革新的で記憶に残る学会を目指して:患者さん主体の治療を軸に、多角的な議論を【日本放射線腫瘍学会第37回学術大会】大会長インタビュー


  • [公開日]2024.08.26
  • [最終更新日]2024.08.23

日本放射線腫瘍学会第37回学術集会が、2024年11月21日(木)~11月23日(土)にパシフィコ横浜ノースにて開催される。
そこで今回は、会長を務める大西 洋 先生(山梨大学医学部放射線科教授)に、本学術集会にかける想いや注目ポイントを伺った。

インタビュアー:がん情報サイト「オンコロ」浅野理沙

患者さんに寄り添った治療の重要性:放射線科医だからこそできること

浅野:まずは学会大会長をお務めになるにあたっての想いや、今回の学会の目指すものについて教えてください。

大西:誠意を込めて患者さんと向き合うことをテーマに掲げています。治療の技術的なもの以上に、より人間的なものにも光を当てながら、患者さんが治療に何を求めるか、どんな生活をしたいのか、など個人的な背景を踏まえて治療選択をしていく、そんな放射線治療の実現に近づけていきたいです。これは、昨今Shared Decision Making (SDM)として既に注目されていますが、SDMをより意識しながら具体的に何をしていくかを改めて考えたいと思います。普段の診療の中では、患者さんの想いはなかなか表には出てこない部分なので、医療者側がある程度引き出してあげることが大切だと考えています。

また、今回の学会テーマの副題である「patient-guided radiotherapy」は、もともとあるimage-guided radiotherapy(画像誘導放射線治療:画像情報による正確な臓器や腫瘍の位置情報を基に行う放射線療法)から考えた造語です。正確な照射ももちろん重要ですが、患者さんの希望に精密に沿った治療を最優先にしたいという想いを込めておりますので、医師やその他の医療スタッフ全体で、治療の在り方を議論していきたいと考えています。

浅野:放射線治療の技術に加えて、患者さんの人間性や哲学との向き合い方も大切にしていくということですね。

大西:ただ“向き合う”という言葉だけでは難しいので、患者さんとのかかわり方を学ぶことは今後も課題だと思います。がん治療の中身よりも医者とのコミュニケーションにもどかしさを抱えている患者さんは多いという現状がありながら、医療の現場ではなかなか十分な対応が追い付いていません。

浅野:患者さんが医師との対話を望んでいることは、放射線科に限らず、全領域に通じることだと思います。特に放射線科医として力を入れたい部分はありますか? 

大西:放射線治療医は、臓器横断的かつ全がん腫横断的であり、また根治治療から緩和治療まで病態横断的にバランスよく対応できる立場にあるということが強みのひとつだと思っています。放射線治療の幅広い知識を使って総合的に判断できるという良さを、患者さんにも他科の先生方にもぜひ知っていただき、生かしていきたいと考えています。

浅野:放射線治療は、体にメスを入れない侵襲性の低い治療というイメージはありますが、その他にも放射線治療のここにもっと期待してほしい、ということはありますか?

大西:低侵襲性で体に優しい治療であることはもちろんですが、手術と同等レベルの根治性を期待できるケースもたくさんあるということを知ってほしいと思います。また臓器の機能の維持や形態温存が可能であること、外来でできるために日常生活を維持しながら治療ができることなどが放射線の良さだと思います。

一方で、被曝という観点から、放射線治療に怖いイメージを持たれている患者さんもいらっしゃるので、安全で高い効果が望める治療選択肢だという正しい認識を持っていただきたいです。副作用の出方は、最近の高精度照射技術により一昔前とは大きく違って軽くすむ場合が増えています。

今までとは一味違う学会作り

浅野:ここからは、プログラムの具体的な構成などについて教えてください。まず、今回のプログラムの特徴やその背景についてお話いただけますか?

大西:もちろん学会の主目的は知識を共有し勉強することですが、そこに面白みを加え、単なる学会という枠を超えた楽しめるものにしたいと考えています。私は普段から常識破りの一面を持っていて、リスクを考えて立ち止まるよりはベネフィットを求めて変化してく方を選びたいと思って活動しています。

今回の学会でも、患者さん主体の医療ということをメインテーマとしながら、その実現のために常識をみんなで見直すセッション(セッション名「常識の見直し」「慧眼を磨く」)や、一つのテーマについて意見をぶつけ合う多数のディベートセッションを作り、参加者全員が主体的に考えを深める会にしていきたいと思っています。「

建付けは斬新である意味破壊的とも言えますが、“出る杭”となって革新的な会を作り、方々から打たれること覚悟で皆さんの記憶に残る会にしたいと思っています。

また、良い放射線治療の実現には最先端の機械が欠かせないので、放射線治療は医療機器やIT技術などの業界と共に発展してきたという背景があります。そのため、企業の方もクローズアップし、医療を提供する側である学会や日常診療がどうあるべきかを本音で語ってもらうようなセッション(「企業イチ押し紹介」「企業トップとJASTRO幹部との会談」)「も設けています。

浅野:先ほどのお話の中では、患者さんとの向き合い方を医療者が話し合うセッションなどがあると伺いましたが、実際に患者さんを巻き込んだセッションや、患者さん向けプログラムのようなものはありますか?

