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ASCO関連ニュースを読む際に注意しなければならない7つのこと

[公開日] 2017.06.12[最終更新日] 2017.06.12

オンコロの可知です。 6月2日から6月6日まで米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会が米シカゴにて開催されました。 その発表について、日本でも医療専門メディアを中心に報じられており、特にセンセーショナルな話題については今後一般メディアでも報じられると考えています。オンコロでも少しずつ取り上げ始めました。 その中、6月2日に、米国のHealthNewsReviewという「医療記事の正確さを向上させるとともに、患者・一般市民がエビデンスに関する評価を行うことを支援することを目指している」WebサイトのJoy Victory副編集長のブログにて「6 things to keep in mind if you read cancer-related news in the next few days(ここ数日のがん関連ニュースを読むときに気を付けないといけない6つのこと)」という題のブログを執筆しています。なお、「ここ数日の」というのはASCO関連のニュースのことを指しています。 オンコロでも、今後もASCO関連のニュースを報じる予定ですが、どうやってそのニュースを選んでいるかにも言及しながら、Victory氏の記事を紹介しようと思います。(ちなみに、ただ訳しているわけではなく、私の考えを元アレンジしています。また、Victory氏は「6つのこと」としていますが、1つ加えて7つのことを紹介します)

1.These are mostly unpublished, preliminary results(多くは未発表の予備的な結果である)

医学研究発表の多くは「学会発表⇒医学誌での論文発表」という手順であることが多いです。医学誌に掲載されるには、専門家集団による査読をクリアする必要があり、その過程でクオリティが洗練されていきます。しかしながら、学会に演題が採用される際には、そういった査読は行われないことが多く、また、抄録には文字数制限があり、かつ発表時間も短いことから詳細情報が発表されていないことが多々あります。よって、これらの発表は予備的な結果であり、表面的なことしかわからないことが多いのです。 すなわち、詳細なことがわからない状態で報道されているケースは多くあることを念頭に置くべきだと思います。 なお、オンコロで記事にする場合、ASCOプレスリリース、ASCO抄録および米国メディア(ASCO POSTONCLIVE等)をもとにニュースを書くことが多いため、不完全であるケースも否めません。ただし、学会発表と共に論文リリースされている場合はその論文にも言及し、ASCOスライドや現地で参加した医師やライター等に確認して掲載するように努力しております。

2.Some of the studies are small and not designed to prove benefits(多くの研究が小規模であり、また、有効性を証明するようにデザインされていない)

臨床試験自体が有効性を確認するためにデザインされた試験ではありません。たとえば、殆どの第1相臨床試験は安全性を確認するように設計されているため、有効性についてはごく初期の予備的なデータにすぎません。科学的根拠にはエビデンスレベルというものが存在しますが、こういった予備的なデータはエビデンスレベルが高くはありません(エビデンスレベル1~6のうち4に該当。数値が低いほどレベルが高い)。 エビデンスとして信頼されるものであるためには、少なくとも事前に設定された無作為化比較臨床試験にて統計学的に証明される必要があります(エビデンスレベル2)。 なお、日本のメディアは、この予備的な結果を大々的に報じることが少なくありません。こういった報じ方は控えるべきであり、メディアは、まずは臨床試験の仕組みおよびエビデンスレベルを知っている必要があると言えます。 オンコロでも第1相臨床試験を報じることも多々ありますが、記載表現については注意するように努めています。もし、大げさに報じている場合は指摘して頂ければと幸いです。

3.Immunotherapy drugs–and the overlapping field of precision medicine–are not as awesome as news stories tend to make them out to be.(免疫療法薬とプレシジョン・メディシンをオーバーラップした記事は、それほど魅力的なニュースではない)

オンコロでも報じましたが、FDA(米国食品医薬品局)が高頻度マイクロサテライト不安定性の固形腫瘍についてペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)を迅速承認しました。これは免疫チェックポイント阻害薬とプレシジョン・メディシンを複合した明るいニュースといえるでしょう。 しかしながら、Victory氏は「HealthNewsReviewの査読者は、生存期間や生活の質を改善したという結果ではなく、(奏効率といった)代替エンドポイントに基づくFDAによる迅速承認であり、生命を脅かすリスクを見落とし、(メディアは)試験結果の意味を過大評価して(報じて)いる」と述べています。 FDAの承認の仕組みとして、迅速承認制度があります。これは、特に画期的新薬である場合、奏効率(ORR)といった評価期間が短い代替エンドポイント(サロゲートエンドポイント)の結果により迅速承認し、市場で使用できるようにして、その後に生存期間といった真のエンドポイントの結果によって承認するという手法です。その結果、迅速承認されていても、真のエンドポイントの結果によっては迅速承認を取り下げられるケースも存在します。 すなわち、これらの結果は期待出来るものであるけれども、これだけで過剰に期待するのは時期尚早ということを言及しているわけです。 この点は、オンコロも特に注意すべきかもしれないと考えております。

4. “Liquid biopsies” also tend to get uncritical news coverage.(リキッドバイオプシーも過度に報道される傾向がある)

