治験や臨床試験に関するQ&Aを順次掲載
こちらも参照ください。
・オンコロ辞典「臨床研究/臨床試験/治験」
・もっと知ってほしい薬の開発と臨床試験のこと
目次
製薬企業が実施する治験の場合、治験を実施する前に、臨床試験開発担当(モニターもしくはCRAと呼ばれる人)が、 候補の医師や医療機関が治験を実施するのに適切であるかをGCPという法律の観点から確認します。 具体的な条件は各治験ごと異なりますが、一例を示します。
・治験を適正に行うことができる十分な教育及び訓練を受け、かつ十分な臨床権を有すること
・治験実施計画書(プロトコル、もしくはプロトコールとも呼ばれます)、治験薬概要書及び治験薬の取り扱い方法の説明文書に記載されている治験薬の適切な使用方法に精通していること
・治験を行うのに必要な時間的余裕を有すること
治験が開始される前に、「どういう試験内容なのか?」、「被験者(治験に参加される人たち)の安全性は確保できるのか?」など、治験の内容を科学的、法律的、倫理的な観点から審査する委員会です。
一般的にIRB(Institutional Review Board)とも呼ばれます。治験審査委員会は治験が始まってからもGCPという法律に則って開催され(現在、ほとんどのIRBが毎月開催される)、適宜審査されています。
治験内容を科学的な側面だけでなく、法律的・倫理的な側面からも判断しないといけないため、IRBメンバーは医学専門家以外にも非医学的専門家も参加します。また、審査する治験に携わっている委員は審議に参加できません。例えば、治験責任医師は、たとえIRB委員であっても自分が担当する治験の審議に参加することはできません。これらはGCPで明記されています。
治験審査委員会にて審議される資料としては以下のようなものがあります。これもGCPに明記されています。
よって、オンコロで掲載している治験広告は全て治験審査委員会にて審査が行われ承認されたものを使用します。
倫理審査委員会(Research Ethics Committee; EC)は、治験審査委員会(IRB)と同義で使われることが多いです。しかし、IRBは主として医薬品や医療機器の承認に関する治験についての審査を行い、倫理審査委員会はそれ以外の臨床試験、臨床研究および疫学研究の審査を行うなど別組織になっている医療機関もあります。
また、倫理審査委員会では遺伝子治療臨床研究、ヒトゲノム・遺伝子解析研究、ヒト幹細胞を用いる臨床研究を審査する場合があります。
これらは被験者の遺伝子を扱うため、更に被験者の倫理的な側面が的確に確保(保障?)されるのかを、より厳密に審査されます。すなわち、臨床試験において、より被験者の人権の保護、安全の保持、及び福祉の向上が確保できるかを審査する委員会ともいえます。
インフォームドコンセントは説明と同意といった意味です。全ての臨床研究において、治験担当医師等から研究内容について、「同意説明文書」といった文書によって患者に説明し、その内容に患者自らの意思で文書によって同意を得る必要があります。この一連の行為をインフォームドコンセントと呼びます。
治験においては、同意説明文書に最低限記載しなければならない事項はGCPにより決まっています。
「治験とは?」
「治験内容(スケジュールや参加できる基準)」
「治験に参加されることで予想されるメリット・デメリット」
「治験に参加しない場合の治療について」
「被験者に支払われる費用について」
「個人情報の取り扱い」など
治験の被験者が未成年の場合
基本的に未成年者はインフォームドコンセントを自分の意思で結ぶことはできません。未成年者が組み込まれるような臨床試験では、「代諾者」と呼ばれる人(たとえば、両親などの親権者)から被験者に代わって書面にて同意を得ます。
治験に参加するのは、患者の自由意志となります。強要されるものではありません。よって、治験に参加された場合でも、いつでも自由意思によって取りやめることが出来ます。ただし、治験を安全に終了するために、治験の取りやめを決定された後でも、フォローアップのための検査等を実施することがあります。
治験を中止したい場合は、治験担当医師や治験コーディネーターなどにご相談ください。
なお、治験を中止した場合や治験に参加しなかった場合でも、医療上不利益を講じられることはありません。
