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【セミナーレポート】いま改めて知る、胃がんと治療のこと ~納得して、あなたにあったベストな治療をうけるために~

[公開日] 2018.10.23[最終更新日] 2018.10.23

講    師:設楽 紘平先生(国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長) 日    時:9月24日(月・祝) 場    所:日本橋ライフサイエンスハブ A会議室 9/24に開催した胃がんセミナーのレポートです。クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。 今回は、タイトルにありますように、正しい治療をご自分で納得して受けていただくために胃がんとその治療について、ご講義頂きました。

胃がんと標準治療にいて

胃がんは、多くの場合、心窩部痛・胸やけ・食欲低下・体重減少・貧血などの症状を呈し、これらの症状が発見のきっかけとなってます。 その後、内視鏡検査、組織検査、バリウム検査、CT検査によってがんの確定及び病状の判断を行います。 胃がんでは、がん組織が胃にどのくらい深く入っているかを示す深達度とどの程度転移しているかでステージ分類がされています。 そのステージによって治療法が違ってきます。 胃がんのステージ別の標準治療法は、「胃癌治療ガイドライン第5版」に示されており、専門の医師はこれに準じで治療を進めています。 ステージ1では、内視鏡によりがん組織の切除もしくは胃の一部切除を行い、抗がん剤による治療は行わないのが一般的です。 ステージ2、3になると、胃の部分または全摘及び抗がん剤治療を合わせて行います。 ステージ4の場合は、手術は行わず、抗がん剤による治療が中心です。 一方、手術ができない患者さんの中には、抗がん剤治療によりがんが縮小し手術を行い根治を目指すことができる方もおられます。

標準治療と研究的治療

標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で現在利用できる最良/最善の治療のことです。 標準治療に対し臨床試験や研究的治療とは、根拠となるデータが十分でないものを研究的治療といい本当に効くかどうか、安全かどうかを科学的な方法で調べて確認するための方法が「臨床試験」です。 新しい治療法や薬の候補が標準治療として認められ、一般に普及していくには長い道のりと根拠となるデータが必要です。 新しい薬の候補が細胞実験や動物実験の基礎研究(前臨床試験)を経てある程度の可能性が得られたあと、第Ⅰ相臨床試験が行われます。 通常、少人数で、候補薬の安全性と体内での動きを調べます。 ここで得られたデータをもとに、人数を増やして第Ⅱ相試験が行われ、候補薬の有効性(効果)を調べます。 ここで有効性が認められた場合にはさらに人数を増やし第Ⅲ相試験を実施し、有効性と安全性を最終的に確認します。 候補薬による治療効果はどのように判断されているのでしょう? 1つはがんの縮小効果です。治療前に比べがんが縮小した(奏効した)患者さんがどれくらいの割合おられるかで判断します。 もう1つの指標が生存期間です。生存期間は「長生き度合」とも言えるでしょう。 1つの候補薬を投与される臨床試験でもこの長生き度合は患者さん患者さんによって非常に幅が大きいです。 よって、判断にはそれらの中央値を参考にします。 もう1つ、無増悪生存期間(PFS;Progression-Free Survival)という判断指標があります。 がんそのものが大きくなるまでの期間または亡くなるまでの期間のことです。どんな状態でも生きてる生存期間とは違う指標です。 最近の臨床試験では、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を評価項目の1つとしていることもあります。 QOLは個人の人生の内容の質や社会的にみた生活の質のことで、長生きだけ本人がどう生きたいかを考慮します。 QOLの優先度を決めるのは患者さん自身です。 何を目的に治療を進めるか、できることを一緒に考えて、治療を決めていくことが大事です。 治験・臨床試験のついて

ステージ別の化学療法

ステージ1では化学療法は行わないのが一般液です。 ステージ2-3胃がんでは、化学療法の目的は胃切除後の再発予防です。 化学療法としては、S-1単独療法、カペシタビン+オキサリプラチン療法、またはS-1+オキサリプラチン療法が選択肢です。 その中から、患者さんの病状、副作用の状況、通院選択などによって相談しながら決めていきます。 ステージ3ではS-1+ドセタキセルが最も効果的である可能性が日本で行われた臨床試験の結果で得られてますが、脱毛、白血球減少、発熱などが現れやすいので留意して決定しなければなりません。 ステージ4または再発患者さんの治療の目的は、症状の緩和と長生きで、残念ながら短期間で治癒することは難しいのが現実です。 国内外で多くの臨床試験が行われており、様々なレジメンが標準療法に含まれています。 HER2陽性胃がんの患者さんには一般的な化学療法にトラスツズマブという分子標的薬を併用するが有効であることがわかっています。 胃がんの患者さんの約15%の方がHER2陽性です。 進行再発胃がんの患者さんで1次治療の効果がみられない場合は2次治療としてパクリタキセル+ラムシルマブが、その後は3次治療にニボルマブ+イリノテカンが標準治療とされています。 いずれも、体調や病状により、最適な治療法を選択していきます。 ここで示しているこれらの標準療法は第Ⅲ相臨床試験をもとにした信頼性のある治療法です。

