がん患者における せん妄ガイドライン 2019年版 出版


  • [公開日]2019.04.08
  • [最終更新日]2019.04.08

 こんにちは、メディカル・プランニング・マネジャーの川上です。

 みなさんは、「せん妄(せんもう)」という言葉を聞いたことがありますか?医療従事者の方であればご存知かもしれませんが、患者さんやご家族の方々のなかには、初めて聞く方もいらっしゃるかもしれません。
国立がん研究センター がん情報サービスのWebサイトでは、せん妄について「身体的な異常や薬剤によって引き起こされる急性の脳機能不全であり、周囲の状況が理解できない、実際にはないものが見えたり聞こえたりする(幻覚)、物忘れがひどい、興奮する、眠れない、などの多彩な症状を呈します。そのため、『ぼけたのではないか?』などと家族が心配されることがあります。せん妄は、大きな手術の後や、新しい薬を使った後、全身状態が変化したときなどに多くみられます。」と解説しており、専門家が対応すべき状態であるとしています。

がんと心

 私も、大学病院の看護師時代に、せん妄の患者さんを何人も経験しましたが、せん妄は、患者さんにとっても、家族にとっても、医療者にとっても、扱いづらい病態です。
2019年2月、日本サイコオンコロジー学会(以下、JPOS)、日本サポーティブケア学会(以下、JASCC)により、「がん患者における せん妄ガイドライン 2019年版」が出版されましたので、ご紹介したいと思います。

ガイドラインの構成は、第Ⅰ章で、ガイドラインの作成経緯や目的、エビデンスレベルなどについて解説、第Ⅱ章の総論では、せん妄とは何か、評価と診断、病態、治療とケアについて解説、第Ⅲ章では、臨床疑問に関するQ&Aが9件解説され、第Ⅳ章で、ガイドライン作成過程や文献の検索方法について解説されています。

 近年、さまざまなガイドラインの作成にあたっては、Minds(厚生労働省の委託を受け、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営するEBM普及推進事業)による診療ガイドライン作成マニュアルに則ったプロセスと構成が意識されています。このガイドラインもこれに則り作成されており、作成のプロセスや、文献の検索方法などについて記載されていることは、せん妄について学ぼうとする読み手にとって、学びを深めるために大変参考になると思いました。特に興味深かったのは、多数の専門家に同一のアンケート調査を繰り返し、回答者の意見を収斂させる「デルファイ法」という手法により、経験値・経験知をガイドラインに落とし込んでいく丁寧な作業を経て作成されているところです。

せん妄は、医療者でも適切に評価し対応するのが難しく、せん妄の患者の20〜50%程度しか症状を認識していないことが報告されているそうです。せん妄は患者さん自身にとっても、身近でケアする家族にとっても、なかなか理解し難く困惑してしまう病態ですので、この発刊を機に、せん妄に対する適切な対応が普及していくことを心から願います。

近年、治療のガイドラインの充実に加え、副作用のマネジメントや支持療法に関するガイドラインも増えてきて、頼もしい限りです。こうしたガイドラインを扱う出版社は主に金原出版で、出版されているガイドラインは以下から確認できます。

金原出版「シリーズ診療ガイドライン の書籍一覧」

医療者向けのものが中心ではありますが、患者さん向けのガイドライン解説もあり、患者さん向けのものは、価格設定も少しリーズナブルです。また、医療者向けのものは難しいかもしれませんが、読んでみると参考になると思いますし、ガイドラインがどのようにできるのか、に触れることも、とても勉強になると思います。

最後に、JPOS代表理事の明智龍男先生が本書の「発刊にあたって」で記している以下の言葉を、ぜひ患者さん、ご家族、医療者の皆さんにお届けしたいと思います。

ガイドラインは・・・(中略)・・・「そうしなければならない」、あるいは「そうあるべき」といった絶対的な遵守事項を示したものではありません。あくまで先生方の豊富な臨床経験や最新のエビデンス、患者さんやご家族との良好なコミュニケーションのもと、最良の意思決定を行うための補完資料です。

医療者だけでなく、患者も、家族も、ガイドラインを活用して、最良の意思決定が行われたら、素晴らしいですね。

 今回の「がん患者における せん妄ガイドライン 2019年版」は、がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ1、とのことなので、シリーズ続編の発刊も楽しみです。

×

リサーチのお願い


この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン