オンコロの可知です。
2026年5月29日から6月2日にかけて、「米国臨床腫瘍学会(ASCO)2026年年次総会」が開催されました。オンコロでは、毎年、ASCOで発表した演題をピックアップしてお届けしていますが、本年はAI「Claude」を活用して、取りまとめてみました。
AIは我々の生活の中に取り込まれてきておりますが、がん情報サイト「オンコロ」ならではの知見と融合させた形で取りまとめましたので、宜しければお付き合いください。
なお、演題チョイスは、LBA(Late-Breaking Abstracts;通常、演題の締め切り後に得られた最新の重要な研究成果を発表するための特別枠)と、2026年7月11〜12日に日本臨床腫瘍学会の主催により開催される「Best of ASCO 2026 in Japan(ASCOで発表された最新知見を日本のエキスパートが解説し、日本での実臨床への応用可能性や保険承認に向けた課題が議論される)」にて選択されているものを中心に行っています。
執筆手法は、AIに執筆させた後に、元文献やASCOアブストラクトを確認して整合性を確認、さらに記事構成を編集しています。ただし、AIで対応していることもあり、多少の情報の相違があるかもしれませんので、もしお気づきの場合はご指摘いただければ幸いです。
そもそも「ASCO」とは?
ASCOは American Society of Clinical Oncology(米国臨床腫瘍学会)の略称で、1964年に設立された世界最大のがん専門医の学術団体です。毎年5〜6月に開催される年次総会には世界中の研究者・医師が集まり、臨床試験の最新結果を発表します。 ASCOで発表されたデータは、翌年以降の診療ガイドラインの改訂や、新しい薬の承認申請の根拠になることも多く、「世界のがん治療の方向性を決める場」といっても過言ではありません。 今年のテーマは「The Science and Practice of Translation: Improving Cancer Outcomes Worldwide(科学と実践の融合:世界中のがん患者のアウトカムを改善する)」。7,000以上の研究が発表され、そのうち最も重要な5つの研究が「プレナリーセッション(全体会議)」で報告されました。ポイント
プレナリーセッションに選ばれる演題は、「今日の臨床現場をすぐに変えられる可能性がある」と審査委員会が認めた研究のみ。今年は5演題すべてが、発表と同時にNEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)やThe Lancetなど世界トップクラスの医学誌に掲載されました。
2026年のASCOを「一言」で言うと
「不可能」が「可能」になった年。そして、治療を「足す」だけでなく「引く」勇気も示された年。 一方では「これまで薬が効かなかった膵がん」に初の標的治療薬が登場し、「30年変わらなかった悪性リンパ腫の治療」が刷新されるなど、革新的なデータが相次ぎました。 他方では、「手術でリンパ節を切り取らなくても治療成績は変わらなかった」「化学療法をしなくて済む患者さんを遺伝子検査で絞り込める」など、副作用や患者さんの生活の質(QOL)を守るための"引き算の医療"も注目を集めました。膵がん:「治療不可能」とされてきたKRAS変異に初の標的薬が登場
膵がんが難しい理由
膵がんは発見が難しく、見つかったときにはすでに進行していることが多いがんです。治療法も限られており、抗がん剤(化学療法)が中心ですが、効果に限界があり、患者さんにとって大変つらい状況が続いてきました。 膵がんの90%以上には「KRAS(ケーラス)遺伝子」の変異があります。この変異ががんの増殖を促す「スイッチ」の役割をしているのですが、これまでこの変異を直接止める薬を作ることが「構造上ほぼ不可能」とされ、医学界では「Undruggable(創薬不可能)」と呼ばれてきました。 KRASにはいくつかの変異の種類(サブタイプ)があり、膵がんで特に多いのは以下の3種類です [17]。- KRAS G12D:膵がん全体の約47%を占め、最も頻度の高いサブタイプ
