第2回「がん治療を受けるあなたの気持ち、どう支える?」対談レポート

左から、コメンテーター:中川 和彦先生(近畿大学病院 がんセンター長)/ナビゲーター:矢方 美紀さん(声優・歌手・タレント)/ゲスト:清水 研先生(がん研有明病院 腫瘍精神科 部長)

はじめに:がんと向き合うあなたの心を支えたい

本記事は、がん患者さんの心のケアをテーマに、タレントの矢方美紀さんと専門家が語り合った対談のダイジェスト版です。がんという病気は、治療だけでなく、心の面でも大きな負担を伴います。この企画では、その心の苦痛をどう和らげ、どう乗り越えていくかについて、わかりやすくお伝えします。
対談の様子は動画でもご覧いただけます。

ゲストには、がん患者さんやご家族の心の苦痛を和らげることを専門とする、がん研有明病院腫瘍精神科部長の清水研先生、そしてコメンテーターとして、ご自身もシニアの立場から患者さんに寄り添う近畿大学病院がんセンター長の中川和彦先生をお迎えしました。ナビゲーターは、乳がんサバイバーで、声優・歌手・タレントとして活動中の矢方美紀さんにおつとめいただきました。

① がん治療を受けるとき、どんな気持ちになることが多いの?

矢方:がんになると誰でも不安になると思いますが、一般的に患者さんはがんの診断を受けるとどのような気持ちになるのでしょうか?

清水:がん告知を受けた直後は、多くの方が「頭が真っ白になった」といった状態になります。数日経って現実だと分かると、「なぜ自分が」という怒りや、健康を失ったことへの悲しみ、将来への不安など、様々な負の感情が湧いてきます。20年ほど前の研究では、5人に1人くらいの方がうつ状態になるというデータもあります*
*内富庸介・小川朝生編. 精神腫瘍学. 医学書院, 2011, pp96-108(清水研分担著)

中川:診断を受けた後に自分の中にこもってしまい、医療者や家族と積極的に話さなくなる方もいらっしゃいます。置かれている状況を客観的に見ることができれば前向きな反応が得られるのですが、孤立してしまう方が多いのが現状です。

矢方:私も、やはりこもってしまって、誰にも聞けない時間がありました。でも、知識を持っている方から話を聞いたり、情報をいただいたことで、自分の進むべき答えにたどり着くことができました。

中川:がんと向き合うという困難な状況は、ご家族も含めて誰もが等しく直面することです。決して一人だけで苦しんでいるのではないと知っていただきたいですね。

清水:がんは人生そのものを脅かす病気なので、辛くて当然です。そして、悲しんだり不安になったりという「負の感情は決して敵ではない」ということをお伝えしたいです。泣くことは心の傷を癒す力があるので、安心して悲しい気持ちを出してください。くよくよすることが、病気の治療成績に大きな影響を与えるわけではないことも研究でわかっています。

中川:診断後、患者さんは治療方法の選択や仕事、家族のことなど、短期間で多くのことを考える必要があります。

清水:気持ちが全然追いついていかないのに、決断を迫られて辛かったという声をたくさん聞きます。病状にもよりますが、がんは1日、2日を争うものではないので、主治医の先生とよく相談しながら、納得のいく選択をしていってください。一人で考えられないときは、ご家族や信頼できる方の助けを借りるのが良いと思います。

矢方:診断を受けたばかりの患者さんは、いつもとは違う状態になってしまうので、そんな時に専門の方の助けが必要になることがありますね。

② つらい気持ちを和らげるためには、どうすればいいの?

矢方:がんと向き合う上で、辛い気持ちを少しでも和らげるためにはどうしたらよいのでしょうか?

清水:悲しみは心の傷を癒す力があるので、ネガティブな気持ちに蓋をしないで出してください。一人で泣いたり日記を書く方法もありますが、誰かに温かく聞いてもらい、受け止めてもらう方が心は安心できます。私たち医療者も、ぜひ頼ってほしいと思っています。

中川:身近な方に相談するのが苦手な方も多いと思います。そういう時、自分自身で工夫して辛い気持ちを和らげるにはどうしたらいいでしょうか?

清水:是非そういう時こそ医療機関を頼ってください。全国400以上のがん専門拠点病院には「がん相談支援センター」があります。どんな相談にも乗ってくれるので、そういう場所に一歩踏み出すことが、何かにつながると思います。

矢方:誰かに話を聞いてもらい、受け入れてもらうことが一番の癒しになるというのは、私自身も経験しました。ちょっと踏み込んだところから、どんどん話が展開していってよかったなと思います。

清水:その一歩が、新しい「つながり」を見つけるきっかけになるのかもしれません。

中川:医療者が考える時間と、患者さん・ご家族が考える時間には大きな差があります。患者さんががんについてしっかりと学ぶことで、心の浮き沈みや怒りなども解決できるかもしれません。

③ つらい気持ちを支えてくれるのは誰ですか?

