みんなの力で、がんを治せる病気に-治療研究者にエールを-deleteC HOPE2021-


  • [公開日]2021.03.10
  • [最終更新日]2021.03.10

特定非営利活動法人deleteC(デリート・シー、代表理事:中島ナオ、小国士朗)は、がんが一日も早く治る病気になるよう、選考された臨床研究者に寄附をする活動を昨年より本格的に始動された。

今年は、コロナウイルス感染予防のため、2021年1月30日に選考受賞者の発表はオンラインにて生配信にて開催された。

2021年のテーマは「Why deleteC ?」。

受賞者にとっての「Why deleteC ?」のコメントを、受賞インタビューとともにおうかがいした。

がん細胞の“脱げ道”をふさいでがんを治す
-患者の身体に負担がかからない新治療を-

研究テーマ 「がん特異的代謝機能に基づく 新規放射線治療併用増感剤の研究開発」

大槻 雄士 氏

慶應義塾大学医学部 先端医療科学研究所 遺伝子制御研究部門 特任助教


「最終的には、がんを撲滅したい」。

もともと大槻氏は外科医として働いていたが、再発転移など、手術しても治しきれないがんを治すためには、新しい治療法の開発は必須になってくると、外科医として働きながら強く感じていた。

大槻氏は呼吸器外科医だったが、5年前に慶應義塾大学先端医学研究所に移り、がん治療研究の道へ。

この研究所ではユニークな着目点で、がん治療研究を進めていた。

「僕が当初異動してきた時は、酸化によるダメージを利用して、がん細胞を死滅させる研究が行われていました」。

この研究室では10年前から細胞を老化させる酸化ストレスが、がん細胞を自然と細胞死させるメカニズムに着目。

患者の身体に負担がかからない治療法の確立を目指してきた。

しかし、がん細胞の中には酸化ストレスから逃れて生き延びられるものもいることがわかった。

そこで、がん細胞の逃げ道をふさぐ薬「スルファサラジン」を研究。

効果は見られたものの、ごく限られたがん細胞にしか効かなかった理由は、がん細胞の逃げ道が複数あったため、その道を塞ぐ薬を探すことに。

数千もの既存の薬を試したところ、その薬は意外なものから見つかった。

「ジクロニンという塗り薬として使われていたものでした」。

ジクロニンは、局所麻酔に使用される薬。効果は抜群だったが、塗り薬では体内に投与できない。

「ジクロニンと似た構造をもち、体内に取り込める薬はないか。これが実現すれば、がん治療の現場は大きく変わるかもしれない」。

2年かけてようやく見つかったのは、「オキシフェドリン」という、かつて狭心症の治療に使われていた飲み薬。

「飲み薬で見つかったときは、本当に嬉しかったですね。すでに使われている薬を組み合わせて、今までにない治療効果を生み出すことができるという部分に将来性も感じていますし、興味深さも感じている部分です」。

「スルファサラジン」と一緒に使うことで、逃げ道をふさぎがん細胞を死滅させ、酸化ストレスを増幅させることで、より多くのがん細胞に効果が期待できるという。

この成果が認められ、2020年大槻氏は優れた若手がん研究者に贈られる、日本癌学会「ヤングサイエンティストアワード」を受賞。

研究はまだ初期の段階だが、数年後には患者への実用化に向けた臨床試験のスタートを目指している。

「僕は外科医として働いていたので、手術できれいにがんを取り切るというのが仕事。
術後の患者さんは、再発や転移に恐怖感を持ちながら生活されているので、最終的にはがんで辛い思いをする患者さんを1人でも減らす、がんをしっかり治せる病気にする。それが僕の最終目標です」。

大槻氏にとっての「Why deleteC ?」

もともと僕らの研究はがんを「撲滅する治療」、「治せる病気にする」をテーマに研究しています。

その活動の研究の中で、知人を通じて「deleteC」というプロジェクトが、本当に同じ目標をもって動いていることを知り、なにか一緒にできないかな、と思い今回応募させていただきました。

がん研究の現場にもっと看護の力を
-No Nursing, No Clinical Research-

研究テーマ「診療研究への看護師参画について
―研究参加者を守り、研究の質向上の ためのリサーチナースの普及・啓発」

藤原 紀子 氏
 
東京大学医科学研究所附属病院 緩和医療・先端臨床腫瘍科 がん看護専門看護師・リサーチナース


がん看護専門看護師として働く藤原紀子氏。

日本のがん研究をさらに加速させるため、“新しい看護のあり方”を10年以上追求してきた。

それは、Clinical Research Nurse(臨床研究看護師)。

「これから必要なのはリサーチナース。研究もある程度は私たちは理解しています。目の前の患者さんのケアもできます」というプロフェッショナル。

クリニカルリサーチナースとは、新薬など新しい治療法の実現に向けた「臨床研究(=クリニカルリサーチ)」で、研究に参加する患者の看護を専門とする看護師(=ナース)を指す。