大西:ひとつはSDMのセッションで、患者さんと医療者側が考えを伝えあって、個別の価値尺度で治療方針を決めていくことを目指していきます。また、今回の学会の副題でもあるpatient-guided radiotherapyのセッションには、がんサバイバーの方にも参加していただきご意見をいただく予定です。

放射線領域でホットな学術的トピックは?

浅野:学会では、最新の学術的なテーマも取り上げられると思いますが、先生が考える今の放射線治療におけるホットトピックを教えてください。

大西:ひとつは、寡分割照射(通常と比較して1回の線量を増やし照射回数を少なくした照射)が主流になってきているということです。コロナ禍の影響で、通院をできるだけ減そうという流れが出てきた時から、注目を集めて研究が進んだ分野です。その最たる治療として定位放射線治療(SRT/SBRT)というものがあり、学会の中でも現在の立ち位置や展望を話し合いたいと思っています。

もうひとつは免疫療法との併用です。臨床データとしてはまだまだ成功ばかりではなく、放射線と免疫療法の併用タイミングや線量などを検討していく必要はありますが、期待の持てる開発のひとつとして現状と今後の展望について、学会でも取り上げる予定でいます。

浅野:免疫療法との併用という観点で、免疫細胞の供給源でもあるリンパ節は避けて照射すべきという考え方もあると思いますが、いかがでしょうか。

大西:その点に関しても、常識再考のひとつだと思っています。病変が画像上は明らかではないリンパ節まで予防的に照射すべきか、ということはまさに学会でも議論される予定です。

浅野:当日の議論を楽しみにしています。

もうひとつ、診療報酬改定に伴って、今年から粒子線治療(重粒子線治療、陽子線治療)の適応が拡大されたと思いますが、実臨床でのインパクトはあるのでしょうか。

大西:特に患者数の多い早期肺がんにおいては、今回の適応拡大の情報が浸透していけば、新しい治療選択肢としての可能性が広がると思っています。今回の学会でも、粒子線に特化したセッション(粒子線治療部会)があり、今回の改訂についても話し合われます。また、瞬間的な大線量で副作用も少なく短時間で完了するFLASH陽子線治療(超高線量率照射)と呼ばれる治療法があり、まだ研究段階ではありますが、新たな研究成果の発表が期待されます。

集学的治療における放射線科医の役割

浅野:最後に、これからの放射線療法の可能性についても触れたいと思います。手術と放射線治療は、同じ局所療法として、今後どのように位置づけられていくのでしょうか。

大西:放射線治療は“切らないがん治療”というキャッチフレーズでやってきた背景もありますが、手術と放射線は競合する治療ではないと思っているので、患者さんごとに切除と放射線のどちらが適しているのかを十分に話し合うべきだと思っています。

また、切除することでがんがなくなったことを実感できる手術と違い、放射線治療はすぐには効果を実感しにくい治療法です。ただし、実際には長期間再発しない、あるいは根治に至る例はたくさんありますし、そもそもがんの多くは、がん細胞がすでに血中に流れ出ているので、画像上で見えているがんの局所を全摘したから治る、という単純な病気ではありません。重要なのは、放射線科医と外科医と内科医がそれぞれのメリット・デメリットを補い合っていくことだと思っています。

この総合的な治療の実現には、患者さんだけでなく医療者の意識も変える必要がありますが、それには放射線治療医以外の科の医師も巻き込んでいく必要があります。今回の学会では、他の診療科も一緒に議論するセッションを設けているので、これを機に、放射線治療医にとって他科の先生がいる場(キャンサーボードなど)での発言がひとつの大きな役割だという認識を広めていきたいです。

浅野:それこそ常識再考ですね。医療者の意識が変われば、放射線科医と他科との連携が進んでいくと思いますし、患者さんの理解が深まれば、放射線を治療選択肢としてより積極的に考えられるようになっていくと思います。

大西:集学的治療は、科を超えた信頼関係がないと成り立ちません。私が所属する山梨大学の中では、放射線科医が外科医や内科医と良好な関係性を築けています。それでもやはり、がんを取り切れるということに加えて、切除検体から遺伝子変異PD-L1発現率などがわかるということから、手術のメリットが強調されることが少なくありません。果たしてそれが本当に“患者さんの”メリットになるのか、考えさせられるケースも多いです。

浅野:どの治療が勝るか、ではなく、個々の患者さん毎に適した治療を、すべての科が連携しあって総合敵的に判断していくことが重要なのですね。

患者さんも参加できる学会に

浅野:最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

大西:学会最終日には市民公開講座を予定しているので、ぜひ参加していただきたいと思っています。また先述の通り、患者さん目線に立ったセッションもあり、現在参加方法を検討中です。ぜひホームページも随時確認していただけるとうれしいです。

参考リンク:
日本放射線腫瘍学会第37回学術大会
学術集会ホームページ:
https://www.congre.co.jp/jastro2024/index.html

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