写真はイメージです。(AIによる生成)プロフィール
お名前:もきさん(ニックネーム)
年代:60代
性別:女性
家族構成:娘と二人暮らし(診断時は一人暮らし)
仕事:非常勤
がんの種類:卵巣がん
診断時ステージ:ステージ1C
居住地:東京都
診断年:2014年
※本体験談は、患者さん個人の経験に基づくものです。治療の経過や副作用、生活への影響には、個人差があります。医療的な判断や治療方針の決定の際には、必ず医師・医療従事者にご相談ください。
2014年9月、もきさんは卵巣がんと診断されました。区の健康診断の結果を聞きに行く予定だった前々日の夜に突然襲われた、経験のないほどの激しい腹痛。それは偶然にも、卵巣に潜んでいたがんを発見するきっかけとなりました。診断後は仕事や趣味の仲間、そして信頼する主治医に支えられ、手術と抗がん剤治療を乗り越えました。幸運な発見から10年が経ち、経過観察を終えたもきさんにお話していただきました。
卵巣がん発見のきっかけは、偶然の激しい腹痛
私ががんだとわかった経緯は、今振り返っても本当に「ラッキーだった」としか言いようがありません。2014年9月、区の健康診断の結果を聞きに行く予定日の2日前の夜でした。眠っていると、今までに経験したことのないような腹痛と吐き気に襲われました。あまりの痛みに寝返りを打つこともできず、一晩中痛みに耐えました。
当時、私は非常勤の仕事を掛け持ちしており、仕事を休むと収入が途絶えてしまいます。翌日も朝から夕方まで仕事が入っていたため、「一晩寝れば治るだろう」と無理をして出勤しました。痛みをこらえながらなんとか1日の仕事を終え、翌日健康診断の結果を聞きに行きました。
健康診断の結果は、全て「異常なし」。ほっとしたのもつかの間、まだ腹痛が続いていたため、医師に2日前の夜からの症状を相談しました。しかし、医師の見立ては「夏バテか疲れが出たのかもしれないね」というもので、痛み止めを処方され、「週末まで様子を見て、痛みが続くなら婦人科で診てもらってください」と言われるにとどまりました。
「そんなものかな」と思い、待合室で処方箋を待っていた時です。診察に付き添っていた看護師さんが深刻な顔で私のところにやってきて、「週末まで待たずに、今すぐ婦人科に行った方がいいですよ」と強く勧めてくれたのです。私は「これはただごとではないのかもしれない」と感じました。
「顔つきが良くない」—告げられたがんの疑い
その場でスマートフォンを使って近くの婦人科を探し、受付時間ギリギリに総合病院に駆け込みました。そこで超音波検査などを受けた結果、医師から「腫瘍がありますね。顔つきが良くないから、悪性の可能性が高いです」と告げられました。腫瘍の「顔つき」という表現に戸惑いながらも、「悪性ということは、がんということでしょうか」と尋ねると、医師は「そうです」と答えました。頭の中で「ガーン」という効果音が鳴ったのを覚えています。
幸運だったのは、その日の担当医が大学病院の医師で、「明日、大学病院に来られますか?」とすぐに精密検査の段取りをつけてくれたことでした。そして、偶然にもその日は勤務先の都合で仕事が休みになっていたのです。いくつもの幸運が重なっていると感じました。
翌日、大学病院で精密検査を受けると、こぶし大の卵巣がんが見つかりました。さらに、その腫瘍はすでに破裂しており、がん細胞がお腹の中に散らばっている可能性が高いとのことでした。痛みはほとんど治まっていましたが、医師からは「すぐに手術をして腫瘍を取り除きましょう」と説明を受け、入院と手術の日程が決まりました。診断から手術までは、術前検査などを含めて約1か月でした。
手術では、お腹を開けて卵巣と子宮を全摘しました。腫瘍が破裂していたため、転移の可能性がある周辺の虫垂や、お腹の中を覆っている網のような組織(大網)、リンパ節も30個ほど切除しました。手術中に迅速病理診断が行われ、悪性であることが確定したため、事前に説明を受けていた通りの広範囲の切除となりました。
最終的な病理検査の結果、がんは卵巣にとどまっており、ステージは1Cと確定しました。しかし、腫瘍が破裂していたため、目に見えないがん細胞が腹腔内に残っている可能性を考慮し、術後に再発予防のための抗がん剤治療を6クール行うことになりました。
仕事と治療の両立、職場での温かい支え
がんの診断を受け、まず頭に浮かんだのは仕事のことでした。非常勤の掛け持ちで生計を立てていた私にとって、治療で長期間休むことは死活問題です。特に収入の大部分を占めていた職場に相談したところ、「規定の日数を勤務できないのであれば退職してください」と、非常に冷たい対応をされてしまいました。治療費も生活費も払えなくなると困り果て、結局その職場は退職せざるを得ませんでした。
一方で、残りの2つの職場はとても温かく、親身に相談に乗ってくれました。「先生、何も心配しなくていいから。座っているだけでいいからね」と声をかけてくれ、シフトの調整などにも柔軟に対応してくれました。雇い主の冷たい対応とは対照的に、現場の同僚たちの優しさが心に染みました。
