化学療法について

メラノーマの薬物療法は、ほぼ化学療法のダカルバジンに頼るしかなかった状況が劇的に変わりました。日本に転機が訪れたのは2014年で、免疫療法ニボルマブ(商品名オプジーボ)の登場をきっかけに、治療戦略は現在も進歩し続けています。2018年現在、日本で使用可能な薬剤は、下記の免疫チェックポイント阻害薬(1)、(2)、(3)、分子標的薬(4)、(5)、(6)の計6種で、米国や欧州とほぼ同様の薬物療法が可能になりました。

(1)PD-1標的抗体ニボルマブ(商品名オプジーボ)
(2)PD-1標的抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ
(3)CTLA4標的抗体イピリムマブ(商品名ヤーボイ)
(4)BRAF阻害薬ベムラフェニブ(商品名ゼルボラフ)
(5)BRAF阻害薬ダブラフェニブ(商品名タフィンラー)
(6)MEK阻害薬トラメチニブ(商品名メキニスト)

日本皮膚悪性腫瘍学会は急速な進歩に対応するため、ガイドラインとは別に、「悪性黒色腫新規薬剤に対する治療の手引version1.2016」を作成し、2017年には早くも改訂版(version1.2017)を公開した。進歩の速度が衰える様子はないため、今後も治療手引の改訂は随時必要になるとしています。

根治切除不能のメラノーマに対する薬物療法は、まずBRAF遺伝子変異の有無で方針が別れます。BRAF遺伝子変異陽性の場合はダブラフェニブ+トラメチニブ併用、もしくはベムラフェニブ単剤、または免疫チェックポイント阻害薬が選択可能です。同遺伝子陰性の場合は免疫チェックポイント阻害薬のいずれかを用います。

同遺伝子陽性、陰性いずれの患者も、最初の治療で効果が得られず病勢進行(PD)となっても治療を許容できる全身状態が確認された場合(PSスコア0~2)は、投与経験のない免疫チェックポイント阻害薬や殺細胞性抗がん剤を選択します。BRAF遺伝子陽性の患者は投与経験のない分子標的薬も選択可能です。全身状態が悪化している場合(PSスコア3~4)は、支持療法BSC)や緩和ケアなどで対処する。

BRAF遺伝子陽性の進行期メラノーマの治療は、がんの大きさと進行の速さ、血中の乳酸脱水素酵素(LDH)の状態により戦略を分けているのが現状です。がんが大きく増殖の勢いが急速に高まっている場合は、ダブラフェニブ+トラメチニブの分子標的治療でできる限り速やかに病勢の進行を抑え、その後、免疫チェックポイント阻害薬に切り替えて長期生存を目指します。

がんが小さく、メラノーマの予後因子の1つであるLDHが正常範囲の場合は、ダブラフェニブ+トラメチニブの分子標的治療による完全奏効と長期生存を目指します。なお、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用による分子標的治療は、LDHが正常、かつ転移臓器が3カ所未満の患者では治療成績が向上したことが報告されています。

新しい薬物療法の特徴と課題

日本では2014年以降、6種の薬剤が続々と承認・発売され、薬剤による積極的治療法の選択肢が大幅に拡大し、治療成績も向上しています。しかし、治療に関する情報は著しく増加し、医療現場での治療方針決定までの道筋は複雑になりました。

したがって、より高い専門性が求められるとともに、医療者と患者との情報共有にも工夫が重ねられています。また、治療成績をより向上させる目的で併用療法や術後補助療法の臨床試験も数多く行われており、転帰の良好な維持が期待されるデータも報告され、併用の組合せや投与の順序など検証を積み上げています。

免疫チェックポイント阻害薬

メラノーマは、極めてまれに自然消退や部分消退が認められていたことから、古くから免疫療法のターゲットと認識されていたがん種の1つで、免疫チェックポイント阻害薬の開発に大きく寄与してきた経緯があります。

PD-1標的抗体ニボルマブ、ペムブロリズマブ、およびCTLA4標的抗体イピリムマブは、いずれもTリンパ球に発現する免疫チェックポイント分子に結合することで抗腫瘍免疫のブレーキを解除し、Tリンパ球を活性化してがんを攻撃するように誘導します。免疫チェックポイント分子のPD-1、またはCTLA4はそのブレーキの種類が違うと考えることができます。がん細胞に直接働きかける薬剤ではなく、免疫機能を高める間接的なメカニズムのため、悪性黒色腫に限らずがん種横断的な使用が可能です。

