第3回「治療の選択肢を考えるとき、あなたの気持ちを大事にしよう」対談レポート
2025/11/4

左から、ナビゲーター:矢方 美紀さん(乳がんサバイバー・声優・歌手・タレント)/ゲスト:近藤 恒徳先生(東京女子医科大学附属足立医療センター泌尿器科教授・部長)/コメンテーター:中川 和彦先生(近畿大学病院 がんセンター長)
はじめに:あなたにとって最善の治療を考えるために大切なこと
本記事は、がん治療の選択肢を考える際のポイントをテーマに、ナビゲーターの矢方美紀さんと専門家の先生方が語り合ったものです。がん治療は、効果や副作用だけでなく、患者さんご自身のご希望や「どう生きていきたいか」といった価値観も重要です。医師とともに治療を考える際のコミュニケーションのヒントについても教えていただきました。
ゲストには、日頃から、前立腺がんや腎細胞がん、尿路上皮がん等の泌尿器を中心としてご高齢のがん患者さんを多く診察しておられる、東京女子医科大学附属足立医療センター泌尿器科教授・部長の近藤恒徳先生、そしてコメンテーターとして、ご自身もシニアの立場から患者さんに寄り添う診療をされている近畿大学病院がんセンター長の中川和彦先生をお迎えしました。ナビゲーターは、乳がんサバイバーで、声優・歌手・タレントとして活動中の矢方美紀さんにおつとめいただきました。
①治療を選ぶとき、何を大切にすればいいの?
矢方:治療の選択肢が増える中で、患者さんが最善の選択をするために、大切にすべきことは何でしょうか?
近藤:我々医師は、臨床試験の結果に基づき、効果が証明された治療をお届けすることを第一に考えます。しかし、薬の治療には副作用が伴います。シニアの患者さんは体力が落ちている方が多いため、治療の効果と副作用の程度のバランスが非常に重要です。
その上で、最も大事なのはご自身のご希望です。趣味を大事にしたい、仕事を続けたい、家族との時間を多く取りたいなど、ご希望は人それぞれです。普段からご自身で「どうありたいか」を考えておくと、実際に治療の場に当たったときに希望を伝えやすくなると思います。

中川:私たち医療者は、患者さんの体の状態だけでなく、心や生活全体の状態に目を向けるように努めています。患者さん自身が「こうありたい」とお気持ちを表明されると、より良い治療法の選択につながります。
最近では、医療者側からの情報提供だけでなく、患者さん側からもご自身の価値観や希望を述べていただき、相互作用によって最善の選択を追求するシェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making/協働意思決定)という考え方が重要視されています。患者さんの数だけライフスタイルがあるため、自分自身に合ったものにするためには、医療者と患者さんがお互いにコミュニケーションをよく取っていくことが大事です。
矢方:一緒に考えることが大切なのですね。人生の中で何を大切にしたいのか、それを考えることが治療選択の第一歩なのですね。
② あなたの気持ちを主治医にどう伝えればいいの?
矢方:ご自身の希望や不安を医療者に伝えるのは難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。上手に伝えるコツはありますか?
近藤:患者さんのお気持ちを我々医療者に伝えていただくことは、非常に大事なことです。診察室は緊張する場であり、診察時間も少ないため聞き忘れが出てくるものです。
アドバイスは2つあります。
1. メモを活用する*
事前に質問や確認したいことをメモに書いていただき、優先順位まで付けていただければ、聞き忘れがなくなります。聞いた答えをメモに残すことで、病気への理解も深まります。
2. 家族・友人の協力を得る*
一人で来院するより、ご家族やご友人がそばにいれば勇気が出て、思い切って質問できることがあります。また、ご自身で聞き忘れたことや気がつかなかったことを、ご家族やご友人が質問してくれることもあります。
*診断と治療>治療にあたって>医療者との対話のヒント
(国立がん研究センター がん情報サービスWebサイト参照)
どんな些細なことでも、遠慮せずにどんどんご質問ください。些細なことと思っても、実は医療者にとっては非常に重要な情報であることがあります。
中川:患者さんご自身が「私はどうありたいか」を述べていただくのが一番大切です。不安があるのは当然ですが、自分が言うべきことを伝えるという勇気を持って発言してもらいたいと思います。具体的には、何が不安なのかを明確におっしゃってください。例えば、「孫の世話を続けたいから、気力・体力が落ちるのは困る」「朝のウォーキングが趣味なので、歩けなくなるような副作用は勘弁してほしい」など、日常生活に具体性を織り交ぜた発言をしていただけると、医療者も想像でき、良い治療選択に結びついていく可能性があります。

