写真はイメージです。(AIによる生成)プロフィール
お名前:トコさん(ニックネーム)
年代:70代
性別:女性
家族構成: 夫と2人暮らし
仕事:一般社団法人(乳がん啓発活動)代表、診断時は大学教授
がんの種類:乳がん
診断時ステージ:ステージ2A
診断年:2023年
現在の居住地:兵庫県
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用、生活への影響には、個人差があります。医療的な判断や治療方針の決定の際には、必ず医師・医療従事者にご相談ください。
2023年1月、大学の教授だったトコさんは乳がんステージ2Aと診断されました。「卒業式で学生に卒業証書を手渡す」という大切な役目を目前に控えていたため、医師からは術前の薬物療法も提案されましたが、トコさんが選んだのは「卒業式に間に合わせる」ための手術優先の道でした。手術は無事に終了し1週間で退院されたトコさんは、卒業式で大役を果たし、4月には入学式、さらに授業をしながら自ら一般社団法人を立ち上げるという怒涛の1年を過ごされました。2024年に大学を退職し、現在は乳がんの啓発活動に邁進するトコさんに、診断から現在に至るまでの体験をお話ししていただきました。
自分の足で立ち、一人ひとりに卒業証書を手渡すという目標で決めた全摘
あれは2022年の12月末のことでした。ちょうど乳がん検診に行かなくてはと思っていた時期に、ふと自分で胸を触ってみると、「あれ、なんだかいつもと違う」と感じるしこりがありました。すぐにいつもお世話になっているかかりつけのクリニックで診ていただきました。先生は「これはちょっと……」という表情で、すぐに細胞診をしてくださいました。しかし、折悪く年末年始のお休みに入ってしまう時期でした。
年が明けた2023年の初め、クリニックで告げられたのは「乳がんです」という言葉でした。ステージは2Aとのことでした。
クリニックでは手術ができないため、家から近く、すぐに受け入れてくれる総合病院を紹介していただきました。総合病院でも再度検査を受け、診断は変わりませんでした。
当時、私は大学の教授で、3月22日には卒業式が控えており、私には、卒業生一人ひとりに卒業証書を手渡すという絶対に欠席できない大切な役目がありました。
総合病院の先生にお会いして、「先生、私は3月22日の卒業式に、どうしても自分の足で立って、学生たちの前でお話ししなくてはならないのです」と、真っ先に自分の事情をお話ししました。
私のステージや腫瘍の状態であれば、手術の前に薬物療法を行い、がんを小さくしてから手術をする(そうすれば乳房を温存できる可能性が高まる)という選択肢も提案されました。
しかし、私の「卒業式」という絶対的な期限を聞いた先生は、私の意をくんでくださいました。「わかりました。それなら、すぐに手術しましょう」と、即断してくださったのです。
私にはもう迷いはありませんでした。「お願いします」と即答し、右乳房の全摘出という選択をし、手術日は2月24日に決まりました。告知から手術まで、かかりつけのクリニックの先生や総合病院の先生が迅速に連携し、検査なども含めて非常にスムーズにスケジュールを組んでくださったことには、本当に感謝しかありません。
手術は無事に終わり、私は術後1週間で退院できました。今振り返ると、自分でも「よくあんなことができたな」と思いますが、当時は「卒業式」という明確な目標に向かってただただ必死でした。
そして迎えた3月22日。私は胸に手術の傷跡を抱えながらも、宣言通り、自分の足で立ち、卒業生一人ひとりに卒業証書を手渡すことができました。あの時の学生たちの晴れやかな顔は一生忘れません。
乳がん告知がもたらした「新たな使命」
卒業式という大きな目標を達成し、その後は入学式、授業と、大学教授としての最後の1年が「怒涛のように」過ぎていきました。
手術はしましたが、治療が終わったわけではありません。術後のホルモン療法は現在も続いています。最初のお薬は体に合わずつらかったのですが、2剤目でようやく合うものが見つかりました。また、手術の傷は胸から脇の下まで及び、その痛みは長く私を苦しませました。1日に10回以上「痛い」と声を上げていた時期が長く続き、手術から2年近く経った今、ようやくその回数が1日1、2回に減ってきたところです。
70代という年齢もあり、乳房の再建は考えませんでした。もちろん、温泉が大好きな私にとって、お風呂で人目が気にならないかという不安はありました。しかし、それ以上に私には「やるべきこと」が見つかったのです。
それは、がんと告知された瞬間にさかのぼります。「なんで今、私なの?」と思いました。人生も後半に差し掛かったこの時期に、「なぜ」とそう思った時、ふと、生前親交のあった瀬戸内寂聴さんの言葉を思い出したのです。
「人は生まれてから亡くなるまで、どこでどんな出来事があり、誰と出会い、別れるか、全て決まっているのよ」
その言葉が、私の中でカチッと音を立ててつながりました。「ああ、そうか。これは私ががんになったことも、定めだったのだ」と。
