皆さん、こんにちは。ナビゲート薬物療法専門医の瀬戸貴司です。
今回は「学会」をテーマにコラムを書きました。
まず、「がん(腫瘍)を取り扱う学会の活動」とは何でしょうか?
それは、がんに関する研究、治療、予防などの発展を目的として活動する学術団体の事です。
主な活動内容として、以下のようなものがあります。
1. 研究成果の発表・共有
- 学会では、最新の研究成果や臨床試験の結果が発表されます。医師や研究者が集まり、がんに関する新しい知見を共有します。これにより、新しいがん治療や診断技術が広がります。
2. 学術論文の査読と発表
- 学会では、がんに関する学術論文が投稿され、その査読が行われます。質の高い学術論文集を発行する事により、更に質の高い研究が促進され、信頼性のある知見が蓄積されていきます。
3. 研修・教育プログラムの提供
- 医師や研究者、他の医療従事者向けに、がんに関する最新の知識や技術を学べるセミナーやワークショップが開催されます。これにより、医療従事者のスキル向上が図られ、より質の高い医療が提供されるようになります。
4. 国際的な協力やネットワーキング
- がん領域の学会は、国際的な活動が多く、他国の研究者や医療機関と協力して研究が進められます。これにより、世界規模でのがん治療の進歩が促進され、共通の課題に対する解決策が見出されやすくなります。
5. ガイドラインの作成・更新
- 学会は、がん治療の標準的なガイドラインを作成・更新する役割も担っています。これにより、最新のエビデンスに基づいた治療方法が臨床現場に反映され、患者さんへの適切なケアが提供されることが期待されます。
6. 政策提言や啓発活動
- がんに関する公衆衛生や政策の改善を目指し、政府や医療機関に提言を行う活動をすることもあります。また、一般市民に対してがん予防や早期発見の重要性を啓発するキャンペーンを実施します。
これらの活動のうちの「1. 研究成果の発表・共有」を行う場の一つが学術集会です。この学術集会を「〇〇学会総会」、英語では「Annual meeting」、「Annual conference」、「Annual congress」などと言い、この学術集会を指して「学会に行く」というように使います。
そこで、この「学会に行く」の学会を紹介したいと思います。
(私が胸部悪性腫瘍を専門とする薬物療法専門医であるため、胸部悪性腫瘍に偏っていることはお許しください)
がん全体を担当する学会で国際的な学会として、以下が挙げられます。
ASCO:American Society of Clinical Oncology
AACR:American Association for Cancer Research
ESMO:European Society for Medical Oncology
日本を代表する学会として、以下が挙げられます。
JSMO:日本臨床腫瘍学会 Japanese Society of Medical Oncology
JSCO:日本癌治療学会 Japanese Society of Clinical Oncology
ASCOは、アメリカの学会です。世界中の医師や医療従事者、研究者、製薬企業が参加する、世界最大のAnnual meetingです。以前は、アメリカ内の様々な大都市で行われていましたが、最近はシカゴで行われることが多く、初夏に行われます。最新のがん領域の薬物療法や研究成果が発表されます。我々、日本の医師や研究者も、ASCOに研究成果が、口演やポスターディスカッションで採択されることを目指しています。
また、その年のトピックスがプレナリーセッションに取り上げられます。ポスター発表の採択が多い中、私はこれまでに、2回の口演、4回のポスターディスカッションの機会を得ました。ちょっとだけ、自慢させてください。
AACRもアメリカの学会ですが、どちらかと言うと基礎研究や創薬されたばかりの治療薬に関する発表が行われます。
ESMOは、ヨーロッパの学会ですが、ヨーロッパの様々な都市で行われます。ヨーロッパの色々な国が関わるため、ASCOに比べると、研究成果の発表と言う観点においては、敷居が低い印象があります。最近は、世界中の医療従事者が参加するようになったことで、学術集会としての質もますます向上しています。ヨーロッパの色々な都市に行けるのも魅力の一つです。
また、ESMOアジア(開催地はシンガポール)も年に1回開催され、アジアの国々の研究者を支援するような学術集会も行っています。私は、このアジアの学会のアジア代表を務めさせて頂いたことがあります。
(コラム:https://oncolo.jp/lung_cancer_videos/column_221216/)
日本には、JSCOとJSMOの2つの大きな学術集会があります。JSCOは癌治療全体をカバーしており、外科治療に関する研究発表の割合が、薬物療法などの内科的治療を専門とするJSMOより多い印象です。
JSCOは秋、JSMOは春に行われ、大きな学会場を有する日本の都市で開催されます。特にJSMOは薬物療法専門医制度を導入するなど、がん薬物療法の専門性を高め、発展させることに力をいれています。また、英語セッションを多く企画して、日本だけでなくアジアの若い研究者が世界に羽ばたけるように努めている学会です。
次に肺がんを取り扱う学会を紹介します。
国際的にはIASLC:International Association for the Study of Lung Cancerが年に1回世界肺がん会議(WCLC:World Conference on Lung Cancer)を行います。この学会には世界中の病理学者、基礎研究者、放射線診断医、放射線治療医、外科医、内科医など様々な分野の肺がんや胸部腫瘍の専門家が集まり、最新の研究、臨床試験、治療法を共有します。開催地はアメリカ、ヨーロッパ、アジア、その他の地域から順番に開催国が決められます。古くから患者さんに参加・発表して頂く学会の一つであり、日本の患者さんにも発表していただいています。私もアジア代表理事を務めたことがありますが、世界全体での肺がん医療向上を目指し、1974年に設立された学会です。
日本肺癌学会(Japan Lung Cancer Society):日本呼吸器学会、胸部外科学会、呼吸器外科学会などもあるなかで、肺がんや胸部悪性腫瘍に関する研究、診断、治療の発展に特化した学会です。設立は1960年であり、最も古い学会の一つです。今年(2024年)は、10月31日から3日間、横浜で大江裕一郎先生が会長を務め、第65回肺癌学会総会が開催されます。本学会は、ガイドライン委員会の委員に患者団体の代表者に就任いただくなど、患者さんの積極的な参加をお願いしている学会でもあります。第65回肺癌学会総会にもPAP(患者支援プログラム)が用意されていますので、ぜひ参加いただき、「学会」を経験することをお勧めしたいと思います。
最後に、人間では非常に小さな臓器に特化したユニークな学会を紹介します。
胸部悪性腫瘍の一つである、胸腺悪性腫に特化した学会です。日本胸腺研究会や世界悪性胸腺腫瘍グループ(ITMG:International Thymic Malignancy Interest Group)もあり、2025年2月に私が第44回日本胸腺研究会を開催させていただきます。
以上、今回はナビゲート薬物療法専門医の私が関わる学会を紹介させていただきました。
お写真は第65回肺癌学会総会のポスターです。このようなポスターは極めて珍しいと思いますが、柔道着の帯の色や隠れた肺の絵も楽しんでください。
瀬戸
関連リンク:第65回肺癌学会総会ウェブサイト