一般的に治験に参加された場合、治験に参加されることにより来院数や検査項目の増加などを軽減するために負担軽減費といった費用を受け取ることができます(受け取りを拒否することもできます)。また、治験に関連のある検査を実施したときの検査費用は、治験薬を開発している製薬企業等が支払うことが多いです。
これら被験者に関わる治験の費用は、負担軽減費及び保険外併用療養費と呼びます。
負担軽減費
多くのケースで、同意取得後から治験薬の最終投与後の観察期間が終了するまでが対象となります。基本的には、来院1回につき7000円から10000円を支払うというケースが多いです。この支払額は治験の内容やその対象疾患によって違います。また、支払額に関してはその治験審査委員会にも審議をかけ、支払額の妥当性を検討した結果、決定されます。
保険外併用療養費
日本では、混合診療(保険対象になる医療と自由診療を同時に行われること)を行った場合、全ての診療費が保険適応にならなくなります。よって、保険対象外の医療が行われ場合は、保険対象となる医療費も含み全て患者が負担する必要があります。
しかしながら、先進医療や患者申出療養は例外となります。これは保険診療部分は保険適応となり先進医療等の医療費のみ100%患者負担になります。また、治験薬のように承認されていない薬剤を使用する場合も例外となり、この制度のことを保険外併用療養費制度といいます。
どの期間が対象なの?
保険外併用療養費制度における、支給対象となる「治験期間」は「治験薬の投与開始日から終了日までの期間」となります。
どんな費用が対象なの?
治験に係る診療のうち、治験を実施する製薬企業が負担する費用(企業が主導の治験の場合)は下記になります。
・検査及び画像診断に係る費用
・投薬及び注射に係る費用
・治験の対象とされる薬物の予定される効能又は効果と同様の効能又は効果を有する医薬品に係る診療
上記を紐解くと、「治験薬を投与している期間については、検査費用、画像診断費用や同種同効薬の投薬や注射の費用」は患者さんが負担することはないということになります。
ただし、初診料や再診料、手術などに関しては被験者が保険診療に則り負担することになります。治験によっては、治験薬投与前の検査や終了後の検査等についても支払いがない場合もあります。こちらも治験担当スタッフに確認することが大切です。
生活保護を受給している場合
現在、生活保護を受給しており治験に参加する場合は注意が必要です。生活保護法第52条で第2項にて負担軽減費は収入の一部とみなされ、生活保護の適応除外又は減額の事由になる可能性があります。そのため、生活保護を受給している方は、まず治験実施医療機関のCRCやソーシャルワーカーの人に相談することが大切です。
各自治体の福祉事務所/福祉課に判断してもらい、生活保護を継続的に受給できるかを確認する必要があります。また、保険外併用療養費制度は保険診療に基づく制度であり、生活保護を受給中の方はそもそも保険診療を受けていないといった背景があるため、こちらも治験担当スタッフに確認する必要があります。よく誤解されていますが、必ずしも「生活保護の方=治験に参加できない」ということではありません。
*医師主導治験や臨床研究等では支払われないこともあります。詳細は同意説明文書に書いてあるものですので、それを確認するか、治験担当スタッフにご確認ください。
まずは相談!生活保護を継続的に受給できるかを確認する必要があります。
補償とは違法性を前提としない責任のことで、治験との因果関係が認められた副作用による健康被害があった場合、定額・一律で補償額の金額が支払われます。
「医法研ガイドライン」でその補償基準が明文化されています。補償基準は、医療費や医療手当、補償金の3つに分類することができます。ただし、抗がん剤や免疫抑制剤などに関しては補償金の制限が設定されており、ほとんどが医療費や医療手当のみの支払となります。その理由として抗がん剤や免疫抑制剤は、他の医薬品と同列には論じられないと考えられるためです。
したがって、薬剤や対象疾患の特性や被験者の便益、リスク等を評価した上で治験実施計画書ごとに補償の内容は定められるべきと「医法研ガイドライン」では言及されています。なお、これらの補償に関する事項は、インフォームドコンセントを取得する際、治験担当スタッフから説明されますので、きちんと確認することをお勧めします。