- KRAS G12V:膵がん全体の約34%を占め、2番目に多いサブタイプ
- KRAS G12C:膵がんでは約2%と比較的稀(肺がんでは約13%と多いが、膵がんでの頻度は低い)
ダラクソンラシブ(RASolute 302試験)
Revolution Medicines社が開発した経口薬であるダラクソンラシブは、活性化した状態のKRAS変異に直接結合し、がんの増殖を抑える新しいタイプの薬です。 RASolute 302試験 [1] では、以前の治療を受けたことがある転移性膵がんの患者さんを対象に、ダラクソンラシブと医師が選んだ化学療法(標準治療)を比較しました。 結果:- ダラクソンラシブを投与した患者さんの生存期間(中央値):13.2ヶ月
- 化学療法を受けた患者さんの生存期間(中央値):6.7ヶ月
- 死亡リスクを60%低減(ハザード比0.40、p<0.0001)
肺がん:「30年先取り」の二重特異性抗体と、早期発見後の術後補助療法
イボネシマブ(HARMONi-6試験)
肺がんの中でも「扁平上皮がん」という種類では、免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)と抗がん剤の組み合わせが標準治療として広く使われてきました。 イボネシマブ(Ivonescimab)は、「PD-1」と「VEGF」という2つの標的を同時に狙う「二重特異性抗体」と呼ばれる新しいタイプの薬です。この薬は、免疫のブレーキを解除するだけでなく、がんが新しい血管を作るのも同時に防ぎます。 HARMONi-6試験 [2] では、イボネシマブ+抗がん剤と、免疫療法(チスレリズマブ)+抗がん剤を比較しました。 結果:- イボネシマブ群の全生存期間(中央値):27.89ヶ月
- チスレリズマブ群の全生存期間(中央値):23.69ヶ月
- 死亡リスクを34%低減(ハザード比0.66、p=0.0017)
セルペルカチニブ(LIBRETTO-432試験)
非小細胞肺がん全体の約1〜2%に「RET融合遺伝子」という特定の遺伝子異常があることが知られています。比率は小さいものの、遺伝子パネル検査の普及とともに早期に発見されるケースが増えており、このタイプの肺がんは比較的若い方や非喫煙者に多い傾向があります。 手術でがんを取り除いた「早期の非小細胞肺がん(ステージIB〜IIIA)」の中でRET融合遺伝子陽性の患者さんを対象に、LIBRETTO-432試験 [3] では、手術後の再発を防ぐ補助療法として、RETを狙い打ちにする薬セルペルカチニブ(レットヴィモ)をプラセボ(偽薬)と比較しました。 結果:- 2年後に再発・死亡なく過ごせた割合:セルペルカチニブ群 91.5% vs プラセボ群 61.1%
- 再発・死亡リスクを83%低減(ハザード比0.17、p<0.0001)
知っておきたい用語
「ゲノム(遺伝子)パネル検査」とは、がん細胞のDNAを調べて、どんな遺伝子の異常があるかを一度に調べる検査です。日本でも保険適用で受けられますが、条件があります。主治医の先生に相談してみましょう。
ロルラチニブ(CROWN試験):7年間、がんが進行しない——前例のない長期データ
非小細胞肺がん全体の約3〜5%に「ALK融合遺伝子」という特定の遺伝子異常があることが知られています。比率は小さいものの、「ALK阻害薬」という標的治療薬が非常によく効くことが知られており、このタイプの肺がんは比較的若い方や非喫煙者に多い傾向があります。 ALK陽性の進行非小細胞肺がんの一次治療において、CROWN試験 [4] では第3世代ALK阻害薬「ロルラチニブ(ローブレナ)」と第1世代阻害薬クリゾチニブを比較しました。今回、追跡期間中央値83ヶ月(約7年)という異例の長期データが発表されました。 結果(7年追跡):- がんが進行しなかった期間(中央値):ロルラチニブ群 未到達(95%CI: 68.5ヶ月〜未到達) vs クリゾチニブ群 9.1ヶ月(ハザード比0.19、95%CI: 0.13–0.26)
