください。
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