全身化学療法の分子標的治療とは

 肝臓がんには有効な抗がん剤がなく、全身化学療法は行われてきませんでした。しかし、がん細胞の増殖やがんに栄養を送る血管がつくられるのを抑制して、効果を発揮する分子標的薬が登場し、治療が大きく変わろうとしています。

 肝臓がんは肝炎や肝硬変がある肝臓にできるため、そもそも患者さんの白血球や血小板が減っています。また、抗がん剤の多くは肝臓で代謝されます。そのため、抗がん剤を使っても毒性が強く作用し、副作用が出たり、肝機能が低下したりするデメリットのほうが多く、がんを攻撃するメリットは少なかったのです。したがって長い間、肝臓がんでは局所療法が主流で、抗がん剤による全身化学療法は行われてきませんでした。

 しかし、この状況は、がん細胞の特異的な遺伝子やたんぱく質のみにピンポイントで作用し、がん細胞だけを狙い撃ちにする分子標的薬が開発されたことにより、大きく変わりつつあります。肝臓がんに対してソラフェニブという分子標的薬を用いた全身化学療法(分子標的治療)を行うことで、がんはなくならないものの、大きくならない状態が維持され、全生存期間が延長されることが実証されたからです。

 分子標的薬による治療は、門脈などの血管にがん細胞が入りこんでいる(脈管侵襲)、がんが大きい、ほかの臓器に転移している(遠隔転移)、ほかの治療で効果が認められなかった、といった患者さんに対して行われます。現在、わが国で使用できる分子標的薬はソラフェニブのみで、これからはソラフェニブとほかの治療法を組み合わせた治療法や、ソラフェニブ以外の分子標的薬が登場してくる可能性があります。

 ソラフェニブの使用は、有効性が検証された臨床試験の計画を踏まえて、肝臓の障害の程度がChild-Pugh分類でAの肝機能が良好な患者さんを対象としています。原則、外来通院で、1回2錠、1日2回計4錠を服用します。高脂肪食(脂肪分が多く、高エネルギーの食物)はソラフェニブの作用を弱めるため、高脂肪食を食べるのなら、食前1時間から食後2時間までは薬の服用を避けます。

 治療開始後、最初の1か月間は1週間に1回、2か月目からは2週間に1回受診し、副作用の程度を確認するほか、2~3か月に1回CTを撮影し効果を検証します。重度の副作用やがんの進行がみられたときは、投薬を中止します。

 ソラフェニブは飲み薬であるからこそ、自己管理が大切になります。担当医や看護師、薬剤師から服薬の方法や副作用が出たときの対処法などについて十分に説明を受け、理解を深めてください。

化学療法の副作用について

 肝臓がんの治療薬であるソラフェニブには分子標的治療薬特有の副作用も多く、高頻度に起こる手足症候群はQOLを悪化させ、休薬の第1原因とされています。しかし、患者さんが予防やケアをしっかり行うことで重篤化をかなり防げます。

 肝臓がんの全身化学療法に唯一、用いられているソラフェニブは分子標的治療薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤で、従来の抗がん剤とは作用機序が異なります。そのため、この薬剤特有の副作用もみられます。下痢、食欲不振、血小板減少、肝機能障害など、抗がん剤一般にみられる副作用のほか、手足症候群、発疹、膵酵素上昇、高血圧、疲労感、出血などの特徴的な副作用が出現します。多くの副作用は投与開始早期の1週~6週ころまでに発現することが多く、この時期は慎重な経過観察が必要です。自覚症状がなくても、担当医の指示に従い、外来診察をきちんと受けてください。

 副作用の症状には、まず対症療法が行われ、それでもコントロールできないときは減量、休薬、投与中止という方法で対応し、多くの場合はそれで症状の改善がみられます。しかし、ソラフェニブの十分な効果を得て、長期間にわたり投与を継続するには、副作用が重篤化する前に発見し、適切に対応することが重要になります。

 担当医や薬剤師、看護師から副作用の起こりやすい時期や初期症状、対症療法薬の使い方、自分でできる対処法、病院に連絡する必要のある症状などについて説明を十分に受けましょう。

 なかでも手足症候群は、高頻度に起こり、直接生命を脅かさないものの、QOLを著しく悪化させ、休薬の第1原因とされています。しかし、患者さんが予防やケアをしっかり行うことで重篤化をかなり防げるので、その方法についてあらかじめ担当医や看護師、薬剤師などから説明を受け、積極的に実践してください。

本コンテンツは認定NPO法人キャンサーネットジャパンが出版する「もっと知ってほしい肝臓がんのこと」より抜粋・転記しております。