- 7年後もがんが進行していない割合:ロルラチニブ群 55% vs クリゾチニブ群 3%
- 7年後も脳への転移が進行していない割合:ロルラチニブ群 72% vs クリゾチニブ群 24%
- CNS系(中枢神経系)の副作用:気分の変動(易刺激性・多幸感)、不眠、記憶力・集中力の低下、言葉が出にくい(語想起困難)、ゆっくりとした話し方などの認知・精神症状が報告されています。ロルラチニブは血液脳関門を通過しやすい薬剤であるため、脳転移の抑制に優れる一方でこうした中枢神経への影響が生じやすい特徴があります。
- 体重増加・脂質異常:高コレステロール血症・高トリグリセリド血症、浮腫(むくみ)、体重増加が多くの患者さんで認められます。
- グレード3〜4の副作用:ロルラチニブ群で77%(クリゾチニブ群57%)に認められましたが、副作用による治療中止は5%にとどまっており、適切な管理のもとで長期継続が可能な安全性プロファイルといえます。
乳がん:HER2陽性乳がんの一次治療が変わる。一方で、期待外れの結果も
DESTINY-Breast09試験(T-DXd+ペルツズマブ)
「HER2陽性」という種類の転移性乳がんでは、これまで「THP療法」(タキサン系抗がん剤+トラスツズマブ+ペルツズマブ)という組み合わせが長年の標準治療でした。 今回のDESTINY-Breast09試験 [5] では、ADC(抗体薬物複合体)と呼ばれる新しいタイプの薬「トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ、T-DXd)」+ペルツズマブと、従来のTHP療法を比較しました。 結果(無増悪生存期間:がんが進行せずに過ごせた期間):- T-DXd+ペルツズマブ群:40.7ヶ月
- THP(従来治療)群:26.9ヶ月
- がん進行・死亡リスクを44%低減(ハザード比0.56、p<0.00001)
SERENA-6試験:血液検査でがんの"予兆"を早期に察知し、治療を切り替える「先制医療」
ホルモン受容体陽性乳がんでは、最初の治療(アロマターゼ阻害薬など)がいったん効いていても、やがて「ESR1遺伝子変異」という変化が起こることで薬が効きにくくなることがあります。この変化は画像検査でがんが大きくなる「前」に、血液中の循環腫瘍DNA(ctDNA)によって先に察知できます。 SERENA-6試験 [6] は、進行乳がんの一次治療中にctDNA検査でESR1変異を検出した時点で、次世代の経口ホルモン剤(SERD)「カミゼストラント」に切り替える戦略が有効かどうかを検証した試験です。画像上の増悪を「待たずに」、分子レベルの変化を検知した段階で介入する「先制医療」の考え方を初めて大規模に検証しました。 結果:- 主要評価項目(PFS):カミゼストラントへの切り替えにより、がん進行・死亡リスクを55%低減(ハザード比0.45、95%CI: 0.34–0.59、p<0.00001)
- PFS中央値:カミゼストラント群 16.8ヶ月 vs 継続治療群 9.2ヶ月(7.6ヶ月の延長)
- 次ラインまで含めた病勢進行・死亡リスク(PFS2):48%低減(ハザード比0.52、p=0.0038)
persevERA BC試験:「期待外れ」の結果も患者さんに重要な情報
一方、注目されていた試験が予想と異なる結果を示した例もあります。ホルモン受容体陽性乳がんの一次治療に、経口の次世代ホルモン剤(SERD)「ジレデストラント」を加えることで効果が上がるかを検証したpersevERA BC試験 [7] は、主要な評価項目を達成できませんでした。 「新薬を加えても効果が変わらなかった」という結果は一見残念に見えますが、「不必要な薬を使う必要はない」という情報として患者さんにとって重要です。なお、研究者たちは「特定の遺伝子変異(ESR1変異)を持つ患者さんには効果がある可能性がある」として引き続き解析を進めています。 日本での状況: ジレデストラントは日本・米国ともに現時点では未承認の試験薬です。今回の試験では主要評価項目が未達成であったため、今後の開発方針については製薬会社(ロシュ/ジェネンテック)による検討が必要な状況です。「腕のむくみ」を避けられる?脇のリンパ節をあえて取らない——SENOMAC試験