矢方:コミュニケーションが、より良い治療につながっていくというのを改めて感じました。
③ 納得できる治療を選ぶにはどんなことが役に立つの?
矢方:自分の気持ちを伝えること以外に、活用できるものはあるのでしょうか?
近藤:納得できる治療を選ぶためには、色々な情報を得て、調べていただくことが大事です。
1. 国立がん研究センター がん情報サービス
インターネットのサイトですが、正しい情報が記載されており 、患者さん向けの情報も豊富です。我々医師も活用する信頼性の高い情報源です。
2. 相談支援センターを探す(国立がん研究センター がん情報サービス)
全国の拠点病院などに設置されています。看護師、薬剤師、社会福祉士などのスタッフが、
がんのことだけでなく、生活、費用、訪問看護など、幅広く相談を受け付けています。
中川:がん相談支援センターは患者さんの秘密もプライバシーも守ってくださるので、ぜひ活用してもらいたいと思います。患者さんは告知を受けると、家族や友人に迷惑をかけまいと心を閉ざしてしまう傾向があります。しかし、一人で不安を抱え込まず、ご家族やご友人など、いろんな人と積極的に、フランクに話し合った方がよいですね。
また、「自分がこれからどうなっていくのかわからない」という不安には、患者会など、同じ病気を経験された方々の話を十分聞き、情報を集めることが有効です。自分が孤立しているのではなく、みんな一緒なのだ、と理解を深めることができるでしょう。

今日のポイント
納得のいく治療選択のため、以下の3点を大切にしましょう。
①自分の価値観を大切にしよう。
どんなふうに生きたいか、何を大事にしたいかという、あなた自身の価値観や生活の質(QOL)を大切にすることが重要です。
②あなたの気持ちはきちんと伝えてよい。
不安や希望、迷いは当然のことです。遠慮せず、主治医や医療者に思っていることを伝えることで、よりあなたにあった治療選択につながります。
③納得できる選択には、相談と情報が力になる。
がん情報サービスの活用や、家族、相談窓口(がん相談支援センター)、患者会への参加など、自分の気持ちを整理し、支えてくれる人や場所をうまく使いましょう。
近藤:診察時間が短い現状でも、メモやご家族、看護師などの協力を得て、皆様のお気持ちは我々に伝わってまいります。今は、医師だけが治療を決めるのではなく、医師、看護師、薬剤師、みんな仲間だと思って、みんなと相談しながら一番いい治療を築いていくのが今の病院です。遠慮なくご自身のご希望を伝えていただき、最善の治療を進めていきたいと思っております。
中川:一番大事なことは、診断を受けた時に自分の将来が不安になる、その不安に打ち勝つことです。不安の根本は、初めてのことで将来が予測できないという点にあります。孤立するのではなく、医療者、ご家族や友人、患者会の方々等とお話をすることで、将来のことを類推することができます。そのためには話す勇気が必要です。ぜひその勇気を持っていただきたいと思います。
<出演者>
・近藤 恒徳先生(東京女子医科大学附属足立医療センター泌尿器科教授・部長)豊富な臨床経験と研究実績を背景に、がんを含む先進医療を提供し、患者中心の診療と後進育成に努めている。
・中川 和彦先生(近畿大学病院 がんセンター長)元日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会の理事などを務め、患者中心の医療のパイオニア的存在。
・矢方 美紀さん(声優・歌手・タレント)元SKE48のメンバーとして活動。自身の乳がんの体験からがん啓発活動にも関与。
※この鼎談の様子を動画でご覧になる方は、メルクバイオファーマ株式会社・がん情報サイト「オンコロ」共催『高齢者のためのわかりやすいがん情報サイト「オンコロ for シニア」』をオンコロYouTube公式アカウントでご覧下さい。
第3回テーマ:治療の選択肢を考えるとき、あなたの気持ちを大事にしよう by オンコロ forシニア「65歳以上のがん患者やそのご家族のための情報サイトです」
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