新しい薬、治療法の効果、安全性を確認するための臨床研究には、患者さんの参加が欠かせない。

参加される患者さんにとっては効果も期待できるが、強い副作用が出てしまうことも。

特殊な環境におかれる患者さんに伴走するクリニカルリサーチナースには、臨床研究への理解と知識が求められる。

「患者さんに不利益が起きていないか、医師が組み立てる研究のスケジュールはどう進めるのかを念頭に置いて、必要な看護を考えています」。

「目の前の患者さんのご病気や、必要とされていることと、研究が求めることのバランスを取りながら看護をしているところが、とても大事です」。

クリニカルリサーチナースは、世界的にも新しい専門分野として注目され、2007年には国際学会「IACRN」が発足。

臨床研究の現場で活躍する世界20カ国以上の看護師が参加する団体。藤原さんは10年前、アジアから初めてIACRNに参加した。

さらにその輪を広げようと、2016年、藤原氏は有志5人で「IACRN日本支部」を立ち上げた。

有志の中には、「日本にIACRN国際組織ができたときにすごく嬉しかったのは、これでやっと1つの専門領域として、提示できるものができた」と感じている人もいる。

日本では、年々臨床研究の数は増加しており、看護師が関わる機会は増えたが、臨床研究の看護を学べる教材や環境は不足している。

ひとりでも多くの看護師が、クリニカルリサーチナースについて学べる環境を作りたいと、2020年12月、日本で初めてクリニカルリサーチナースのオンラインフォーラムを開催。

想定を上回り、全国から90名を超える看護師が参加し、IACRN日本支部メンバーが中心となって、リサーチナースの教育プログラムにも着手した。

藤原氏が特に力を入れているのが、教材づくり。

「臨床研究看護にフォーカスして書かれている本*は、たぶんこれだけだと思いますね。私はずっとこの本を翻訳したいと思っています」。

現在2016年に世界で初めて作られたリサーチナースの具体的な看護基準である、この本の日本語翻訳・出版を実現させるべく奔走されている。

活動を加速させる藤原氏を駆り立てる理由は、“看護師 誰もが臨床研究のことを学べる環境をつくりたい”という想い。

「一番大事なのは、臨床研究に参加している患者さんが非常に特別な存在ではなく、通常の治療を受けている患者さんも研究の治療を受けている患者さんも、同じように変わらずに、ナースがそばにきて看護をするということです」。

「クリニカルリサーチナースを専門性の高い特殊なものだと難しく考えず、看護師一人一人にとって当たり前の知識となっていけば、患者さんにとっても、がん治療の未来にも、臨床研究がよりよいものになると信じています」。

「目の前の患者さんは、治療で副作用の症状もあり、辛い思いをされているけれど、研究に参加してくださる時点で、未来のために私たちは一緒に進んでいるんですよ、というナースの想いはとても大事。

ナースが患者さんのそばにいて看護をすることで、研究チームや臨床チームの一員としてケアができる。そういう未来が来て欲しいです」。

*本:2016年に世界で初めて発刊されたリサーチナースの標準基準『Clinical Research Nursing -Scope and Standards of Practice-』

藤原氏にとっての「Why deleteC ?」

がんという病気は身近にありますが、がんの研究というと少し遠い、難しい、というイメージがあると思います。

「臨床」という言葉は「床」という漢字が入りますが、ベッドサイド、つまり患者さんありきです。

臨床研究そのものが、患者さんと共にある、という状況下で、ある患者さんが「がんの臨床試験に参加できて、この研究の薬がもし自分に効果があったら、と思うけれど、もし効果がなかったとしても、将来自分のような立場の患者さんの治療に繋がるかもしれないね」とおっしゃっていたのが、今でも心に残っています。

そういう患者さんが今の治療を作っていて、いま研究に参加している患者さんが未来の希望を作っている。

私達はそのような患者さんたちを一生懸命応援したい、ケアをしたい、という想いで看護師を増やしています。

そのためには「どんな未来があったらいいんだろう」、「こういう活動大事だよね」、と一緒に考える仲間が必要で、社会全体のいろいろな立場の人達で考えていくことが大事です。

deleteCの活動は、「繋ぐ」、「伝える」、そして「応援し合う」、という点を非常に大事にされおり、私達のような人数が少ないリサーチナースを信じて理解して応援してくださっている。

私達も応援したり応援し合ったりということが大事だな、と感じています。

中島ナオ氏(deleteC代表理事)のコメント

私は患者の立場として、治療を受けている身ではありますが、藤原先生のそういったお言葉、また外科医を経験した後に研究の道に進まれた大槻先生の想いと行動に、とても希望を感じますし、期待して応援していきたいと思っています。

AIさんと「いいねの募金」ページを開設

イベントが生配信された1月30日、deleteCアンバサダーのアーティストAIさんが、AIさんの新曲「HOPE」をライブにて初お披露目し、がん治療研究をはじめ医療現場などエッセンシャルワーカーの方々に向けてエールを送った。

また、音楽の視聴とがんの治療研究への応援をつなげる、新しい寄附の取り組み「いいねの募金」を発表。

AIさんの新曲「HOPE」のミュージックビデオを1月30日にインターネット上に公開し、”いい音(ね)”を聴いた方が、”いいね!”と思ったら、ご自身の気持ちの“良い値”を寄付していただきたい、そういった想いから「いいねの募金」と名付けられた。


日本最大級のインターネット 募金サービス「Yahoo!ネット募金」の 特設サイトで、2021年12月31日まで受付中。

集まった募金は、専門的知見をもつ医師はじめとするdeleteC選考委員会によって厳正に審査のうえ、毎年1~2月にイベントを開催し、選ばれたがん治療研究者にお渡しする。

※”良い値”とは、ご自身で自由に金額をつけることが可能です。

deleteC ホームページ

データ提供:deleteC

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