昨今、個人情報保護法が叫ばれていますが、医療業界においても個人情報の保護は厳格化されています。厚生労働省は「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」などを策定し、個人情報を「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日、その他の記述により特定の個人を識別することができるもの」と定義しています。その他の記述により特定の個人を識別することができるものとして、カルテ番号や保険証番号などが挙げられます。また、治験でCTやMRI、エックス線などのフィルムのコピー等の転記されるID等も個人情報に該当するため、治験に携わる医療従事者は気をつけてそれら資料を取り扱う必要があります。
よって、個人に関わる情報は気を付けて取扱わなければならず、被験者の個人情報は厳密に実施医療機関の中のみで管理されます。他施設の研究者に公開される場合は、被験者の診療情報は匿名化され、特定することができないようにされています。
一方、製薬企業の開発担当等が「カルテデータと治験のためのデータが正しく記載されているか?」、「被験者が安全に治験を実施しているか?」などを確認する際に、医療機関に赴きカルテを直接閲覧しますが、それらの情報は外部に漏れることはありません。
モニタリングとは、治験等が適正に行われることを確保するため、治験等の進行状況を調査し、GCP並びに治験実施計画書及び手順書に従って実施し、記録及び報告されていることを保証する一連の行動のことを指します。このモニタリングを実施する人のことをモニターもしくはCRAと呼び、治験であれば製薬企業の開発部門の従業員またはその業務を委託者が行います。
このモニタリングの最大の目的は被験者の人権の保護、安全の保持及び福祉の向上が図られているかを確認することです。そのためにも、最新の治験実施計画書及びGCPを遵守していること、治験データ等が正確かつ完全でカルテなどに照らして検証できることを確認しなければなりません。もしモニタリングの結果、治験薬の有効性や安全性がきちんと確認できなかった場合などは臨床試験を中止し、直ちに被験者の安全を確保できるよう動く必要があります。
代表的なメリット
・治験に参加することでこれまでにない新しい治療法を受けられること
・治験が安全に遂行するために、手厚い検査が受けれることや副作用が起こった場合でも、迅速かつ適切な処置が行われること
・治験によっては、検査費用が無料になるなど経済的なメリット
代表的なデメリット
・まだ認可されていない薬であるため、効果が立証されていないことや予期しない副作用が起きる可能性があること
・対照薬がある治験の場合は、目的とする治験薬を使用できない場合があること
治験は、第1相から第3相と分かれますが、第1相はエビデンスデータ(科学的根拠)が少なく、
有効性や安全性はより不透明となります。
治験参加中も、治験実施医療機関以外の病院等で診療を受けることは可能ですが。しかしながら、治験を安全に遂行するためにも、治験担当医と相談してください。
また、多くの治験に参加した場合は「治験参加カード」といったカードを受け取られると思います。これには治験の概要や、治験中に使用を禁止されている薬剤などが記載されています。他の医療機関にかかったときに提示することで、併用禁止薬の処方等を避けることが出来ます。
がん分野の治験では以下の検査を実施します。
また、現在の開発されている薬剤は分子標的薬が多く、腫瘍組織の遺伝子変異やバイオマーカーが非常に重要になります。よって、治験に参加される前に腫瘍組織を採取して病理検査する必要があります。なお、この組織は必ずしも治験実施医療機関にて採取せずとも問題なく、例えば手術にて摘出した組織等でも問題ないケースも多いです。
治験参加期間中、気分が悪くなったり、体調がかんばしくないと感じた時は直ぐに治験担当スタッフ等に連絡してください。治験を実施する際に最も重要視されるのは被験者の安全を確保することだからです。
また、治験薬の有効性や安全性を適切に確認するためにも来院日は必ず守り、処方された薬を正しく服用してください。また、他科他院で薬を処方された場合や、薬局で薬を購入する場合は「治験参加カード」を必ず提出してください。