講演タイトル:『日本初?EGFR陽性肺がん限定の患者セミナー
~複雑化する治療に迷わないため~』
講    師:大江裕一郎先生
日    時:6月13日(水)
場    所:日本橋ライフサイエンスハブ A会議室

今月は、RGFR陽性肺がんをテーマにご来場頂きました。
クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。
今回は、タイトルにありますように、複雑化している肺がん治療の中でもEGFRに特化し、ご講義頂きました。

何故、EGFR阻害薬か?

2002年世界に先駆け日本で承認されたゲフィチニブイレッサ®)は、進行した肺がん患者さんに対して、それまでの治療に比べ、効果が高く生存期間も大きく延ばしました。しかし、海外で行われた第3相臨床試験では、プラセボ治療に対しゲフィチニブ単剤の効果は有意差なし(プラセボ治療により優れていることが明らかではない)という結果がでたのです。

当時の医師間の感想としては、「効く人にはよく効くが効かない人には全く効かないな!」というものでした。その後、2004年に、EGFR遺伝に変異のある患者さんにはゲフィチニブが奏効することが発表されたのです。

EGFR(上皮成長因子受容体)は細胞膜表面にたくさんあり、外部から刺激(増殖因子)を受けると、細胞が増殖するのに必要なシグナルを順々に細胞内に伝えます。がん細胞上にも同様にEGFRがたくさん存在し、このEGFRに変異があると、がん細胞を増殖させるスイッチが常にオンとなっているような状態となり、がん細胞が限りなく増殖してしまいます。細胞内のシグナルにはいくつもの順番に伝えられて行くのですが、その途中に変異があると、EGFR変異がなくても同様のがん細胞の増殖がみられるのです。

現在の4期非小細胞肺がん薬物治療ガイドラインでは、非扁平上皮がん治療でEGFR変異に対して3次治療まで記載があります。

EGFR阻害薬の特徴と使い分け

現在、国内で承認されているEGFR阻害剤は第3世代まで4剤があり、特異性と副作用にそれぞれの特徴があります。これらをどのように使い分けているかというと、使い慣れた薬剤を使っているというのが現状でしょう。しかし、副作用にはそれぞれ特徴があるので、患者さんの状態などにより使い分けることもあります。

イレッサ®(ゲフィチニブ)やタルセバ®(エルロチニブ)が第一世代に、ジオトリフ®(アファチニブ)が第二世代、タグリッソ®(オシメルチニブ)が第三世代に分類されます。

EGFR遺伝子変異陽性の患者さんに殺細胞性抗がん剤は必要か?

ゲフィチニブとシスプラチン+ドセタキセルの治療効果を比較したWJTOG3405試験の結果ではゲフィチニブ単剤が有意のように見えるのですが詳細解析の結果シスプラチン+ドセタキセル併用が有用と考えられます。

その結果、「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン」では、『遺伝子変異陽性例の患者においても、遺伝子変異のない患者で推奨される細胞障害性抗癌剤を行うように推奨する(強い推奨)』と記載されているのです。

日本の実地診療の現状

REAL2000試験では、実臨床でのEGFR陽性非小細胞肺癌患者がどのような治療が行われ、どんな経過を辿っているかを検証しました。

結果から、キードラッグがEGFR阻害薬であることは間違いないのですが、初回治療でEGFR阻害剤、2次治療以降でプラチナ製剤を受けた患者さんは30%以下、EGFR阻害薬のみで治療が終了している患者さんも多く、半分以上でプラチナを含む治療が入っていない実情が報告されました。この試験は日本でも肺がん治療の専門医のいる病院が中心となって実施されたものです。

その一方で、DPCデータ(専門病院以外も多く含む)による非扁平上皮がんに対する化学療法の実施状況では、ガイドラインに準じていない治療法を実施している例が多くみられました。

脳転移の治療

「非小細胞肺癌脳転移例の治療方針」では、病変の数と大きさにより定位的放射線手術をするか全脳照射をするかの指針が示されています。定位的ではガンマナイフにするかサイバーナイフにするかという決まりはなく患者さんとの相談が重要です。脳転移のある患者さんに対する治療ではEGFR阻害剤のエルロチニブの効果が高いことが報告されています。

皮膚障害への対応

分子標的薬であるEGFR阻害剤は、ターゲットとする遺伝子にピンポイントで作用し、正常な細胞には作用しないため、副作用が少なく抑えられますが、皮膚障害の起こる頻度が比較的高いです。その中での頻発する爪囲炎では治療以前に重要なことが起こさないようにすることです。深爪をさけ、窮屈な靴ははかないようにして手足を保護し、皮膚の清潔と保湿を保ちます。爪があたらないようなテーピングも有効です。

オシメルチニブ(タグリッソ®)

第一世代、第二世代のEGFR阻害剤による治療歴がある非小細胞肺がん再発の患者さんでは EGFR阻害剤に治療抵抗性を示す方がいます。その原因の 1 つが T790M 変異です。そこでT790M変異のある患者さんを対象に開発されたのはオシメルチンブです。EGFR阻害剤に抵抗性でEGFR T790M変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がんを対象とするAURA試験で61%の奏効率を示しました。

そこで、FLAURA試験では治療歴のないEGFR変異陽性の進行転移性非小細胞肺がんの患者さんに対しオシメルチニブと現在の標準的な治療(ゲフィチニブもしくはエルロチニブ)と比較し、無増悪生存期間PFS)の改善を示しました。現在オシメルチニブの一次治療が申請中(現在未承認)です。

