第4回「治療中、困っていることをどう伝えれば良い?」対談レポート
2025/12/17

左から、ゲスト:菊地 栄次先生(聖マリアンナ医科大学病院 腎泌尿器外科学 主任教授)/ナビゲーター:矢方 美紀さん(乳がんサバイバー・声優・歌手・タレント)/コメンテーター:中川 和彦先生(近畿大学病院 がんセンター長)
はじめに:治療中の「困りごと」を一人で抱え込まないために
本記事は、主にシニア世代の皆さんに向けて「治療中、困っていることをどう伝えれば良い?」をテーマにお届けした対談動画の要点をまとめ、読みやすくしたダイジェスト版です。治療中に感じる体調や気持ちの変化を「年齢のせいかもしれない」「こんなことを先生に伝えていいのかな」とためらっていませんか?この企画では、主治医や医療スタッフとの対話の工夫、そして相談できる人の広がりについて分かりやすく紹介します。
ゲストには、泌尿器がん治療に豊富な経験を持ち、患者中心の医療に取り組む聖マリアンナ医科大学病院 腎泌尿器外科学 主任教授 菊地栄次先生、コメンテーターにはシニア世代の視点から患者さんに寄り添う診療をされている近畿大学病院 がんセンター長 中川和彦先生をお迎えしました。ナビゲーターは乳がんサバイバーで、声優・歌手・タレントとして活動する矢方美紀さんにおつとめいただきました。
① 治療中に感じる不安や困りごとは、どんなことがあるの?
矢方:治療を受けているとき、患者さんが感じる不安や困りごとは、具体的にはどんなことがあるのでしょうか?私自身も治療中に「これって普通なのかな?」と思って聞けなかったことがありました。
菊地:不安や困りごとは人それぞれですが、副作用に関する不安、痛み、眠れない、食欲がない、味覚が変わるといった体のことがあります。また、家事や趣味、仕事ができない、家族に負担をかけているのではないかといった生活や気持ちに関する悩みも多いです。でも「こんなこと言ってもいいのかな」と抱え込んでしまう方も少なくありません。
矢方:体のことだけじゃなくて、生活や気持ちの部分も大きな困りごとになるんですね。中川先生、高齢の方の場合はどんな特徴がありますか?
中川:高齢の方は、他の病気を抱えている場合が多いです。そのため「年齢のせいだ」と思い込んでしまうこともあります。でも実際には治療による影響かもしれません。気分が沈む、人と会いたくないといった心の変化も体からの大切なサインです。ご本人が話しづらいときは、ご家族が一緒に伝えるのも一つの方法ですね。
菊地:私たち医療者も、患者さんが話しやすい雰囲気を作る工夫が必要です。たとえば毎回素敵な帽子をかぶってこられる患者さんに「今日の帽子も素敵ですね」と声をかけると、そこから会話が広がって、体調や副作用のことを話してくれるようになる。小さな工夫ですが大切だと思います。

② 主治医や医療者に、うまく伝えるにはどうすればいいの?
矢方:診察室に入ると緊張してしまって、「こんなこと聞いていいのかな」とためらうこともあります。どうすれば上手に伝えられるのでしょうか?
菊地:まず「言っていいんだ」と思っていただくことが大切です。そのためにお勧めしているのは、事前にメモを作っておくこと。症状や気になることを箇条書きにして、優先順位をつけておけば、短い診察時間でも効率よく伝えられます。
矢方:たしかに診察室に入ると忘れてしまうこともあります。中川先生、ほかに工夫はありますか?
中川:いちばん困っていることを最初に伝えるのがポイントです。限られた時間でも重点を置けますし、ご家族が同席して代わりに伝えるのも有効です。年齢を重ねると「困っている」と言い出しにくいものですが、その一言が治療を良くするための大切な手がかりになります。
菊地:診察には予期せぬ緊急対応や手術などで時間を十分に取れない場合もあります。その時は「次回ゆっくりお話ししましょう」と伝えて、改めて時間を確保するようにしています。大切なことは、伝える気持ちを持って診察室に入っていただくことです。