不思議なことに、抗がん剤治療の副作用で通勤電車では立っているのもつらいほど体調が悪くても、職場に着いて仕事が始まると、痛みやだるさを忘れて集中することができました。仕事が、がんのつらさを忘れさせてくれる時間になっていたのです。友人からは「仕事なんてしている場合じゃない。治療に専念すべきだ」という助言ももらいましたが、私にとっては仕事を続けることが、経済的な安心だけでなく、身体的にも精神的にも支えにもなっていました。
副作用との闘いと、趣味という心のよりどころ
抗がん剤治療は、月に1回、1泊2日の入院を6か月間続けました。副作用は想像以上につらく、治療を終えて3、4日経った頃から、強烈な倦怠感に襲われました。特に大変だったのは、見えない妖精が細い剣で体のあちこちを突然刺してくるような、ランダムに現れる激しい痛みでした。いつ来るかわからない痛みに、常におびえていました。
また、治療開始から2か月ほどで髪の毛は全て抜け落ちました。主治医から医療用ウィッグのカタログをもらいましたが、非常に高価で手が出ません。そんな時、アニメやコスプレが好きな娘が「池袋に安くて良いものがあるよ」と教えてくれ、一緒にコスプレ用のウィッグを買いに行きました。仕事の時は周囲を驚かせないようにウィッグを着けていましたが、普段の生活ではニット帽などで過ごしていました。
がんになったことを友人たちに話したところ、たくさんの友人から励ましのメッセージやアドバイスが届きました。「頭をぶつけると大出血するから、外出時は必ず帽子をかぶるように」といった具体的な助言は、本当にありがたかったです。
治療中の心の支えは、仕事に加えて趣味の存在でした。当時、私はアマチュアのオーケストラでフルートを吹いており、ロックバンドの「追っかけ」もしていました。がんと診断された時、告知のショックよりも先に「もうすぐ本番なのに、練習に参加できない」「予約したライブツアーのチケットが無駄になってしまう」といった、趣味に関する心配で頭がいっぱいでした。
手術後、抗がん剤治療が始まる前のタイミングで、オーケストラの本番に出演することができました。また、抗がん剤の副作用で体調が悪い中でも、主治医に相談し、白血球を増やす注射を打ってもらうなどの協力も得て、北海道のライブにまで行くことができました。何かに夢中になっている時間は、がんの苦しさを忘れさせてくれる貴重なひとときでした。
主治医の先生との出会いも、私にとっては大きな幸運でした。初診の時から「この先生は信頼できる」と直感的に感じました。誠実で正直な女性医師で、なによりごまかさずきちんと話をしてくれました。その先生を心から信頼し、全てを任せようと思えたことが、安心して治療に臨む上で何よりも大きかったと思います。
治療終了後10年を経て「卒業」、そして今思うこと
6クールにわたる抗がん剤治療を終えた後、幸いにも再発することなく、5年、10年と定期的な経過観察が続きました。そして2025年6月、ついに主治医から「もう来なくて大丈夫ですよ。治療終了です」と告げられました。10年という長い道のりを経て、ようやく「卒業」できたのです。
がんになって、死を意識したこともありました。主治医からは「最も悪い場合、余命は2年」という可能性も示唆されていました。その時、「何かやり残したことはないか」と考えましたが、娘の結婚を見届けたいという願い以外、不思議なことにあまり思い浮かびませんでした。その娘からも「一生結婚はしない」と宣言され、それならば思い残すことは何もないな、と妙にすっきりした気持ちになったのを覚えています。充実した人生を送れてきたのだと、改めて感じることができました。
振り返れば、偶然の腹痛から始まった私の闘病生活は、多くの幸運と周囲の支えによって乗り越えられたのだと思います。
これからがんと向き合う方へのメッセージ
私の体験が少しでもお役に立てれば嬉しいです。最後に、私からお伝えしたいことが3つあります。
• 信頼できる主治医を見つけてください。
何よりも大切なのは、心から信頼できる主治医と出会うことだと思います。不安なこと、わからないことを何でも相談でき、この先生と一緒に頑張ろうと思える存在は、治療を進める上で大きな力になります。
• 「楽しい」「ワクワクする」ことを大切にしてください。
主治医から「免疫を上げるために、とにかく楽しいこと、ワクワクすることをたくさんしてください」と言われました。治療中はつらいことも多いですが、趣味や好きなことに没頭する時間が、心の栄養になり、病気と闘う力につながると思います。
• やり残したことを考えてみてください。
もしものことを考えると不安になるかもしれませんが、一度「やり残したことはないか」と自分に問いかけてみるのも良いかもしれません。やるべきこと、やりたいことを整理することで、かえって心が落ち着き、安心して治療に専念できる場合もあると思います。