がんの臨床試験と聞いて、どのように思われるでしょうか?
様々な報道や、雑誌の記事、あるいは個人・団体を含むHPやブログを見ると、若干の誤解もあるようなのでシリーズで臨床試験、特にがんの臨床試験について取り上げたいと思います。

まずは、誤解の代表的なもとして、臨床試験とは効果や毒性もわからない薬物を投与する人体実験で、非常に恐ろしいものという認識です。確かに、ヒト(人体)にある薬物を投与して、その効果や毒性を見るものですから、人体実験という事自体は、間違った表現ではないと思いますが、この人体実験という言葉には、ある種、人の人権や倫理を無視して実施されるかのような響きがあり、一部の方はこのような非倫理的な手法自体に嫌悪感を持つ方もいるかもしれません。

しかし、現在の臨床試験では、このような人権を無視した、あるいは倫理に反した方法で実施される事はほとんどないと思って良いと思います。すなわち、患 者さんの意に反して、了解なく臨床試験が実施されるといったことはなく、臨床試験に入った後でも、患者さんの意思で、参加を取りやめることも可能ですから、いわゆるある一部の方が誤解されるようなダークなものではないことは確かです。

これらを担保するものとして、ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則、いわゆるヘルシンキ宣言というものがあります。現在のほとんどの臨床研究は、この宣言に基づき計画され、実施されていると思います。この中では、抗がん剤だけでなく、全ての医学研究における基本原則が記されており、患者さんの不利益となることがないよう様々な配慮について記載されています。

実際、臨床試験はどのような手続きをもって進められているかは、患者さんにはわかりにくいことだと思いますが、以下に患者さんが臨床試験に参加するまでをごくごく簡単に紹介します。

臨床試験には、いくつかの種類(製薬企業主導の適応症取得などを目的とする治験、公的臨床試験グループによる臨床試験、新GCPに基づいた医師主導による臨床試験、有志の医師グループによる自主的研究などなどですが、これは別の記事で紹介します)があり、更に臨床試験の形態(Phase:フェーズ)にもいくつかあります。

まず、何らかの薬剤あるいは治療法の有用性を検討したいと考えられた場合(臨床試験の目的はフェーズによって異なりますので、これも別の記事で紹介します)、まずはそれらの医師あるいは企業により、綿密な臨床試験の実施計画書が作成されます。これは、試験実施要綱ともプロトコールとも言われています。通常、作成されたプロトコールは、関連する医師や製薬企業等の事前検討がなされ、間違いがないか修正され、あるいは更に良いものとして修正が加えられます。更に、場合よっては独立した機関や医師をたてて、更にあらゆる点で問題がないかが検証されます。これらが整い、初めて参加施設や医師のもとへ、このプロトコールが届けられます。実は、この作成と手直し等で、大変な時間と労力が払われます。試験の内容にもよりますが、この作成だけでも半年や一年という時間を費やすことも珍しくありません。

更に、これだけ時間をかけた後でも、参加する施設や医師は、再度それぞれの施設において、その試験がその施設において実施できるかどうかを、再度検証し 承認するかしないかを決定します。これを通常IRB(Institutional Review Board)といい、その施設独自で再度検証する委員会(治験審査委員会や倫理委員会など)の事を指します。ここまで来て、やっとその施設と医師は、ある薬剤や治療法の臨床試験を患者さんに紹介することができる状態になります。

ここまでの経緯と背景があって、患者さん臨床試験への参加の打診がなされます。これは医師(やCRC)による口頭の説明と、文書による説明書が手渡されると思います。通常は、その文書を読み、内容を把握し、疑問点を明らかにし、十分考えた上で、翌日以降に参加するかしないかを、医師に伝え、参加する場合は同意書に サイン(捺印)をし、正式に試験参加となります。したがって、現在のいわゆる臨床試験では、手続き上においては、いわゆる人体実験というものには当たらず、相当に時間をかけ慎重に進められていると思って良いと思います。

しかし、手続きが問題ないといっても、臨床試験においてまったく問題がないかと言えば、これは別の話で、これらについては、おって別の記事で紹介していきたいと思います。ここで、問題が生じる原因も、各領域における専門家の不足と、情報不足(医療側・患者側ともに)に起因することは間違いありません。

記事:柳澤 昭浩

コチラも参考
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