肺がんの個別化医療

がんのメカニズムの研究では、遺伝子の変異によってがん細胞を増殖させるスイッチが常にオンの状態になり、がん細胞がかぎりなく増殖する場合があることがわかっています。

遺伝子の変異は、生体にとって好ましくない現象ですが、近年、がん遺伝子の変異を応用した新薬が開発され、患者さん一人ひとりの原因に合わせた最も効果の高い治療が行われる「個別化治療」の時代が到来しています。現在、肺がんでは「EGFR遺伝子変異」と「ALK融合遺伝子」という2つのタイプの遺伝子変異をターゲットにした治療が始まっています。

EGFR遺伝子変異とは?

EGFRとは上皮成長因子受容体と呼ばれるタンパクのことで、がん細胞の表面に無数に存在し、がん細胞を増殖させるスイッチの役割をはたしています。このEGFRを構成する遺伝子の一部(チロシンキナーゼ部位)に変異があると、スイッチが常にオンの状態となり、がん細胞がかぎりなく増殖するのです。

ALK融合遺伝子とは?

ALK融合遺伝子とは、何らかの原因でALK遺伝子とEML4遺伝子が融合することで生じた異常な遺伝子のことです。この遺伝子から作られるALK融合タンパクは、ATP(アデノシン3リン酸)と呼ばれる酵素と結合すると細胞を増殖させるスイッチがオンの状態になるため、がん細胞がかぎりなく増殖します。このような遺伝子変異が原因の肺がんは、EGFR遺伝子変異の場合、非小細胞肺がん患者の10人に3〜4人程度、ALK融合遺伝子の場合は非小細胞肺がん患者の100人に3〜5人程度、認められるといわれています。

遺伝子の変異を見つけるには、がん細胞の遺伝子検査が必要です。この検査は多くの場合、確定診断のために気管支鏡検査や喀痰細胞診などで採取してきた組織や細胞を使って行われます。

日本肺癌学会が作成した「肺癌診療ガイドライン」でも、確定診断後に遺伝子検査を行い、遺伝子変異があるかどうかを確認したうえで、治療法を選択することを推奨しています。遺伝子検査について詳しいことを知りたいときは、担当医に尋ねましょう。

遺伝子変異があるときの治療は?

遺伝子検査でEGFR遺伝子変異が認められた場合は「EGFRチロシンキナーゼ阻害剤」を、ALK融合遺伝子が認められた場合は「ALKチロシンキナーゼ阻害剤(ALK阻害剤)」を内服し、がん細胞を増殖させる合図を止めるような治療が行われます。なお、いずれの遺伝子変異も認められなかった場合は従来の注射薬による抗がん剤治療が行われます。

肺がんでは、この2つ以外にもさまざまなタイプの遺伝子変異が存在することがわかってきており、遺伝子変異をターゲットにした新しい薬剤の開発が一層、期待されています。

本コンテンツは認定NPO法人キャンサーネットジャパンが出版する「もっと知ってほしい 肺がんのこと」より抜粋・転記しております。


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