がん免疫療法と免疫チェックポイント阻害剤

今話題のがん免疫療法は、これまでの化学療法とは違い、もともと体内に備わっている免疫システムを活性化する治療法です。 一般的に、がんは体の免疫機構から逃避して増大していくのですが、免疫チェックポイント阻害薬は、がん免疫にかけているブレーキを外す薬です。 もともと日本で研究され開発された薬剤で、2014年に免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブが日本で初めて悪性黒色腫(メラノーマ)の承認を得ました。 免疫チェックポイント阻害剤は、免疫機構に働きかけがんを攻撃するので、特定のがん種に効果があるのではなく様々ながん横断的に効果があると考えられてます。 したがって、ニボルマブはその後、いくつものがん治療で承認を得、2017年9月には胃がんの承認も得ました。 現在はこのほかに、免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブとイピリムマブが国内承認を得ています(承認されているがん種は違います)。 免疫チェックポイント阻害剤は今までの化学療法では得られかったような効果をもたらすケースありますが、多彩な副作用が起こることも現在はわかっています。 胃がんに対しては、臨床試験で11%の患者さんでがんの大きさが半分に縮小したと報告されています。 副作用として、過度な免疫反応による自己免疫疾患に似た免疫関連の副作用があらゆる器官に発症する可能性があります。 [blogcard url="https://oncolo.jp/news/20170215t-2"]

マイクロサテライト不安定性(MSI)について

マイクロサテライト不安定性(MSI)とは、細胞が分裂する際に起こる、DNAの配列ミスを修復する機能が低下している状態のことをいいます。 細胞は常に分裂を繰り返していますが、分裂して出来た細胞のDNAの配列が間違って作られることがあります。 通常はこの間違いを修復する機能が働きますがこの修復能力が低下していると、細胞内でさまざまな遺伝子の異常が積み重なり、細胞ががん化することがあります。 これはがん化の1つのメカニズムですが、このタイプの患者さんでは、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いことが報告されています。

その他の治療法

さらには、これまでの化学療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法も検討も行われています。 いずれも研究的な治療です。このほかにも現在承認申請中の薬剤や、患者さんの遺伝子異常の種類に応じた治験が資料の選択肢となる可能性があります。 ・トリフルリジン・チピラシル塩酸塩:標準療法がすべて効かなくなった胃がん患者さんに対しプラセボと比較して緩和効果、長生き度合の延長がみられ、2018年8月承認申請中(現承認) ・遺伝子異常の種類の応じた治験薬の選択肢(いずれも研究的治療です) ・3次治療以降のHer2陽性胃がんの患者さんへDS-8201a(HER2抗体と抗がん剤の複合体)治験 →Claudin 18.2蛋白に対する抗体製剤IMAB362 (Zolbetuximab)治験

知っておくべきこと、知っておいた方がいいこと

本日のまとめになりますが、胃がんと診断されたときにこれだけは絶対に知っておいて治療に向かってほしいことが以下の3つです。 ・標準治療(ベストの治療)と研究的治療(治験)の選択肢 ・HER2陽性 or HER2陰性どちらの胃がんか ・抗がん剤だけが治療ではない 標準治療は、これまでに多くの患者さんが受けられた治療法で、現状では最も効く治療法です。 まずはこの治療法が正解であることを分かってほしいです。 しかし、標準治療では効果が得られにくいもしくは効きが悪くなった患者さんもいますので、その場合に研究的な治用を始めて検討してほしいのです。 自身の胃がんはHER2に対して陽性なのか陰性なのか、知ってください。 陽性の方には効果が認められている治療薬があるからです。 もしかすると、陰性の患者さんには検査していても医師がそのことを伝えないかもしれません。 ご存知のない方は一度主治医に確認してみてください。 がん治療では、がんそのものを叩く抗がん剤治療以外に、様々な副作用の治療や対策、症状の緩和が非常に重要です。 これらの全体の治療があってより良い効果が得られるのです。 また、抗がん剤治療の選択肢がなくなった状態でも緩和ケアを行うことによってできる限り満足のいくQOLを求められるのです。 この他、知っておいたら良い事として、抗PD1抗体治療薬の効果が高いかもしれないことを判断する、マイクロサテライト不安定性やEBウイルス陽性がります。 更には、自分の遺伝子変異(異常)を知ることで、自分の該当する治験が見つかるかもしれません。

質疑応答のまとめと司会の轟さんより

・本日の設楽先生はわかりやすいように極力簡単にご説明くださいましたが、会場にご参加の皆さんには、すべてを理解することはむずかしいと思います。 この後その疑問をどうクリアにしていくかが重要だろうと思います。 ・検査方法にも選択肢が増えてきています。その中なら適切は検査を選択するには、症状をきちんと医師に伝えることだと思います。 ・HER2の陽性陰性について不明な方は、主治医に是非質問してください。医師は組織を保管する義務があります。最初に手術した病院に問うてみてください。 ・セカンドオピニオンは重要です。主治医に面目ない行為ではありません。例えば、現在の治療中で調子がいいときにセカンドオピニオンに行き、先の読むこともよいでしょう。 今回のセミナーの参加者は祝日にもかかわらず多くの方々が参加されました。 セミナー事前の質問、終了後の質問も多く、ご講演後、30分以上も質疑応答セッションが行われました。 設楽先生のご回答はそれぞれにわかりやすく説明してくださいました。 患者さんの非常に専門的な難しい質問に対し豊富な知識をもとに優しく対峙されていました。 司会の進行の轟さんの質問やご意見がタイミングよく、さらに理解を深めることになっていたようで、非常に有意義なセミナーでした。 先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。

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[blogcard url="https://oncolo.jp/event/181029g"]
オンコロブログ 胃がん S-1

高橋さくら

米国州立大学生物学科卒後、国内の臨床検査会社、大学病院研究室で研究開発の後、製薬会社でがん関連製剤の学術情報・マーケティング担当。その後CROにてがん関連治験の立ち上げ業務を経験。また、福祉系大学に社会人入学卒業し、社会福祉士、精神保健福祉士取得。 日本臨床腫瘍学会会員、日本癌治療学会員

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