矢方:辛い気持ちを和らげるために支えてくれるのは、どのような方々なんでしょうか?

清水:やはりご自身のことをよく知っているご家族や友人の方に、辛い気持ちを話せるといいですね。ご家族も辛い気持ちを抱えているのは当然なので、お互いに率直に話し合える関係が理想的です。

中川:特に高齢の方は、「迷惑をかけたくない」と思って自分で何とかしようとする方が多いですね。しかし、実際にはご家族や医療スタッフも頼ってほしいと思っています。

清水:責任感が強く生真面目な方ほど、抱え込んでしまいがちです。そういう時は、私たち医療者をぜひ利用していただきたいです。家族に心配をかけたくないと思う方でも、医療者なら話を聞くプロなので、何を話していただいても大丈夫です。主治医や看護師、そして専門的な対応が必要な場合は「こころの専門職」である私のような精神科につないでもらうこともできます。

中川:医師の説明がよく理解できなかったり、仕事や治療費、家族のことなど、具体的な心配事がある場合は、「がん相談支援センター」に相談するのが良いと思います。

矢方:また、同じ病気を体験した、経験した方の気持ちを分かち合える場もいいですよね。

清水:そうですね。ピアサポート*は、同じ病気を体験したことで、出会った瞬間から分かり合える感覚があると言われます。患者会だけでなく、ウェブやSNSなど様々な形がありますので、選択肢は広がっています。

*ピアサポート:同じような悩みや経験をもつ者同士(ピア:Peer)が支え合い、サポートし合うことをピアサポートと呼びます。仲間から支えられていると感じることによって、不安の解消や悩みの解決につながることが期待されています。(国立がん研究センター/がん情報サービス 用語集より)

今回のポイント

気持ちは揺れて当たり前です。がん治療中に不安や落ち込み、怒りなど様々な気持ちになるのは自然なことです。自分の心の変化に気づくことが、気持ちを整える第一歩になります。

辛さを軽くする方法はあります。自身の感情を表に出してみること、誰かに話すこと、医療者に相談することなど、自分に合った心のケアを見つけることが、治療を続ける力になります。

心のことも相談してよいのです。精神腫瘍医やカウンセラー、認定看護師など、気持ちの辛さを受け止めてくれる専門家がたくさんいます。一人で抱え込まず、話してみようと思えた時が、支えにつながるチャンスです。

中川:がんと診断された時、自分だけが孤立しているかのように感じてしまうことが多いですが、早くその孤立から抜け出して、いろいろな方と情報を共有する仲間を見つけていただきたいと思います。医療者もその中に入りますので、ぜひご利用ください。

清水:悲しみという感情は決して悪いものではありません。無理に我慢せず、泣きたいときには泣いてください。そして辛い気持ちを誰かに打ち明けることは、大きな力になります。多くの医療者は、困っている人を助けたいという思いで仕事をしていますので、ぜひ声をかけていただきたいと思います。

この動画がシニアの皆さん、そしてご家族の皆さんにとって、闘病の日々の中で少しでも安心して治療に臨むお手伝いになれば幸いです。とって、大きな希望となるでしょう。

*がん相談支援センターの情報(国立がん研究センター/がん情報サービスより)

<出演者>
清水 研先生(がん研有明病院 腫瘍精神科 部長)がん患者やご家族の「こころのケア」専門家、精神腫瘍医(サイコオンコロジー)の第一人者。著書、メディア出演も多く、やさしい語り口が好評。

矢方 美紀さん(声優・歌手・タレント)元SKE48のメンバーとして活動。自身の乳がんの体験からがん啓発活動にも関与。

中川 和彦先生(近畿大学病院 がんセンター長)元日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会の理事などを務め、患者中心の医療のパイオニア的存在。

※この鼎談の様子を動画でご覧になる方は、メルクバイオファーマ株式会社・がん情報サイト「オンコロ」共催『高齢者のためのわかりやすいがん情報サイト「オンコロ for シニア」』をオンコロYouTube公式アカウントでご覧下さい。
第2回テーマ:がん治療を受けるあなたの気持ち、どう支える? by オンコロ for シニア「65歳以上のがん患者やそのご家族のための情報サイトです」

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