T790Mの検出

オシメルチニブが有効なT790M変異を検出するのは、EGFR阻害剤が抵抗性となった後に生検をすることになるのですが、実際に生検が実施されているのは4割以下という状況です。

この生検でT790Mを正しく検出するには、がんが進展している組織から採取する必要があり、生検を行いえない患者さんもいます。その場合、他の検査を実施する必要があります。

それがリキッドバイオプシーの「コバス® EGFR変異検出キット v2.0」です。採血(血漿)だけで遺伝子の変異が検査できる夢のようなリキッドバイオプシーですが、組織生検陽性の患者さんで血漿検査も同じく陽性をしめす患者さんは60~70%です(AURA2試験)。組織検査陰性で血漿検査陽性を占めるケースが20%程度あります。

EGFR遺伝子変異陽性患者さんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果

免疫チェックポイント阻害薬のEGFR変異陽性の患者さんに対する効果はいくつかの臨床試験で検討されています。3種類の免疫チェックポイント阻害薬で試験を行った結果、EGFR変異陽性患者への効果はあまり高くありません。

免疫チェックポイント阻害薬が効果を発揮するには、免疫担当細胞が、がん細胞を異物と認識することが必要なのですがEGFR遺伝子変異陰性の場合は、様々な遺伝子変異が重なってがんが発症していると考えられ、体の免疫担当細胞が異物と認識しやすく、免疫チェックポイント阻害薬の効果が発揮しやすいと考えられています。一方、EGFR遺伝子変異陽性の場合は、EGFR遺伝子変異が発症の大きな要因になっていて、他の遺伝子変異が少ないことが、免疫チェックポイント阻害薬の効果が出にくい理由と考えられています。

ASCO2018

今年もシカゴで6/1-6/5で行われたASCOで発表された臨床試験の結果が紹介されました。

まず、イレッサ単剤とイレッサにカルボプラチン、ペメトレキセドを併用するという化学療法を同時に併用するNEJ009試験となります。この3剤併用療法とイレッサ単剤療法を比べますと、無増悪生存期間はおろか全生存期間も延長し、52カ月対38カ月という大きなものでした。

その他、エルロチニブ単剤対エルロチニブ+ベバシズマブの比較をする第二相JO25567試験で2014年に報告された中間解析で、無増悪生存期間はエルロチニブ+ベバシズマブ群が有意に延長を示しましたが、今回報告された全生存期間の解析では有意差が認められませんでした。今回、未治療のEGFR変異陽性非小細胞肺癌におけるエルロチニブ単剤対エルロチニブ+ベバシズマブの比較をする第三相NEJ026試験の報告で無増悪生存期間はエルロチニブ+ベバシズマブ群が有意を示しました。この数年後に明らかとなる全生存期間が期待されます。

JCOG1404

JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)でにEGFR変異陽性肺がんに対する臨床試験を実施進行しています。
その前に、従来の殺細胞性抗がん剤がEGFR阻害剤耐性を克服する仮設について紹介されました。EGFR阻害剤が著効したがん細胞の中にもわずかなEGFR耐性細胞が存在し、それが増殖し耐性となってしまいます。

そこでEGFR阻害剤治療後、一時殺細胞性抗がん剤治療を行うことでEGFR阻害剤耐性細胞を完全に除去しその後再びEGFR阻害剤の治療を行うことで治癒を目指すというものです。JCOG1404/WJOG8214L: AGAIN試験で現在検証中です。

現在の「IV期非小細胞肺がんの薬物治療ガイドライン」は、オシメルチニブの承認や他の臨床試験の結果から来年にも改定になります。

質疑応答

Q:分子標的薬の使い分け:イレッサローテーションについて

A:イレッサ+化学療法が望ましい。イレッサ→タルセバ→ジオトリフは効果的には望めないが、薬剤コンプライアンスの問題から変更することは妥当
変更のタイミングにははっきりしたエビデンスがないので医師の経験によるものが大きい。

Q:ガンマナイフのリスクについて

A:全脳照射:認知機能に影響する可能性がある
 :ガンマナイフ:照射部位に壊死を起こす可能性
 :ガンマナイフ+化学療法:エビデンスなし

Q:患者は、どの程度がんやがん治療について知識を持つべきか?

A:そのくらいの正解はない。しかし、重要なことは、間違った教科書で勉強してはいけない、ネットに氾濫している間違った、いい加減な情報を信じないように、国立がん研究センターやJCOGなどから勉強してほしい

今回のセミナーの参加者は150名、Webからの参加者が60名。セミナー事前の質問、終了後の質問も多く、参加されている方々の真剣さと熱気が感じられたセミナーでした。大江先生のご回答はそれぞれにわかりやすく説明してくださいました。普段は厳しい大江先生ですが、今回のセミナーでは、患者さんの真剣さや非常に専門的な難しい質問に対し、優しく対峙されていました。司会の進行の長谷川さんの質問がタイミングよく、さらに理解を深めることになっていたようで、非常に有意義なセミナーでした。
しかし、EGFR陽性肺がんに対する治療はさらに複雑化していくことも理解できました。

当日ご聴講された方々より、「難しい話をなるべく分かりやすく説明して頂き凄くよかった!」「実例を通してやさしく説明して頂いた。」「治療をどのように決定していくかの指針である、自己決定力が付いた。」など、多くのご感想が寄せられました。

先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。

記事:高橋 さくら・可知 健太

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