③ 治療中の悩みを相談できるのは、どんな人たち?
矢方:相談というと主治医の先生が思い浮かびますが、それ以外にも相談できる人はいますか?
菊地:もちろんです。看護師、薬剤師、がん相談支援センターの相談員など、多くの人が支えてくれます。薬の副作用は薬剤師、生活のことは看護師、気持ちや制度のことは相談支援センターと、相手を選んで相談できます。
中川:それぞれ専門家が違う視点でサポートしてくれます。主治医に直接言いづらいことでも、看護師や相談員なら気軽に話せる。最近では「シェアード・ディシジョン・メイキング(協働意思決定)」といって、患者さんと医療者が一緒に考えるという考え方も広がっています。治療は一人で受けるものではなく、チームで支えるものです。
矢方:なるほど。誰か一人に全部を話すのではなく、チームの中で「相談しやすい人」を見つけるのも大切なんですね。

今回のポイント
矢方:ここで今日のお話のポイントを3つにまとめます。
①「困りごとは小さなことでも大切なサイン」
治療中の体調の変化や気持ちの不安は我慢せずに伝えてみましょう。年のせいやこんなことを言ってもいいのかなと思わず、気になったことはどんどん聞いてみてください。大切な情報がたくさんあります。
②「自分の思いを伝える工夫をしてみよう」
自分の思いを伝える工夫をしてみましょう。短い診察時間でも自分の困りごとを伝えやすくするために、事前に聞きたいことをメモしておく、聞きたいことの優先順位を決める、ご家族と一緒に話すなどの工夫が効果的です。
③「相談先は主治医だけじゃない」
相談先は主治医だけではない。困った時は看護師、薬剤師、相談支援センターなど相談できる人はたくさんいます。遠慮せずにチームの誰かに話してみることから始めてみましょう。
最後に、今回のゲストである菊地先生から、視聴者の皆さまにメッセージをお願いいたします。
菊地:治療中は、副作用や予後への不安を多くの方がお持ちだと思います。我々に気持ちを伝えていただくことは極めて重要です。2つの点があります。1つは副作用の早期発見。小さなことでもお話しいただければ、重い副作用を予防できます。もう1つは治療コンプライアンスの向上です。患者さんが治療に対してどう感じているのかを私たちが理解し、共に解決しなければ、うまくいく治療も途中で中断してしまう可能性があります。時には手紙で思いを伝えていただくこともありますが、どんな形でも構いません。ぜひお気持ちを伝えていただければと思います。
矢方:ありがとうございます。それでは続いて、中川先生からもお願いします。
中川:いま菊地先生がおっしゃったことに尽きます。良い治療を完成させるのは、医師や医療スタッフだけではできません。その中心にいて最も重要な役割を担っているのは患者さんご自身です。患者さんからいただく情報によって、治療を最適な形に整えるのが私たち医療スタッフの務めです。ですから、体の変化を必ず伝えていただくことは「お願い」ではなく「やらなければならないこと」だと考えてください。
矢方:菊地先生、中川先生、素敵なメッセージをありがとうございます。私自身、がんと向き合った経験から、皆さまが抱える不安や疑問に少しでも寄り添える情報をお届けしたいと思っています。この動画やコラムが、シニアの皆さん、そしてご家族の皆さんにとって有益なヒントとなり、闘病の日々を少しでも安心して治療に臨むための助けになれば幸いです。若い世代の一員として、そしてがん体験者として、私も皆さまと共に一歩一歩前を向いて歩んでまいります。菊地先生、そして中川先生、本日はありがとうございました。
<出演者>
・菊地 栄次先生(聖マリアンナ医科大学病院 腎泌尿器外科学 主任教授)腎泌尿器系外科の先進的な治療の豊富な臨床経験から患者中心の医療に努めエキスパート。
・矢方 美紀さん(声優・歌手・タレント)元SKE48のメンバーとして活動。自身の乳がんの体験からがん啓発活動にも関与。
・中川 和彦先生(近畿大学病院 がんセンター長)元日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会の理事などを務め、患者中心の医療のパイオニア的存在。
※この鼎談の様子を動画でご覧になる方は、メルクバイオファーマ株式会社・がん情報サイト「オンコロ」共催『高齢者のためのわかりやすいがん情報サイト「オンコロ for シニア」』をオンコロYouTube公式アカウントでご覧下さい。
第4回テーマ:治療中、困っていることをどう伝えれば良い?
第3回テーマ:治療の選択肢を考えるとき、あなたの気持ちを大事にしよう
第2回テーマ:がん治療を受けるあなたの気持ち どう支える?
第1回テーマ:がん治療の選び方、一緒に考える大切なこと
メルクバイオファーマ株式会社作成
JP-NONO-00087(2025年12月作成)