乳がんの手術では、がんが脇の下のリンパ節(腋窩リンパ節)に転移していないかを確認するため、最初にがんが流れ着きやすいリンパ節(センチネルリンパ節)を摘出して調べます。転移が見つかった場合、これまでは脇の下のリンパ節を広く取り除く「腋窩リンパ節郭清」を行うことが標準でした。 しかし、この郭清手術には大きな問題がありました。リンパ節を切除するとリンパ液の流れが滞り、術後に腕がむくむ「リンパ浮腫」や肩・腕の動かしにくさが生じることがあります。これらは数年〜数十年にわたって続くこともある、患者さんのQOL(生活の質)を大きく下げる後遺症です。 「そもそも、転移が確認されてもリンパ節を取り除かなくていいのではないか?」——この疑問に正面から答えたのがSENOMAC試験 [8] です。センチネルリンパ節にマクロ転移(一定以上の大きさの転移)が見つかった早期乳がん患者を対象に、郭清を行った場合と省略した場合で、生存率に差があるかどうかを長期追跡で検証しました。 結果:- 5年全生存率:94.4%(郭清省略群)vs 93.4%(郭清群)(ハザード比0.89、95%CI: 0.67–1.17)・非劣性を確認
前立腺がん:手術の前後に薬を使うことで「転移」を防ぐ(PROTEUS試験)
手術(前立腺全摘術)を予定している高リスクの前立腺がんに対して、手術の前後にホルモン療法(ADT)とアンドロゲン受容体阻害薬「アパルタミド(アーリーダ)」を組み合わせる治療法の効果を検証したPROTEUS試験 [9]。 結果:- 手術後にがん細胞がほぼ残っていなかった割合(pCR):アパルタミド群 8.9% vs プラセボ群 1.0%(約9倍の差、p<0.0001)
- 転移・死亡リスクを20%低減(無転移生存期間 ハザード比0.80、95%CI: 0.67–0.96、p=0.02)
- 無イベント生存期間 ハザード比0.71
多発性骨髄腫・悪性リンパ腫:二重特異性抗体と新薬が標準治療を塗り替える
MajesTEC-9試験(テクリスタマブ):NEJM同時掲載
「多発性骨髄腫」は骨の中にある骨髄の細胞ががん化する血液のがんです。1〜3回の治療を受けた後に再発した多発性骨髄腫の患者さんを対象に、「テクリスタマブ(テクベイリ)」という二重特異性抗体薬を、従来の標準治療と比較したMajesTEC-9試験 [10] の結果が発表されました。 結果:- がんが進行しなかった期間(中央値):テクリスタマブ群 未到達(18ヶ月後でも70%が進行なし) vs 標準治療群 8.2ヶ月(ハザード比0.29、p<0.0001)
- 死亡リスクを40%低減(ハザード比0.60、p=0.0020)
FrontMIND試験(タファシタマブ+レナリドミド+R-CHOP):Lancet同時掲載
「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」は悪性リンパ腫の中でも最も多い種類のひとつです。初回治療の標準治療「R-CHOP」(リツキサン+化学療法4剤)は、2002年のGELA試験でその有効性が示されて以来、約20年にわたり標準治療として使われてきました。この間、レナリドミドを加えたR2-CHOPなど、R-CHOPをさらに改善しようとする複数の試みがありましたが、いずれも主要評価項目の達成には至らず、R-CHOPを超えるレジメンは生まれていませんでした。 FrontMIND試験 [11] は、高リスク(高中リスク〜高リスク)のDLBCL/高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)の患者さん899例を対象に、R-CHOPに「タファシタマブ(ミンジュビ)」と「レナリドミド(レブラミド)」の2剤を加えた併用療法と、R-CHOP単独を比較した第III相試験(二重盲検)です(追跡期間中央値35.2ヶ月)。タファシタマブとは?