「リキッドバイオプシー」は腫瘍組織ではなく、血液から遺伝子変異等を検出可能な画期的な診断アプローチとなります。 日本でも非小細胞肺がんのEGFR T790M遺伝子変異について「リキッドバイオプシー」が保険承認されており、オンコロにも「リキッドバイオプシー」についての問い合わせが多くなってきました。 しかしながら、「リキッドバイオプシー」は未知数であり、全てのがん種で結果が残せるかはわかりません。また、非小細胞肺がんのEGFR T790M遺伝子変異については承認されているものの、検出感度の問題があります。血漿中に検出可能レベルでDNAが循環していなければ検出されない可能性があり、腫瘍組織が採取できる場合は腫瘍組織を使用した検査が推奨されています。 すなわち、侵襲が小さい検査が魅力的であるのは間違いありませんが、こういったリスクを覚えておくべきだと考えます。

5.Ask yourself: What were the “endpoints” of the study?(試験の「エンドポイント」は何であるかを自問すること)

臨床試験ごとに評価項目(エンドポイント)が設定されていますが、主要評価項目(プライマリー・エンドポイント)や副次評価項目(サブプライマリーエンドポイント)があります。多く臨床試験では、どんなにサブプライマリーエンドポイントが素晴らしい結果でも、プライマリーエンドポイントが示されなければ失敗といえます。 また、薬剤承認という観点でみると、「生存期間の延長」といった真のエンドポイントが重要であり、これは「無作為化二重盲検並行群間比較試験」で統計学的に証明されていることがベストとなります。つまり、「どの治療群になるかは一定の割合でランダムに決定し(無作為化並行群間)」、「患者や治験担当医などのこの研究に携わるありとあらゆる人物がどの薬剤を使用しているかわからない状態(二重盲検)」で比較する臨床試験であることが重要となります。しかしながら、がん領域の臨床試験の場合、安全性の観点等から二重盲検の設定が難しいケースもありますし、対照群(治験薬と比較する群)の設定が難しいケースもあります。 さらに、生存期間の比較で立証するのは非常に時間がかかることもあるため、奏効率(ORR)や無増悪生存期間(PFS)といった代替エンドポイント(サロゲートエンドポイント)を用いることは、2.で言及した通りです。 メディアは上述の意味がわからず、またはわかっていても触れずに報じる傾向があります。また、「FDAが承認したから」という理由で大々的に報じる傾向もあります。 よって、情報の受け手側が「エンドポイントが何であるか」に注意して受け止める必要がある訳です。 なお、オンコロでは、記者に時間がない場合に「雑」に報じることがあることがあるのため、戒めなければならないと反省しています。

6.Don’t forget the extremely steep price tag.(極めて高騰した価格設定であることを忘れないこと)

Victory氏は「世界で最も高価な医薬品の一部は抗がん剤であるが、多くの場合、費用が利益に値するという証拠は殆どない。がん専門医のVinay Prasad氏は、抗がん剤のコストについて『合理的な考慮に基づいているわけではなく、恐ろく不当なものだ』と語った」と述べています。これについては、日本でも賛否両論の議論がなされていますが、私から言及することはありません。

7.日本のメディアは、情報ソースが乏しく、情報が偏ってしまいがちであることに注意すること

最後に、日本において顕著な問題点をあげます。 それはメディアの情報ソースが限られていることです。 例えば、今回のASCOでは5,000演題程度の演題が発表されたようですが、このうち日本のメディアが報じた演題は極めて少ないです。今回のASCOの記事で、一番目にしたのは「ナッツが大腸がん再発を抑える」といったものでしょうか・・・ 何故そうなるかというと、日本の学会でさえ注目していないメディアが、米国で開催しているASCOについて注目していないからだと思っています。それは世界一のがん関連学会でもあるにも関わらずです。 また、もし注目したとしても、5,000演題の中で何が報じるべき演題であるかがわかりません。これはオンコロでも同じことが起こります。 よって、情報ソースは製薬企業が発表しているプレスリリースになったりします。実際に、ASCO前後で製薬会社から数十件のプレスリリースが発表されており、これをもとにニュース記事を掲載すると、製薬企業が発したい情報のみになったりしてしまうわけです。(ただし、これらの情報が悪であるとは思っていません) ちなみに、記事に関する利益相反を注意することも大切です。専門メディアやフリーライターは渡航費を補てんしてもらってASCOに行く場合もあるようで、そういった企業の情報に偏る傾向があるように思います。(これはビジネスとして仕方ないことですが・・・) オンコロはどうであるかというと、ニュース記事に対して利益相反はないのですが、受託している治験薬の情報に偏っている傾向があるのは否めません。ただし、「治験情報はアクセスできるようになったけど、その治験薬の情報がどこにもない」といった患者さんの要望に基づいたりしています。よって、ネガティブな結果であろうとなかろうと、公平に報じるように努めています。 さて、ASCO関連のニュースですが、オンコロでは、まずはASCOが発しているニュースリリースを主に報じて参ります。そして、それが終わったら、オンコロの理念を理解し、支援頂いている先生方が注目にしていただろう演題やどこのメディアも報じていないけれども重要であろうと思う演題を出来る限り報じていければと思っていますので、宜しくお願いします。 可知 健太 このブログは自分自身への戒めでもあると思い書きました。なお、利益相反はありません。
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3Hクリニカルトライアル株式会社 執行役員 可知 健太

オンコロジー領域の臨床開発に携わった後、2015年にがん情報サイト「オンコロ」を立ち上げ、2018年に希少疾患情報サイト「レアズ」を立ち上げる。一方で、治験のプロジェクトマネジメント業務、臨床試験支援システム、医療機器プログラム開発、リアルワールドデータネットワーク網の構築等のコンサルテーションに従事。理学修士。

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