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第35回OMCE 胃がんセミナーレポート

[公開日] 2018.12.25[最終更新日] 2018.12.25

講演タイトル:『胃がん』
演    者:山口 研成 先生(がん研有明病院 消化器化学療法科 部長)
日    時:11月22日(木)
場    所:日本橋ライフサイエンスハブ8F D会議室

今月は、胃がんをテーマにご来場頂きました。

クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。

今回は、胃がんの化学療法について、セカンドオピニオンでも一番質問が多い、免疫の話・新薬の話を中心にご講義頂きました。

胃がんの化学療法の基礎知識

化学療法の目的

まず、化学療法の目的は、①がんを治す、②治癒率を上げる、③がんと共存する、という3つの目的があります。①・②は治癒(Cure)を目指すものであり、③はより良い時間を生み出す(Care)ものだと先生は仰いました。 補助化学療法など、治癒(Cure)を目指す場合は、薬剤強度が生存に影響を及ぼすので、しっかりやるのが良いそうです。リンパ腫の場合、計画投与量の90%以上の投与で、良好な生存が得られたというデータがあるそうです。 治癒(Cure)ではなく、③がんと共存する(Care)の場合は、心が折れないようときどき休むのも良いのでは、と仰いました。このように、同じ薬でも目的により使い方が異なるそうです。 胃がんのガイドラインでは、切除不能・進行再発など治癒を目指せない方でも、化学療法で生存延長が可能であることが科学的に証明されています。少数ですが、5年以上生存されている方もいらっしゃるそうです。

標準治療の成り立ち

次に、標準治療の成り立ちについてお話がありました。標準治療は、臨床試験の中で有効性や安全性が比較され、より有効性や安全性が高いことが証明されて、治療として勝ち残ったものです。 1次治療(ファーストライン)が効かなくなったら、2次治療(セカンドライン)、3次治療(サードライン)と進みますが、これは異なるメカニズムでがんを抑える薬を使用します。 セカンドラインに治療を変える際、「今でも副作用を強く感じるのに、より強いものにするのか」と患者さんは不安な質問をよくされるそうです。それは誤解であり、変える=強い薬に変わるという意味ではないそうです。 変える際も、抗がん剤はそんなに種類がある訳ではないので、最大限抗がん剤の力を出してから変えた方が良いそうです。エスワン+シスプラチン療法が胃がんの標準治療として確立されていますが、治療中止の理由に副作用や同意撤回が多い傾向があります。 現在は副作用が乗り切りやすい、オキサリプラチンを使用するSOX療法が主流となりました。 また、フッ化ピリミジン系の薬は大腸がん・乳がんでは主にゼローダを使用されますが、胃がんではTS-1が飲みやすいように剤形の工夫がなされており、胃がんで通りが悪い方、手術で胃を切除されたかたでも、飲みやすく、胃がんで汎用されているそうです。

胃がんの化学療法についてよくある質問

抗がん剤はメディアなどで副作用ばかりで効かないと悪く書かれることも多いですが、効かない・苦しいものではなく、科学的根拠があり、効くものであると先生は仰いました。 化学療法で長生きができるか、という質問に対しては、5年生以上の長期延命が見込める方も一定数おられることが2004年の論文にも発表されているそうです。

食事がとれない方に対しての治療

食事がとれない方(食べられない状態の人にがんが見つかった場合)に対して化学療法はどうするのか、という質問に対しては、胃を切除してしまうと抗がん剤の忍容性が低く(耐えられない程の重い副作用がある状態の事)なるそうです。 よく、あるのがステント(血管・気管・消化管・胆管などを内側から広げるために用いられる、金属製の網状の筒)を入れるのはどうかという質問に対しては、安易に入れるべきではないそうです。 お粥などは食べられるようになるそうですが、長期に入れると大腸などでは腸に穴が開くというデータもあるそうです。 では、何が勧められるかとなると、安易に切る・ステントを入れるよりまずは抗がん剤だそうです。 元々大腸がんで使用されていたFOLFOX治療は、全て点滴で行うので胃がんによって食事がとれない方でも適切に治療されると考えられています。投与に伴って鎖骨下に入れる中心静脈ポートは、食事がとれない方の点滴栄養にも用いることが出来ます。 がん研有明病院で本治療を投与された13名の食べられなかった胃がんの方が、11名食べられるようになったデータもあるそうです。食べられないから抗がん剤をやらない、手術を選択するのではなく、抗がん剤を選択することで食べられるようになることもある、と先生は仰いました。

Her2陽性胃がんについて

胃がんの15%では、「HER2(ハーツー)」と呼ばれるタンパク質ががん細胞の増殖に関与していると言われます。このHER2陽性の胃がんにはハーセプチン(トラスツズマブ)に効果が期待でき、標準治療にハーセプチンを加えます。 診断のベースは内視鏡の生検となりますが、胃がんではHer2は不均一に発現します。そのため、内視鏡診断の時の生検個数が少ないと診断の精度が落ちることが懸念され、理想は5個以上の生検で精度の高い診断ができるそうです。 再発した人は、胃を切るより生検で診断がおこなわれますが、その際Her2ではない部分を取ってきてしまう恐れもあるので、しっかりとらないと抗がん剤の選択が変わるそうです。