がん細胞の表面にある「CD19」というたんぱく質を標的にする抗体薬です。レナリドミドは免疫調節薬で、この2剤をR-CHOPに加えることで、免疫細胞によるリンパ腫細胞の攻撃力を高める効果が期待されています。
結果:- がんが進行・死亡するリスク:タファシタマブ併用群で25%低減(ハザード比0.75、p=0.0194)
- 2年後にがんが進行していない割合:併用群 71.1% vs R-CHOP単独 62.9%
- 3年後にがんが進行していない割合:併用群 67.3% vs R-CHOP単独 60.7%
消化器がん:大腸がんの個別化治療と、肝臓がんへの新戦略
ctDNA検査で「化学療法が必要な人だけ」を見分けるGALAXY試験
大腸がんの手術後、再発を防ぐための抗がん剤治療(術後補助化学療法)が必要かどうかは、がんのステージなどで判断されてきました。 GALAXY試験 [12] では、術後に患者さんの血液中の「ctDNA(循環腫瘍DNA)」を測定し、微量のがん細胞が残っているかどうかを検出して、化学療法の必要性を判断するという新しいアプローチを検証しました。 ctDNAが検出された患者さんには化学療法が有効で、検出されなかった患者さんには必要ない可能性が示されました。これにより、「本当に必要な人だけが化学療法を受ける」という個別化医療の実現に近づきます。 日本への影響: GALAXY試験は薬剤の承認ではなく、ctDNA(循環腫瘍DNA)検査を用いた治療戦略に関する試験です。日本でも血液循環腫瘍DNA検査の研究が進んでいますが、術後補助化学療法の要否をctDNA検査で決定するアプローチは現時点では標準診療として確立されておらず、今後の診療ガイドラインへの反映が期待されます。肝臓がん(HCC)にTACEと免疫療法の組み合わせ(EMERALD-3試験)
「経動脈化学塞栓術(TACE)」は、血管からがんに栄養を運ぶ血管を詰まらせて治療する方法で、中期の肝臓がんに広く使われています。 EMERALD-3試験 [13] では、TACEに免疫療法(デュルバルマブ+トレメリムマブ)と分子標的薬(レンバチニブ)を組み合わせることで、がんの進行を抑える期間が延びることを示しました。 結果:- がんが進行しなかった期間(中央値):三剤+TACE群 13.0ヶ月 vs TACE単独群 9.8ヶ月(ハザード比0.70、p=0.0007)
- 全生存期間(中央値):39.5ヶ月 vs 34.7ヶ月(ハザード比0.84、95%CI: 0.65–1.09)※中間解析・有意差なし
婦人科がん:「もしかしたら治癒できる」子宮内膜がんの新データ
子宮内膜がんのRUBY試験:一部の患者で「治癒」の可能性も
子宮内膜がんの中には、がん細胞が「ミスマッチ修復機能の欠損(dMMR)」または「マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-H)」という特徴を持つタイプがあります。これらは免疫療法が特によく効くことが知られており、全体の約25〜30%を占めます。 RUBY試験 [14] は、進行・再発子宮内膜がんに対して、化学療法に免疫療法「ドスタルリマブ(ジェムパーリ)」を加えることの効果を検証した第III相試験です。今回、追跡期間中央値55.6ヶ月(約4年半)の長期データが発表されました。 結果:- 全生存期間(中央値):ドスタルリマブ+化学療法群 44.6ヶ月 vs 化学療法単独群 28.2ヶ月(ハザード比0.69、p=0.0020)
泌尿器がん:尿路上皮がんで「3.5年でOS中央値33.6ヶ月」
EV-302試験(エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ):3.5年後もOS中央値33.6ヶ月、前例のない長期データ
進行した尿路上皮がん(膀胱がん・腎盂がん・尿管がんなど)の一次治療では、長年プラチナ系抗がん剤を中心とした化学療法が標準でしたが、その効果には限界がありました。 EV-302試験 [16] は、ADC(抗体薬物複合体)「エンホルツマブ ベドチン(パドセブ)」と免疫療法「ペムブロリズマブ(キイトルーダ)」の組み合わせを化学療法と比較した第III相試験です。今回、追跡期間中央値42.8ヶ月(約3.5年)の長期データが発表されました。 結果(3.5年追跡):- 全生存期間(中央値):EV+P群 33.6ヶ月 vs 化学療法群 15.9ヶ月(ハザード比0.53、95%CI: 0.45–0.63)
- 42ヶ月時点での生存率:EV+P群 44.0% vs 化学療法群 24.6%
- 無増悪生存期間(中央値):12.5ヶ月 vs 6.3ヶ月(ハザード比0.45、p<0.001)
- 完全奏効(がんが消えた)患者さんの42ヶ月時点での生存率:83.6%
支持療法:「がんに伴う疲れ」に薬で対処できる可能性
「だるくて動けない」——がん関連疲労という見えない苦しみ
がん治療中・治療後に60〜80%の患者さんが経験すると言われる「がん関連疲労(Cancer-Related Fatigue:CRF)」。通常の疲れとは異なり、十分に休んでも回復しない強いだるさ・疲弊感が特徴で、日常生活や仕事復帰に大きな支障をきたします。治療が終わった後も続くケースも多く、患者さんのQOL(生活の質)に深刻な影響を与える「第二の病」とも言われます。 原因はがん細胞が産生する炎症性サイトカイン、化学療法・放射線療法による神経・筋肉へのダメージ、ホルモン変化、貧血、睡眠障害など複合的で、現時点での標準的な対処法は運動療法や認知行動療法(CBT)などの非薬物療法が中心です。薬物療法の選択肢は長らく乏しく、「有効な薬がない」状態が続いていました。なぜ「抗うつ薬」が候補に?
