第21回肺がん医療向上委員会セミナー感想レポート「がんと就労」


  • [公開日]2018.11.29
  • [最終更新日]2019.03.14

オンコロの福井です。

11月9日に開催された肺がん医療向上委員会(日本肺癌学会)主催の「第21回肺がん医療向上委員会セミナー」に初めて参加しました。今回は講演内容を交えつつ、感想レポートを書かせていただきます。

肺がん医療向上委員会とは?

肺がん医療向上委員会とは、肺がん医療の正しい情報を発信するため、学会、医師だけでなく、メディカルスタッフ、製薬関連企業、医療機器関連企業、更にはヘルスケア企業、一般企業、メディア、そして患者・家族を代表する団体、組織も加わり、異なる業態・業種の方々が一体となって、このミッションを取り組むことを目的とした委員会です。

第21回目のテーマは、「がんと就労」でした。

特別講演 1 「自身の体験を通じたがんと就労の問題(患者の視点から)」

1人目の特別講演は、西口 洋平さん(一般社団法人キャンサーペアレンツ 代表理事)でした。

西口さんは、当時はベンチャー企業であったエン・ジャパン株式会社に2002年入社し、営業職として残業しながらバリバリ働いていらっしゃいました。2014年に食べると下痢や灰色っぽい便が出るなど身体の不調を感じ、複数の病院へ行ってみましたが、正式な診断は出ず、最終的に精密検査を受けてみることに…。

2015年1月、西口さんが35歳の時に最終的にくだされた診断がステージⅣの胆管がんだったそうです。ステージⅣの胆管がんは、5年相対生存率が2.9%、余命1年と言われている中、家族のことを守りたい一心で、今でも週1回の化学療法を受けながら診断告知されてから3年半生きていらっしゃいます。

もし自分が同じ立場だったとしたら、告知された時点で絶望して途方に暮れてしまいそうだなと思いましたし、登壇されている西口さんががんサバイバーなのは知っていましたが、ステージⅣの胆管がんということを感じさせない立ち振る舞いで驚きました。

告知から仕事復帰できたのはいいものの、ご自身のがんについて伝える順番やカミングアウトすることへのストレスを感じ、凄く悩んだそうです。また、会社から身体の負担を考え、営業職から内勤や時短勤務への変更も提案されたそうですが、西口さんは変更を希望せずに営業の仕事を続けたそうです。

がんになる前はフルタイムで勤務し、業績を上げるために残業するのが当たり前の生活から一変、週4日勤務し定時退社、週1回通院の生活に。徐々に有給休暇がなくなり無給休暇に、保険は医療保険のみで通院は保障対象ではなかったため、収入・賞与・年収が減少していったそうです。

治療のことで精一杯の中、会社にはキャリアは絶たれたことや子どもや親など身内になかなかがんのことを伝えられないもどかしさなど、私は感じたことのないさまざまな葛藤があったかと思います。

それでもくじけることなく、がんになった時に相談先がなかったご自身の経験を元に、がんになっても生きていやすい社会を作るために一般社団法人キャンサーペアレンツを立ち上げ、活動していらっしゃることに私は純粋に西口さんの行動力が凄いなと思いました。

西口さんの経験から、がんになっても上手く仕事を両立するための4つがポイントを挙げていました。

1. 腹をわって話す(正直に具体的に話すことが大切)
2. 忖度しない
3. 役割・期待・評価
4. 信頼貯蓄(これまでの信頼がどのようなものであったかが大切で、復帰後にも大きく影響する)

がんだけに限らず、病気が理由で休職し治療継続が必要になった場合の励みとなるお話しでした。

特別講演 2
「がんと就労:患者・企業・医療者
 社会全体に求められること」

2人目の特別講演は、高橋 都先生(国立がん研究センターがん対策情報センター がんサバイバーシップ支援部長)でした。

がん=治すことができる
がん=長く付き合う慢性病に変化しつつある
がん=身近な病気

そのようなイメージにシフトしてきている中、なぜ「がんと仕事」への対応は難しいのか?その背景には、医療機関だけでは解決できない問題があることをご指摘されていました。

実態調査によると、1/4~1/3の患者さんががんの診断時に離職をしているそうです。また、そのうち4割は治療開始前に就業規則などがあるにもかかわらず、治療を試みずに離職するケースが多くあるそうです。

患者さんだけでなく、医療機関側でも患者さんが仕事のことで悩んでいる際にかける言葉に悩んでいることが現状にあります。さまざまな立場の方が悩むだけでは解決しないため、会社側もがん患者さんへの配慮をする必要があり、高橋先生の視点で会社がおさえておきたい対応ポイントもご講演の中でお話しされていらっしゃいました。

私がご講演を聞いていて一番印象に残ったのが、「自社の支援制度の情報を提供する」ということです。私はこのご講演を聞いていた時、会社の就業規則内容をほとんど把握していませんでしたし、支援制度をすべて把握している訳ではありませんでした。(このセミナーに参加後、実際少し調べました。)会社によっては、がんに特化したがんに関する就労支援ハンドブックがある会社もあり、会社側もがん患者さんに支援制度伝えることで仕事を続けるか、続けていけるのか悩む患者さんが減るのではないかと思いました。

高橋先生より、働いているがん患者さんやがん患者さんのご家族の方へのメッセージとして、支援を待つのではなく引き出すことも大切であるということをお話ししていらっしゃいました。

セミナーに参加して

私が学んだ4つのこと

・会社側からすればがんの有無は関係なく、その人が業績アップや社会貢献のために、仕事にポジティブに取り組む姿勢などその人の信頼度やスキル(信頼貯蓄)が大切

・もしがんになり悩んでしまったとしても、さまざまな支援制度があるため、会社側は健康問題を抱える従業員を把握し、自社の支援制度の情報を提供していく努力が必要

・がん患者さんやそのご家族はその支援を待つだけでなく、自分たちで情報収集やこうしていきたいという意思表示も必要

・がん患者さんに対して今後も社会や医療者による両立支援もしていける体制づくりをしていかなければならない

最後に…

セミナーに参加してみて、がんは治療法がどんどん確立されている病気ではあるものの、就労に関しては、がん患者さんだけでなく企業や医療者なども対応に悩む現状があることがわかりました。オンコロを通して、立場を超えてがん関連で悩む全ての方々へ情報提供し、サポートしていけるよう努めて参ります。

文:福井 澄恵

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