講演タイトル:『いま、改めて知る、胃がんと治療のこと』
演 者:設樂 紘平 先生(国立がん研究センター東病院 消化管内科医長)
日 時:3月10日(日)
場 所:日本橋ライフサイエンスハブ
共 催:認定NPO法人 希望の会 / がん情報サイト「オンコロ」
胃がんキャラバンの申し込みはコチラ
設楽先生の「胃がんについての」ご講演
知っておくべきこととして 1. 標準治療(ベストの治療)と研究的治療(治験)の選択肢 2. HER2陽性かHER2陰性か 3. 抗がん剤だけが治療でない 知っておいたほうが良いこととして 4. マイクロサテライト不安定性かEBウィルス陽性か 5. 遺伝子異常の検査 上記を柱に60分にわたり、設樂先生よりご講義を賜りました。 胃がんの化学療法では、HER2遺伝子が陽性であるか、陰性であるかが第一次治療の選択の鍵になっています。もちろん、ほとんどの方がその検査をされ、治療に結びついているのですが、残念ながら、患者のほとんどが、このHER2遺伝子のことを知らないのが現状です。まして、昨年末に初めてがん種を超えて適応承認された免疫チェックポイント阻害剤キイトルーダの適応遺伝子であるMSI-high遺伝子のことは知る余地もありません。 胃がんの中で、その遺伝子変異を持つ割合がどの程度かも知らないので、『遺伝子治療』という言葉に惹かれてしまうのだと感じました。 治験、臨床試験という言葉は一般にはなじみがなく、どのような研究が行われ、どのような経緯で、今の標準治療が確立されてきたかも知る機会がありません。 そのことが、標準治療は『並』であり、お金の高い治療の方がより良い治療なのだという誤解を生んでいます。このことを理解すれば、なぜ、最初からオプジーボをしないのかがわかり、「うちなら希望すればオプジーボが副作用なくできます」という宣伝への警戒心を持つことができます。 本セミナーは、主治医と話すことの大切さとして、免疫チェックポイント阻害薬が一定期間奏効していて、旅行もできていた方が、ある日、喉が渇き、尿の回数も多くなり、そのことを2日我慢していたことで命を落としてしまった事例をお話してくださいました。 これは、一型糖尿病という免疫チェックポイント阻害薬の有害事象のひとつです。 その方は、もし、不調を主治医に話し、せっかくの免疫チェックポイント阻害薬が続けられなくなったらという思いと、あと二日で診察日だからという気持ちで二日間を過ごされてしまったのです。すぐに伝えていたら救えた命だと思います。設楽先生の、「いつ、主治医に伝えたらいいのか迷うなら、すぐに伝えてください。先生は忙しそうだからという配慮は必要ない」という言葉に、多くの方が目を開いていました。 そして、緩和ケアの意味も話してくださり、『がんの治療は抗がん剤だけではなく、何のためにするのかという目的を、患者が中心となって、主治医をはじめとする医療者と話し合って、決めていくものなのだ』という大切な理解に繋がったと思います。
「胃がんについて」の質疑応答
セミナー後半は、患者家族からの質問に、設楽先生がひとつひとつ丁寧に答えてくださいました。 ・糖分はがんの栄養になるのか ・抗がん剤とともに、サプリメントなどできることはないのか ・ワクチン、様々な療法のこと 質疑応答を通じて、それが研究段階であったり、治験をしたけれど効果があるとは言えない結果だったり、まったく治験すらしたことがなかったりなども知ることができました。 人は『自分のしていることが、本当に最善であるのか』を迷っているのです。 テレビドラマのように、どこかに神の手をもつ人がいて、そこを探し当てれば助かるのではないかと思ってしまうのです。藁をもすがる想いは、そこに端を発しています。 今日のセミナーを通じ、科学を、そして、医師が何を思っているのかを、日本が誇る研究を知ることが、患者家族を守るのだと改めて確認できました。