今回試験されたのは、米国で抗うつ薬・禁煙補助薬として使われている「ブプロピオン(Wellbutrin®)」です。一般的な抗うつ薬(SSRI)とは異なり、ノルエピネフリンとドーパミンの再取り込みを阻害するという独自のメカニズムを持ちます。炎症性サイトカインやドーパミン系神経経路を通じてCRFの原因に作用する可能性が以前から示唆されており、小規模な先行試験でも有望な結果が出ていたことから、大規模検証が待たれていました。試験概要と結果
試験 [17] は、化学療法・放射線療法を終えてがんが寛解中であるにもかかわらず中等度以上の疲労が続いている乳がんサバイバー約422例を対象に、ブプロピオン(1日300mg)とプラセボ(偽薬)を無作為に割り付けた、米国全土多施設共同の第III相プラセボ対照試験(URCC 18007)です。ASCO 2026で発表された結果では、ブプロピオン投与群において疲労スコアが統計学的に有意に改善し、大規模試験として初めてCRFに対する薬物療法の有効性が証明されました。 日本での状況: ブプロピオンは現時点で日本では未承認薬です。この試験結果を受けて、今後日本でも研究が進むことが期待されますが、現在すぐに使える状況ではありません。 がんの症状そのものだけでなく、治療後の「生活を取り戻す」段階にも医療が積極的に介入しようとしている点は、患者さんにとって大きな一歩です。日本への影響は? 7月に「Best of ASCO 2026 in Japan」開催
日本臨床腫瘍学会(JSMO)の主催により、「Best of ASCO 2026 in Japan」が2026年7月11〜12日にWEB形式で開催予定です。このプログラムでは、ASCOで発表された最新知見を日本のエキスパートが解説し、日本での実臨床への応用可能性や保険承認に向けた課題が議論されます。 海外で発表された治療法がすぐに日本で使えるとは限りません。日本での承認状況、保険適用、実際に参加できる治験情報については、主治医の先生への相談やオンコロの情報をご活用ください。まとめ:ASCO 2026が示した3つの大きな流れ
① 「治療できなかったがん」に治療薬が登場 膵がんのKRAS変異、脂肪肉腫のCDK4増幅など、これまで「手が届かなかった」遺伝子異常を狙い打ちにする薬が次々と結果を出しています。 ② 「治療を足す」だけでなく「治療を引く」選択肢も SENOMAC試験(リンパ節郭清の省略)、GALAXY試験(化学療法が不要な人を遺伝子検査で特定)など、副作用を減らしながらも治療成績を落とさない「デエスカレーション」のエビデンスが積み上がっています。 ③ 血液がんに革新的な新薬が次々と テクリスタマブ(多発性骨髄腫)、タファシタマブ三剤療法(悪性リンパ腫)など、二重特異性抗体と呼ばれる新しいタイプの薬が従来の標準治療を大きく上回る結果を示しました。 ASCO 2026で発表された研究は、すぐに日本で使えるものばかりではありませんが、近い将来の治療の選択肢につながる可能性があります。新しい治療法への不安や期待を感じている方は、ぜひ主治医の先生と話し合ってみてください。また、治験(臨床試験)への参加を検討することも、最新の治療へのアクセス方法のひとつです。 オンコロでは治験情報の検索や、専門スタッフへの無料相談を受け付けています。一人で悩まずにご活用ください。本記事で登場した主な試験名と薬剤名
| No. | 試験名 | 対象がん | 薬剤名 | 主要結果(p値) | 参考文献 |
|---|---|---|---|---|---|
| [1] | RASolute 302 | 転移性膵がん | ダラクソンラシブ | OS 13.2 vs 6.7ヶ月(HR 0.40、p<0.0001) | ASCOアブストラクト |
| [2] | HARMONi-6 | 進行扁平上皮非小細胞肺がん | イボネシマブ | OS 27.89 vs 23.69ヶ月(HR 0.66、p=0.0017) | The Lancet |
| [3] | LIBRETTO-432 | 早期RET陽性非小細胞肺がん | セルペルカチニブ | EFS HR 0.17(p<0.0001)・2年EFS率 91.5% vs 61.1% | NEJM |
| [4] | CROWN | ALK陽性進行非小細胞肺がん | ロルラチニブ | PFS 未到達 vs 9.1ヶ月(HR 0.19)・7年PFS率 55% vs 3% | ASCOアブストラクト |
| [5] | DESTINY-Breast09 | HER2陽性転移性乳がん | T-DXd+ペルツズマブ | PFS 40.7 vs 26.9ヶ月(HR 0.56、p<0.00001) | J Clin Oncol |