私は、半生以上を「人に伝える」仕事に捧げてきました。大学でも学生たちに「伝える」ことを教えてきました。このタイミングでのがん告知は、「あなたの体験を、あなたの言葉で、今度はがんのことを知らない人、悩んでいる人に伝えなさい」という、神様からのメッセージなのだと悟りました。
乳がんの早期発見・早期治療を啓発する一般社団法人を立ち上げ
その「悟り」が、私を突き動かしました。大学の仕事とがんの治療を両立させながら、私は2023年のうちに、一般社団法人を立ち上げました。乳がんの早期発見・早期治療を啓発するための法人です。
そして2024年の3月をもって大学を退職し、現在はこの一般社団法人の活動に全力を注いでいます。
私が目指すのは、大きなセミナーを繰り返すことではありません。もちろん、最初は200人近くの方を集めてセミナーも開催しましたが、私の原点は「サロン」です。4~5人の少人数で、膝を突き合わせるようにして、じっくりとお話を聞き、寄り添う。それが私のやり方です。
サロンに来られる方の悩みはさまざまです。治療の不安はもちろんですが、体験者でなければわからない、本当にささいな、でも切実な悩みがたくさんあります。
例えば、私は利き腕側の乳房を全摘したことで、包丁を使う振動が傷に響いて痛んだり、全摘した側の腕が以前のように真上まで上がらないなどの影響を経験しました。こういった「体験者あるある」は、家族や友人にもなかなか理解してもらえません。でも、サロンで「私、こうなのよ」と話すと、皆さんが「わかる!」「私もそう!」と一斉にうなずいてくださる。たわいもないおしゃべりでも、そうやって悩みを共有し、共感しあうだけで、皆さん心が軽くなるとおっしゃっています。
がんの早期発見・早期治療は自分のためであり大切な人のため
一般社団法人の大きな柱は、早期発見・早期治療の啓発活動です。講演会などに呼ばれれば、どこへでも行ってお話しします。
特にお伝えしたいのは、がん患者さんご本人に対してだけではありません。
男性にも、乳がんとはどういう病気かをお伝えしたいと思っています。今や乳がんは9人に1人、いずれ8人に1人がかかると言われています。皆さんのパートナー、奥さん、娘さん、あるいは職場の同僚がいつ当事者になってもおかしくありません。男性も乳がんになることがあります。他人事ではないのです。
そして、がん治療は手術をして終わりではありません。私のようにホルモン療法が長く続いたり、薬の副作用で体がだるく、ソファで横になりたくなる時もあります。それを「なんでゴロゴロしているんだ」と責めないで欲しいのです。周りの理解がどれほど患者の支えになるかを知って欲しいのです。
そして、今まさに子育てなどで忙しい若い世代の女性たちが、自分のことはついつい後回しになっていないかと心配しています。「マンモグラフィーは痛いから乳がん検診を受けたくない」という声をよく聞きます。でも「一瞬の痛みと、がんが見つからず進行してしまうリスクと、どちらが重要ですか」「あなたが倒れたら、お子さんやご家族はどうなりますか」と、想像してみてください。
早期発見・早期治療は、自分のためだけではありません。早く見つければ、治療も短期間で済み、仕事や家庭への影響も最小限にできる可能性があります。それは、自分を大切にすることであり、同時に周りの大切な人たちを悲しませないことにもつながるのです。
私は、この体験を伝えるためにがんになったのだと思っています。「伝える」という私の原点に立ち返り、これからもこの活動を続けていくつもりです。
これからがんと向き合う方へのメッセージ
私の体験が、今がんと向き合っていらっしゃる方、そしてそのご家族の皆様に、少しでもお役に立てれば幸いです。
あなたは決して1人ではありません。
がんと告知されると、孤独を感じたり、「なぜ私が」とネガティブになったりすることもあるかと思います。「人に知られたくない」と、ふさぎ込んでしまう方もいらっしゃるかもしれません。でも、どうか1人で悩みを抱え込まないでください。今や2人に1人は何らかのがんになる時代です。周りを見渡せば、同じ悩みや痛みを共有できる仲間がたくさんいます。お友達でもご家族でもいいですし、それが難しければ、私たちのような患者会やサロンをぜひ頼ってください。同じ体験をした仲間と話すだけで、心が軽くなることがあります。
ご自身の体を一番大切にしてください。
特に子育てやお仕事で忙しい世代の方は、ご自身のことをついつい後回しにしがちです。でも、あなたが倒れてしまったら、ご家族も心配されますし、何もできなくなってしまいます。まずはご自身の体を一番大切に考え、検診を受け、治療に臨んでください。それが結果的に、ご家族やまわりの方々を大切にすることにもつながると思います。
がんは「治る病気」だと信じてください。
医療は日進月歩で、がんは早期に発見すれば「治る病気」になってきています。手遅れになる前に、ご自身の体が出すサインに気づき、行動することが何よりも大切です。そして、もしがんが見つかっても、希望を捨てないでください。「自分は治る」と信じ、前を向く力が、治療の大きな助けになると私は信じています。