第37回 OMCE がんに対する免疫療法セミナーレポート


  • [公開日]2019.03.05
  • [最終更新日]2019.03.19

講演タイトル:『がんに対する免疫療法
演    者:北野 滋久 先生
日    時:1月30日(水)
場    所:日本橋ライフサイエンスハブ

1月は、今話題のがんに対する免疫療法というタイトルでご講義頂きました。

がん免疫療法の歴史

がんの免疫療法の歴史は、実は19世紀の終わりごろにさかのぼります。

アメリカで肉腫の患者さんの腫瘍部に重度の感染症が発症し、感染症治癒後に肉腫が消滅したという記録が残っています。<この現象は、細菌に対する免疫が高まるとともにがん細胞を敵と認識する免疫機能も活性化され、がんを消滅させたと考えられました。

1950年代には、オーストラリアのフランク・バーネットよってがんと免疫の関連説が提唱されました。体の中では常にがん細胞が産生されいるのですが、免疫応答によってこれらが駆除されているというものです。この後、現在とは違う免疫療法やワクチン療法が開発されましたが、これらの治療用法は一部の患者には非常に効いたようですが、治療法としてメジャー級になることはありませんでした。

現在話題沸騰中の免疫チェックポイント阻害剤につながる発見は、1992年に京都大学の本庶先生らによってなされました。そこからさまざまな研究・臨床試験を行い日本で初めて承認(悪性黒色腫に対して)されたのは2014年です。このように効果の実証には長い時間と莫大な費用と努力が必要なのです。

免疫チェックポイント阻害剤特有の副作用

免疫チェックポイント阻害剤が、がん治療に有効であることが明らかにとなっており、がんの治療法が一変したといっても過言はないでしょう。この治療はこれまでの治療とは違った副作用があらわれることが分かっています。多くは、これまでの経験で対応できるのですが、発症頻度の低い重篤な副作用が起こることもあるので要注意です。

免疫チェックポイント阻害剤の副作用は全身のあらゆる場所に発症する可能性があります。様々な種類の副作用があり、腫瘍内科医でも経験のないものがあります。病院全体で患者さんを診るコミュニケーションが重要です。

治験について

標準療法では効果が得られなくなってしまっても化学療法を続けている患者さんがいらっしゃいますが、これは辛いことはあっても効果があることは少なく、中断されたほうが延命につながることもあります。

北野先生の外来では、このように現状の治療法では効果が得られなくなった患者さんが来院されますが、現在実施している治験に合う患者さんには治験を紹介したり、合わない患者さんには他の方法を一緒に考えています。

免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療は有効な方には非常によく効くのですが、時間経過とともに効果が減少していくことが分かっています。それを補完するために、現在免疫チェックポイント阻害剤と従来の化学療法や放射線療法、免疫チェックポイント阻害剤併用などの治験が実施されています。

がん免疫療法を受けるにあたっての注意点

巷には、「免疫療法」ということばを目にすることが多くなりました。しかしながら、広義の免疫療法はほとんどが臨床段階で、有効性が科学的に証明されている免疫療法はごくわずかです。

効果が明らかになっていない治療法は、保険診療として国から認められていないことから、患者さんが全額治療費を支払う自由診療として行っているクリニックなどもあります。

効果が得られる治療法は、基礎研究を経て多くの患者さんの協力により実施された臨床試験の結果をもとに評価され承認された治療法だけです。免疫療法にも効果が証明され保険診療になっているものと、効果が証明されておらず保険診療となっていないものがあります。

治験により新規の治療を得るためには、患者さんがその臨床試験に参加する選択基準が厳しこともあり、誰でもが参加できるものではありません。

効果が認められる治療法とは、多くの臨床試験で投与量、投与間隔、投与法を検証した治療法なのですから、効果が承認されていない疾患に認められていない投与量で治療を行うと謳う自由診療を提供するクリニックを訪問することをお考えの患者さんは、よくお調べし、よく検討してください。日本において、よい治療とは、健康保険が効く「標準治療」を指します。

当日ご聴講された方々より、「免疫療法についてわかりやすい講義だった」、「がん治療の進歩にとても期待がもてた」、「北野先生の熱い心意気を感じ、医療への姿勢など心を打たれた」など、多くのご感想が寄せられました。

北野先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。

2月22日(金)は、がん研究会有明病院 血液腫瘍科 照井 康仁先生をお迎えし、『急性骨髄性白血病(AML)』をテーマにご講義いただきます。

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(高橋さくら)

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