| [6] | SERENA-6 | HR陽性HER2陰性乳がん(ESR1変異) | カミゼストラント | PFS HR 0.45(p<0.00001)・PFS2 HR 0.52(p=0.0038) | ASCOアブストラクト |
| [7] | persevERA BC | HR陽性HER2陰性乳がん | ジレデストラント+パルボシクリブ | PFS有意差なし※陰性試験 | ASCOアブストラクト |
| [8] | SENOMAC | 早期乳がん(リンパ節転移あり) | 腋窩リンパ節郭清省略 | OS 非劣性を確認 | ASCOアブストラクト |
| [9] | PROTEUS | 高リスク前立腺がん | アパルタミド | pCR 8.9% vs 1.0%(p<0.0001)・MFS HR 0.80 | NEJM |
| [10] | MajesTEC-9 | 多発性骨髄腫 | テクリスタマブ | PFS HR 0.29(p<0.0001)・OS HR 0.60(p=0.0020) | NEJM |
| [11] | FrontMIND | びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 | タファシタマブ三剤+R-CHOP | PFS HR 0.75(p=0.0194)・2年PFS 71.1% vs 62.9% | The Lancet |
| [12] | GALAXY | 切除後大腸がん | ctDNA主導の補助化学療法 | ctDNA陰性例で化学療法省略可能性を示す | ASCOアブストラクト |
| [13] | EMERALD-3 | 中期肝細胞がん | デュルバルマブ+トレメリムマブ+レンバチニブ+TACE | PFS 13.0 vs 9.8ヶ月(HR 0.70、p=0.0007) | ASCOアブストラクト |
| [14] | RUBY | dMMR/MSI-H子宮内膜がん | ドスタルリマブ+化学療法 | OS 44.6 vs 28.2ヶ月(HR 0.69、p=0.0020) | ASCOアブストラクト |
| [15] | EV-302 | 尿路上皮がん | エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ | OS 33.6 vs 15.9ヶ月(HR 0.53)・42ヶ月生存率 44.0% vs 24.6% | J Clin Oncol |
| [16] | がん関連疲労試験(LBA12003) | がん関連疲労(全がん種) | ブプロピオン | 疲労症状の有意な改善 | ASCOアブストラクト |
参考文献
- BM Wolpin, et al. Daraxonrasib, a RAS(ON) multi-selective inhibitor vs chemotherapy in previously treated metastatic pancreatic adenocarcinoma (mPDAC): Primary and final analysis from the phase 3 RASolute 302 study. ASCOアブストラクト: asco.org
- S Lu, et al. Ivonescimab plus chemotherapy versus tislelizumab plus chemotherapy in advanced squamous non-small-cell lung cancer (HARMONi-6): interim overall survival analysis of a randomised, double-blind, phase 3 trial in China. The Lancet. 2026. URL: thelancet.com
- YL Wu, et al. Selpercatinib in Early-Stage RET Fusion–Positive Non–Small-Cell Lung Cancer (LIBRETTO-432). N Engl J Med. 2026. DOI: 10.1056/NEJMoa2602628
- AT Shaw, et al. Lorlatinib vs crizotinib as first-line treatment for advanced ALK+ non-small cell lung cancer: 7-year update from the phase 3 CROWN study. ASCO 2026 Abstract 8502. ASCOアブストラクト: asco.org
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