がん患者さんとご家族のための会員制コミュニティ「Club CaNoW」(https://clubcanow.com/)は、毎月、がん医療に関するセミナーを開催しています。その第1回として5月27日に開催されたセミナーは、近年注目が高まる「がんゲノム医療」がテーマ。東北大学病院腫瘍内科長でがんゲノムの専門家である石岡千加史先生を講師に招き、乳がん経験者で一般社団法人がんと働く応援団・副理事長の野北まどかさんが進行役を務めました。セミナー後アンケートでは、参加したClub CaNoW会員の96.3%が「セミナーに満足した」と回答しており、がんゲノム医療をより身近に感じられる時間となりました。
難しくなりがちな遺伝子の話を、わかりやすく解説
セミナー前半は「がんゲノム医療の今・未来」と題した石岡先生の講演が行われました。「がんと遺伝子の関係」といった基礎的な内容から、2019年から保険適用された「がん遺伝子パネル検査」の概要や現状、がんゲノム医療の未来図まで、難しいイメージのあるがんゲノム医療を、かみ砕いて解説いただきました。
がんの治療は3段階で検討する時代に
これまで、がんの治療は「がんができた臓器別の分類」や、顕微鏡による見え方で分ける「病理組織分類(例:腺がん、扁平上皮がんなど)」の2段階で検討されてきました。しかし、近年は3段階目として、分子(タンパク質)やその基となる遺伝子レベルでがんの原因を特定し、治療を検討するようになってきました。
「がんゲノム医療」はこの3段階目で見つかった遺伝子変異に応じた治療法です。がんゲノム医療により、がんがどの臓器にできたかに関係なく効果を発揮する薬が145種類も登場しており、臓器横断的な治療も行われるようになっています。
がんの原因になった遺伝子変異を調べる検査技術は目覚ましく進歩しており、「がん遺伝子パネル検査」では、100以上の遺伝子変異を一度に調べられます。たくさんの遺伝子を調べてデータベース化し、新たな治療の開発に役立てる研究も進んでいます。
2019年から保険適用された「がん遺伝子パネル検査」とは
がん遺伝子パネル検査は2019年から保険が適用されるようになりました。ただし保険が適用されるのは、標準治療がなくなったなどの条件を満たす患者さんのみ。検査を受けられる医療機関は、厚生労働省が指定した「がんゲノム医療中核拠点病院」(2022年4月時点で12か所)、「がんゲノム医療拠点病院」(同33か所)、それらの病院と連携する「がんゲノム医療連携病院」(同188か所)に限られています。
また、がん遺伝子パネル検査を申し込む準備から結果が分かるまでには約2か月かかり、検査の結果、新しい治療が見つかる割合は2割程度にとどまります。今後解決すべき課題がまだまだ多い医療でもあるのです。
がんゲノム医療の未来図
現在、行われているがん遺伝子パネル検査は一部の遺伝子しか調べることができないため、全ての遺伝子を調べる技術の開発が、国の主導で進められています。また、より多くの病院でがんゲノム医療を受けられる体制の整備、オンラインを活用して遠方に住んでいても容易に治療にアクセスできる仕組み作りも必要とされています。
私たち専門家は、がんだけでなく総合的に、患者さん一人ひとりを考えた「人に優しい個別化医療」を目指していきたいと考えています。
「自由診療でも受けられる?」「早期発見にも有効?」素朴な疑問に回答
講演後、石岡先生は、標準治療がなくなった患者さんが遺伝子パネル検査を受け、臨床試験の治療薬が奏功した事例を紹介。セミナー後半では、患者視点で気になるポイントについて、モデレーターの野北さんより石岡先生に質問しました。
そのうちの1つは「遺伝子パネル検査は保険診療の対象者以外も自由診療で受けることはできるのでしょうか?」という問いかけ。石岡先生は「自由診療であれば、受けることは可能です」と回答しました。その上で、「今、標準治療を受けられている人も、将来的に標準治療がなくなる可能性があります。より早く遺伝子パネル検査を受けたいという方は多いし、我々専門家もそのメリットがあると考え、厚生労働省に保険診療の対象の拡大を要望しています」と回答しました。
他にも、「遺伝子パネル検査を実施している病院に、患者が直接申し込むことはできますか?」「遺伝子パネル検査を複数回受ける意味はありますか?」などの質問があり、石岡先生は丁寧に回答してくださいました。
さらにセミナー視聴者からもリアルタイムでたくさんの質問が寄せられ、時間の関係上、5つに回答いただきました。そのうちの1つは「遺伝子パネル検査は進行がんの患者さんが対象ですが、将来的にがんの早期発見に使われる可能性はあるのでしょうか?」というもの。石岡先生はこう回答しました。
「切除した組織ではなく、血液を使う遺伝子パネル検査もすでに承認されています。血液中のごく微量なDNAを調べることで、早期のがんや、画像検査でわからないわずかな転移の兆候を発見できる可能性があります。10年後くらいには検診に利用できるようになるのではないかと考えています」
そして最後に、がんゲノム医療の研究開発には患者さんの情報が欠かせないこと。そのためにも、遺伝子パネル検査の普及が大切であることを石岡先生が呼びかけ、セミナーは盛況のまま幕を閉じました。
視聴者の感想「治る病気に近づいている実感ができた」
セミナー終了後には、視聴者から「がんの仕組みや種類の説明がとても分かりやすかった」「がん患者にとって、とても有用な内容。難しい内容を非常に分かりやすく説明いただけた」「不治の病の時代から、がん医療が夢のように治る病気に近づいている実感ができた」など、多くの感想が寄せられました。また、アンケートでは視聴者の96.3%が「セミナーに満足した」と回答していました。
Club CaNoWでは、今後も月1回、専門家の先生をお呼びして、治療の助けになるような医療知識をどこよりもわかりやすくお届けする医療セミナーを開催予定です。加えて、月1回、治療生活を応援するための会員向けイベントも企画しています。
次回の医療セミナーは6月23日(木)19:00~20:15を予定。
日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科教授・部長の勝俣範之先生をお呼びし、働きながらの治療を支えるための各種医療サポートの活用法や、複雑な印象のある障害年金の申請のコツまで、賢い患者になるために知っておきたい「仕事とお金の話」をお伺いします。
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