食道がんの治療 -化学療法-


  • [公開日]2017.11.28
  • [最終更新日]2018.01.11

食道がんの化学療法

化学療法とは、がん細胞を縮小させる効果のある抗がん剤を体に投与し、治療を行う方法です。抗がん剤は血液の流れにより全身に行き渡らせることができるため、手術では切り取れないところや放射線をあてられないところにあるがん細胞への効果を期待することができます。

多くは、別の臓器にがんが転移しているときに延命治療として行われますが、放射線療法や外科治療との併用で、根治を目指して行われる場合もあります。

日本人の食道がんのほとんどは、扁平上皮がんという種類です。扁平上皮がんに使用される抗がん剤は以下の3種類があり、2種類以上を併用すると効果が上がることが知られています。いずれも点滴で投与する薬剤です。

フッ化ピリミジン系薬剤:フルオロウラシル(5-FU)
がん細胞の増殖をおさえる効果があります。胃がんや大腸がん、結腸がん、直腸がんなど消化器がんに広く使用されてきました。また、手術後の補助療法として、再発予防目的に用いることもあります。作用時間が短いことで十分な治療効果が得られにくいことがデメリットとされています。そのため、これを用いて治療を行う際には、持続的な点滴をおこなう必要があります。

プラチナ系薬剤:シスプラチン、ネダプラチン
シスプラチン

腫瘍を縮小させる効果が高く、多くのがんこのお薬を使用することができるため、抗がん剤治療において、重要な役割を担ってきました。副作用として、吐き気、嘔吐、食欲不振などが出やすいことが特徴です。また、腎臓障害、骨髄抑制などの重篤な副作用も現れる可能性があります。

ネダプラチン
副作用を抑えた新しいプラチナ製剤として開発されたお薬です。シスプラチンの毒性をできるだけ抑えることを目的として開発されました。

食道がんの抗がん剤治療において、現在一般的使用されている組み合わせは、シスプラチン+フルオロウラシル(5-FU)ですが、副作用の症状が強く現れている場合などに、シスプラチンの代わりにネダプラチンを使うことがあります。また、このように副作用軽減の理由から使用されるケースのほか、初回の化学療法が効かなかった場合や、その後の再発例に対する救済療法という位置づけで用いられるのも特徴です。

タキサン系薬剤:ドセタキセルパクリタキセル
微小管とは細胞分裂の際に、束のように固まって糸のような組織となり、新しくコピーされたDNAを新たな細胞へと引っ張る役割を果たしています。このタキサン系のお薬は、その元に戻る機能を阻害するお薬です。細胞が分裂する際に微小管という重要な部分の働きを阻害することで、がん細胞の増殖を抑えます。これまで多くのがんに対して使用されてきました。副作用として挙げられるのは、骨髄抑制、過敏症、吐き気、脱毛、むくみや爪の変化などです。

現在の食道がんに対して用いられる標準的な化学療法は、フルオロウラシルとシスプラチンの併用療法です。シスプラチンは治療1日目に投与、フルオロウラシルは4日間または、5日間かけて持続的に点滴で少量ずつ投与することが一般的です。

また、シスプラチン投与による腎臓の障害を防ぐための点滴も同時に行うので、この場合は、入院が必要となります。治療は4週間を1サイクルとし、副作用の問題がなければ退院することができます。その後は2週間から3週間ごとに抗がん剤治療を繰り返します。定期的に検査で治療効果を判定し、有効であれば繰り返すというスケジュールで行われます。がんへの治療効果が認められない場合は、ほかの薬剤への変更や化学療法の中断などを患者さんの病状に合わせて判断します。また、タキサン系薬剤を単独で使用する治療の場合は、外来通院で行うことができます。

化学(薬物)療法の副作用

抗がん剤の副作用は、特定のがん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすので、副作用が生じます。その強さや持続時間などには、非常に大きな個人差があります。特に影響を受けやすい部位は、毛髪、口腔・胃・腸などの粘膜、骨髄(血液の工場)など、生まれ変わりのサイクルの早いところです。

化学療法には、副作用はつきものですが、工夫によって軽減をはかることができます。

例えば、吐き気などに関しては、換気を十分に行うことや、締め付けの少ない衣服を着用すること。食事は、食べられるものをすこしずつ食べる、においの強いものは避ける、あったかい料理の方がにおいは強いので、冷たいのど越しのよい食べ物を食べること。関節の痛みは、温める、マッサージを利用する。脱毛には、柔らかいブラシを使用する、毛髪が散乱しないためにキャップなどをかぶる、容姿が気になる場合は、帽子を用意しておく、毛髪をあらかじめ短めにカットしておくなど、副作用で辛い期間の不快感を少しでも軽減できるように準備することなどを適宜行います。

つらい副作用の症状が出ているときは、精神的にも負担になる場合が多いものです。ひとりで抱え込みあまり無理をしすぎないよう病院の相談機関を利用することや、話を聞いてもらえる人に自分の気持ちを吐き出すこともとても大切なことです。もし人に相談することができない場合は、自分の気持ちを文章にすることや、涙を流すなど感情を発散させることができる場を作ることも大切かもしれません。

現在は、副作用の対処方法も確立されてきていますので、以前と比較すれば、治療による負担は軽減されてきています。しかし、副作用は、個人差が大きく、副作用の強さから治療を中断することや他のお薬に変更することを余儀なくされる場合もあります。

The Japanese Society for Esophageal Diseases: Comprehensive Registry of Esophageal Cancer in Japan (1998, 1999). 3rd ed, 2002.

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