免疫チェックポイント阻害薬は効果が認められるまでに時間がかかるため、1年、2年単位で時間をかけて見極める必要がありますが、効果が認められた後は長期間持続する可能性があります。また、BRAF遺伝子変異の有無を問わず効果を発揮したという試験データも報告されています。

免疫チェックポイント阻害薬は実用化されてから日が浅いため、副作用は未知の部分も少なくありません。現在までのところ、副作用は免疫関連事象の主要5つの間質性肺疾患、下痢・大腸炎、肝障害、皮膚障害、ホルモン異常とされますが、発現の時期も未だ統一的な知見が得られていません。国内初の免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブは全例調査が行われており、使用経験が増えるにつれ新たな副作用や発現時期が徐々に明らかになると考えられています。

なお、ニボルマブの治療でみられる白斑、皮疹、あるいは局所的な白髪といった皮膚障害の副作用は、認められた患者集団の方が認められなかった患者集団と比べ治療成績が高いことが報告されています。

分子標的薬

BRAF阻害薬のベムラフェニブ、ダブラフェニブは、BRAF遺伝子変異により活性化されるがん促進的なシグナルを阻害することから、同遺伝子変異陽性の患者に効果があります。

日本では、BRAF遺伝子変異陽性の患者は25%から30%とされています。BRAF阻害薬は、効果を発揮する場合は比較的速やかに認められるものの、効果持続時間は半年程度と考えられることから、その克服戦略として、BRAFのシグナル下流分子MEKを標的とするトラメチニブがダブラフェニブの併用パートナーとして承認されています。BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法で治療成績が向上したばかりでなく、BRAF阻害薬に特異的な副作用である皮膚有棘細胞がんが抑制されることが確認されています。

治療法の将来展望

選択肢が格段に増えたメラノーマの治療法は、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬、化学療法、放射線療法を組み合わせて最適化するための併用療法や術後補助療法の開発が全世界で進められ、新薬開発につながる新しい標的分子の探索も行われています。

また、がん局所で増殖するウイルスを利用してがんの直接的破壊と宿主免疫の活性化が期待できる腫瘍溶解ウイルスの開発も前進しています。治療の最適化で重要なことは、対象とする患者の特性と治療法の根拠に基づき、いつ、どのような状態の時から、どのような組合せの治療を行うかを明確にすることです。

併用療法

手術で切除できないメラノーマに対する薬物療法として、免疫チェックポイント阻害薬2剤の併用療法、および腫瘍溶解ウイルスと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が検討されています。ステージIIIまたはステージIVのメラノーマ患者に対するこれら併用療法で報告されている奏効率は50%前後で、グレード3以上の有害事象は免疫チェックポイント阻害薬2種の併用療法の方が多く報告されています。

抗CTLA4抗体イピリムマブと抗PD-1抗体ニボルマブの併用療法では、いずれかの単剤治療と比べ奏効率や奏効期間が改善する一方で、消化器症状や肝障害などの有害事象が増加したことが報告されています。

日本でも開発中の腫瘍溶解ウイルスT-VEC(talimogene laherparepvec)、またはHF10は、腫瘍特異的に感染して増殖するウイルスで、メラノーマの病変局所に注入することで抗腫瘍効果を発揮し、正常組織への影響が少ないため安全性の高さが期待されています。

術後補助療法

メラノーマの根治切除術を実施した後、再発抑制のための治療を希望する場合は術後補助療法が行われますが、術後補助療法としても免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬を活用する試みが進められています。ステージIIIまたはIVの術後補助療法として、イピリムマブを経過観察のみと比較、またはニボルマブと比較した臨床試験や、ダブラフェニブ+トラメチニブの分子標的治療を経過観察のみと比較した臨床試験データが報告されています。

例えば、イピリムマブの術後補助療法により、術後5年間の再発リスクや死亡リスクは無治療経過観察より3割弱低下すること、ニボルマブの術後補助療法は術後5年間の再発リスクがイピリムマブより3割以上低下すること、ダブラフェニブ+トラメチニブによる術後補助療法では、無治療経過観察と比べ再発、死亡リスクがいずれも5割前後低下することが報告されています。

放射線治療

一般的に、メラノーマは放射線治療が効きにくいと考えられてきましたが、新たな薬物療法が使用可能となった現状では、免疫療法を組み合わせることで治療効果が得られる可能性があります。免疫チェックポイント阻害薬のイピリムマブを服用期間中に放射線を照射したところ、照射していない病変をも縮小したという、いわゆるアブスコパル効果が得られたとの報告があります。

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