1次治療が効かなくなった時

2次治療(セカンドライン)は、ラムシルマブも勧められます。パクリタキセルとラムシルマブを併用することで、死亡リスクを下げ、生存期間を向上してくれるそうです。 また、副作用に関してもパクリタキセル単独にくらべ、ラムシルマブを併用した場合のほうがQOLを維持できると報告されています。従来パクリタキセルは肝転移に弱いと言われていましたが、ラムシルマブと併用することで肝転移にも高い効果が期待できているようです。

がん免疫療法の歴史

ノーベル医学生理学賞を受賞された本庶先生の免疫研究も、PD-1発見から20年かけてニボルマブという薬になりました。がん種ごとに免疫の反応性も異なり、メラノーマでは高い効果が認められていますが、消化器がんではそこまでは効かなかったそうです。 そのために、1次治療で単独で用いるには現時点のエビデンスでは推奨されていないそうです。副作用も免疫の暴走によるものがあり、時に重篤になることもあります。 しかし期待されている治療なので、今後は効く患者さんの絞り込みや、有効性を上げる取り組みなどに期待したいものです。

胃がんの化学療法のこれから

現在、1次治療へ追加できるかどうかの臨床試験が多く進んでいます。その為、1、2年でガイドラインが変わるかもしれないそうです。 将来はPDL-1は組織の中でどんな発現をするかが、免疫チェックポイント阻害剤の選択に非常に重要になって来ると考えられています。

新たに承認される薬

胃がんの3%程である、MSI-H陽性の方にPD-1抗体であるペンブロリズマブが有効性を示しました。近いうちに、日本でも承認予定だそうです。 一方大腸がんで使用されている、ロンサーフは胃がんでも臨床試験され、緩和医療と併用することで生存期間を延ばすことが証明されました。承認申請されたので1年程度で臨床の現場に出てくるそうです。 この様に、様々な薬剤がガイドラインに追加される可能性があり、使える薬剤の選択肢が増えることが期待できます。 最後に、将来の治療としては、全ての患者さんに同じ治療をすることが、本当によいことかと疑問を投げられました。これからは、タンパク発現や遺伝子変異をみて、より患者さんを細分化し、個々に治療が変わる時代がすぐそばに来ているかもしれないそうです。 いまのところは、遺伝子変異などがわかっても、標準治療から行います。しかし将来は、遺伝子がわかれば治療を選択できる時代になる、と先生は締めくくりました。 また、質疑応答では、認定NPO法人「希望の会」理事長の轟 浩美さんも加わり、ご回答頂きました。 会場からは、すぐにステントをしない方が良いと聞いたが、主治医が望む場合はどうすれば良いか、免疫チェックポイントと分子標的薬の組み合わせについて、などの質問が挙がりました。 主治医がステントを望む場合については、セカンドオピニオンを勧めるそうです。日本では抗がん剤専門医は少なく、主治医が抗がん剤の力を十分理解されていない場合もあります。 また、轟さんからは、セカンドオピニオンは、国の対策が認める患者の権利。患者が納得するまで何度も受ける事は可能であり、主治医の専門性を考えて、外科であるなら内科の医師に相談するなど、別の立場の医師のセカンドオピニオンを受けるということもひとつである、とアドバイスを頂きました。 免疫チェックポイントと分子標的薬の組み合わせについては、メラノーマでは高い有効性が報告されています。肺がんでも検討が進んでおり、胃がんでも臨床試験で様々な組み合わせが検討されています。 現在は、放射線や血管新生阻害剤との試験が最も期待されているそうです。しかし、こちらも短期成績だけで判断するのはミスリードすることがあるので、もう少し結果を見守る必要があるそうです。 轟さんは、「日本は標準治療が優れており、世界のトップリーダー。海外では3次治療までありません。標準治療を行っているのは信頼できる病院で、アフターフォローもしっかりしています。一方、高額なクリニックではアフターフォローはありません。安易な併用の危険性も考えられます」と注意を促していました。 最後に先生は、インターネットなどで流布されている保険承認されていない治療や特殊な治療を、なぜ国立がん研究センターやがん研などの病院が採択していないのか、ということを考えて治療を選択してほしいとアドバイスを下さいました。 抗がん剤は副作用ばかりが注目されることが多いのですが、実際は抗がん剤を使用することでモルヒネの使用が中止したり、食事がとれるようになり、副作用があったとしても体が楽になることもよくあるそうです。 一番効果が認められているものなので、うまく使って、良い時間を過ごして欲しい、と仰いました。 当日ご聴講された方々より、「最新の情報や具体的でわかりやすい質疑応答で大変勉強になった」「何を選ぶかは効果だけでなく、治療を受ける生活とのバランスが大事だと思えた」「将来、更に進歩していくと希望がもてました」など、多くのご感想が寄せられました。 先生のご講義は、昨年とも内容が異なり、より私たちが知りたい内容を丁寧にご説明頂き、目からうろこの情報も満載でした。 山口先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。 (赤星)

12月26日(水)は、ディスカッションに日本医大武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授の勝俣範之先生をお迎えし、『患者・遺族の声を聴く』をテーマに様々な領域で活躍する患者さんとご家族の方にご講義いただきます。

次回は通常と異なり水曜日開催です。ご注意ください。会場は「日本橋ライフサイエンスハブ8F D会議室」です。皆様のご参加をお待ちしております。

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