講演タイトル:『乳がん』
演 者:佐々木 康綱 先生(武蔵野徳洲会病院腫瘍センター長・副院長
日 時:5月25日(金)
場 所:日本橋ライフサイエンスビルディング 201会議室
今月は、乳がんをテーマにご来場頂きました。
クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。
今回は、「基礎知識」「標準治療」「遺伝性乳がん」「最新のトピック・今後の展望」を中心にご講義頂きました。
乳がんの基礎知識
そもそも乳がんとはどんなものか?乳がんは主に乳房の中にある乳管と腺葉から発生し、それぞれが浸潤しているか・非浸潤の状態かに分けられ、どれに分類されるかで基本的な治療戦略がたてられます。
また、リンパ節にどの程度転移が見られるか、増殖能、遺伝的要素などに治療先約を決める上で重要な因子です。
日本人が生涯で乳がんに罹患する確率は全部のがんの中で最も高いのですが、死亡率は大腸がん、肺がん、胃がん、すい癌についでいます。つまり乳がんにかかる日本人が多いのですが、治療により長期に生きられるということです。
また、近年、若い方々の乳がんの死亡率が減少してきているとのことです。
乳がんの標準治療
乳がんの治療の中心である薬物療法は多様性が高いことが特徴です。乳がんが診断されると、その治療をいつからするか(手術前、手術後、転移再発後)、どの薬を選択するかなど決定することが多いのです。ホルモン薬、化学療法薬、分子標的薬、これらの併用などの選択肢があります。
乳がんの患者さんに特徴的なHER2というタンパク質が表現しているか、増殖力が強いか弱いか、ホルモン薬に感受性があるかなどを調べることが必須です。
これらの結果を組み合わせにより、薬物治療の選択が行われます。乳がんに対するホルモン薬、化学療法薬の種類は多く、どの薬をどのように使用するかを腫瘍内科医は熟知して治療に取り組んでいます。
近年では、従来の標準治療に組み合わせて使用することで効果が高い新薬が出てきました。
今回のセミナーでは数種類の新しい機序の乳がん治療薬の説明がありました。これらにより、これまでの治療では効果が得られない患者さんに効果が認められるようになってきています。しかし、強い副作用が現れる場合があったり、非常に高額だったりといった問題も見られるようです。
遺伝性乳がん
また、近年では遺伝子情報の解析が可能となり、個人に至適な薬剤の選択も可能となっています。
乳がんの患者さんに特有の遺伝子の変異がわかっており、それらの変異のある患者さんのみ有効な薬剤が開発されています。多くの場合あらかじめ遺伝子の検査が必要ですが、保険の適応がなく、現在、高額の遺伝子検査を自費で賄わなければなりません。
現在、様々なところで話題になっている遺伝性乳がん/卵巣がん症候群についてもご説明いただきました。
アメリカ人女優のアンジェリーナジョリーさんが予防的乳房切除をしたことがセンセーショナルでした。遺伝性乳がん/卵巣がん症候群が疑われる場合には「BRCA1/2遺伝子」の有無を調べます。
一般の人は、遺伝子変異があれば100%がんになる、娘に自分の病的な遺伝子変異がある、などの間違った認識を持っていることが少なくないと言います。
遺伝子を検査することのメリットとデメリットをきちんと理解することがとても重要です。そのため、遺伝性乳がんについて詳しく知りたい方は、遺伝子カウンセリングを受けることをおすすめします。しかし、遺伝子カウンセリングも検査も保険の適応が認められていないので自費となります。
最新のトピック・今後の展望
最後に佐々木先生は乳がんの治療で重要なことは、適切な薬剤を、適切な量で、適切な患者さんに使用すること、と締めくくられました。
当日ご聴講された方々より、「難しい話をなるべく分かりやすく説明して頂き凄くよかった!」「実例を通してやさしく説明して頂いた。」「治療をどのように決定していくかの指針である、自己決定力が付いた。」など、多くのご感想が寄せられました。
本セミナーでは、専門的な内容を大変わかりやすくご説明いただきました。新しい薬剤にも副作用もあり、適正な患者さんじゃないと効果が得られないこと、保険の問題や経済的な問題もあるなど、最適な乳がんの治療を受けるのはそう簡単ではないということがわかりました。
佐々木先生には、これまでのご経験や普段は聞けない医師の立場のお話などもいただき、先生の魅力が光るご講演でした。先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。
次回は、6月22日(金)は、東京オンコロジーセンター代表 大場 大 先生をお迎えし、「がん医療情報」をテーマにご講演いただきます。
5月以降のセミナー情報