講演タイトル:『がん医療情報』
演 者:大場 大 先生(東京オンコロジーセンター代表)
日 時:6月22日(金)
場 所:日本橋ライフサイエンスハブ8F D会議室
今月は、がん医療情報をテーマにご来場頂きました。
クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。
今回は、「標準治療についての解説」、「詐欺的医療の具体的な見分け方」「患者さんの意思決定」を中心にご講義頂きました。
「再発・転移・ステージⅣ」でもあきらめない
まず、「標準治療」について、エビデンスレベルと大腸がん治療における技術進歩、転移をしても治癒のポテンシャルがあるお話を頂きました。 エビデンスを議論する際は、それの有無ではなく、質(信頼度の高さ)が重要です。 動物実験などによる実験室データ、専門家、〇〇教授の意見、体験談などはその中でも低いものとなります。 技術進歩については、大腸がんを例に説明頂きました。 内視鏡診断や治療手技は向上しており、手術治療も低侵襲手術やロボット手術により進歩しています。 転移に関しては、大腸がん肝転移に対しての手術の有用性を画像と共にご紹介頂きました。 肝臓や肺に転移を繰り返しても、あきらめずに部分切除を繰り返すことで、治癒するケースが一定の割合であるそうです。 薬物療法が進歩していない、手術だけで勝負した時代でも8個以上の肝転移があっても三割の人が治るという論文もあります。 また、いくらステージIVといわれても、抗がん剤も進歩しているので、治せることをあきらめずに前向きにがんばることが大切であると仰いました。詐欺的医療の見分け方
次に、「詐欺的医療」と先生が仰るものの見分け方を教えて頂きました。 ・「生き証人」的ビジネス…「末期がん、〇〇で治す!」などの体験談に基づいたものは、実は、併せて行われている標準治療のおかげで治せているものも多いそうです。 ・〇〇式食事療法…アメリカの研究論文に、過度な食事療法と標準治療を比べたものがあるそうです。膵がん患者さんの生存成績では、標準治療は明らかに生存期間を改善しており、QOLに関しては、食事療法のみは明らかに低下させることがわかっています。 ・インターネットがん情報の信頼性…日米の比較をもとにした論文で、日本の検索サイト「Yahoo!」「Google」で「肺がん」と検索すると、信頼できる医療情報に上位ヒットされる確率が50%未満であるという調査結果がでました。その中でも、クリニックや民間療法の広告に限ると、信頼性のある物は0%だそうです。 ※6/1より医療機関の広告の見直しに関する「改正医療法」が施行され、現在は規制や罰則が厳しくなりつつあります。 ・自由診療クリニックの誇大広告…禁止されている誇大表現やデータも信頼性に虚偽が疑われるものが多くあるそうです。免疫チェックポイント阻害薬の不適正使用も問題となっています。副作用に対応できないため少量しか使用しない、後先の責任を負わない、など治療にあたる医師の質にも疑問が残ります。 掲載されている効果のデータや来院数(生存成績ではない)にも疑問を持つことが大切です。 ・医療本・TV・新聞広告・〇〇大学との提携など…これらには特定のクリニックへの誘因性(あっせん)や巧みなステルスマーケティング(消費者に悟られないように宣伝を行うこと)が隠れている場合もあります。ハロー効果(認知バイアスのひとつ。実際の能力に関係なく、目立ちやすい特徴にひっぱられ、その他についての評価にバイアスがかかり歪んでしまう現象)や特定のクリニックへと誘引されてしまうメディア報道には注意が必要です。 ・標準治療批判者に見られる思考のクセ…自分の主義・思想に都合の良い情報ばかりを集める、誇大にリスクを煽る、患者さんを机上のロジックで裁くが責任は一切負わない、などが挙げられるそうです。使用されるデータには100年前の物もあり、部分的に切り取り、過度に一般化するものや、日本人のゼロリスク好きを煽る内容だそうです。 抗がん剤に関しては、確かにがんを治す力はないかもしれません。しかし、患者さんのQOLやこれまで通りの時間、人生を保つための手段となりえます。大切なのは、患者さん自身の意思決定
このように、様々な情報が入り乱れていますが最も大切なのは患者さん自身の意思決定(判断)である、と先生は仰いました。 そのためには、時間をかけた論理的な思考が必要です。正確な医療知識を知ること、データに疑問を持つこと、偽りの希望に翻弄されていないか、自らの心理的なバイアスを自覚すること、などが論理的な思考の助けをします。 先生は最後に、「1人1人がリテラシー(情報や知識を活用する能力)を高めて声をあげていくことが、社会をより良く変えていくことつながる」と締めくくりました。 また、質疑応答では個々人に適した病院、治療はどこで探せば良いか、今回改正された医療法では不満はあるか、日本はアメリカと比べてインチキが多いか、などの質問が挙がりました。 病院や治療法の探し方ですが、責任がある医療施設では薬機法で適当な事は言えません。今回挙げた見分け方を判断材料として頂くのも良いかもしれません。 改正医療法については、現在もインチキ自体を裁く法律がなく、広告のあり方からでしか規制ができないそうです。海外では、行政レベルで情報がコントロールされたり、ドクター資格が剥奪される、など厳しい法的整備があるそうです。 日本とアメリカの比較について、アメリカでは本来高額な治療費を払わなければ標準治療は受けることができません。 例えエビデンスに裏づけされている治療だとしても、常にお金の心配を強くしながら生活しなければなりません。また、破産の第一の理由が医療費によるものだそうです。 一方、日本は相当な医療費を払わなくても、高額な標準治療を受ける事ができるため、ある意味「平和ボケ」をしている、と先生は仰いました。 正しい情報、信頼できる情報は、患者さんにとって厳しいものも多くあります。 しかし、現実をしっかりと受け止め、判断することが大切です。当日ご聴講された方々より、「がん情報の事情が知れてよかった」「どこかで頼っていた体に優しい治療。ハッキリ否定していただいてよかった。」「インチキはなぜインチキなのか、どうすれば正しい情報にたどり着くのか説明をもっと聞きたかった。」など、多くのご感想が寄せられました。
「手術をしないで済むなら」、「より良い治療を受けれるなら」と、患者さんは誰でも望むかもしれません。主治医とのコミュニケーション不足による不満から、セカンドオピニオンを求める方も多くいらっしゃいます。 もし、コミュニケーションが十分に取れていれば信頼が生まれていたはずです。 甘い言葉に惑わされず、現実をしっかり受け止めた上で、治療を自分自身が選択する必要がある、と感じました。先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。
7月27日(金)は、杏林大学 医学部内科学 腫瘍内科 教授 古瀬 純司 先生をお迎えし、『膵がん』をテーマにご講義いただきます。
次回の会場は「日本橋ライフサイエンスハブ8F B会議室」です。皆様のご参加をお待ちしております。