第1回「がん治療の選び方、一緒に考える大切なこと」対談レポート

左から、ゲスト:勝俣 範之先生(日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科教授)/ナビゲーター:矢方 美紀さん(声優・歌手・タレント)/コメンテーター:中川 和彦先生(近畿大学病院 がんセンター長)

はじめに:がんと向き合う「はじめの一歩」に寄り添いたくて

本記事は、主にシニア世代の皆さんに向けて「がん治療の選び方」をテーマにお届けした対談動画の、要点をまとめ、読みやすくしたダイジェスト版です。「がん治療は、主治医の先生にお任せすればいい」と思っていませんか?この企画では、主治医や医療スタッフとの対話の大切さをわかりやすくお伝えします。
対談の様子は動画でもご覧いただけます。

ゲストには、腫瘍内科のスペシャリストである勝俣 範之先生、そしてコメンテーターとして、シニアの視点から患者に寄り添う中川 和彦先生をお迎えし、主治医との対話、そして治療に対する「納得感」について語り合っていただきました。ナビゲーターは、乳がんサバイバーで声優・歌手・タレントとして活動中の矢方 美紀さんにおつとめいただきました。

① がん治療には、どんな方法があるの?

矢方:まずは、がん治療にはどのような選択肢があるのかを教えてください。

勝俣:代表的なのは、手術・放射線治療・薬物療法です。薬物療法の中には、抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬などがあります。治療の選択は、がんの種類や進行度、患者さんの体力によっても変わってきます。

中川:今は治療法を「選べる時代」です。だからこそ、自分がどう生きたいか、何を大切にしたいかが治療選択の軸になります。特に高齢の方は、生活の質(QOL)や体への負担も考慮しながら、ご自身に合った治療法を選ぶことが大切です。

勝俣先生: 治療法は増えましたが、「どれが正解か」は人によって違います。ご自身の体力や持病、生活スタイルまで含めて、総合的に考える必要があります。

中川先生: 治療によっては副作用が長く続くケースもあります。「この治療を生活の中で続けられるか」という視点も治療効果に加えて大切です。

② どうして、主治医や医療スタッフと一緒に考えることが大切なの?

矢方:「主治医と一緒に考える」とよく聞きますが、それはなぜ大切なのでしょうか?

勝俣:一昔前は医師が決めて、患者さんは従う、または選択肢を医師が提示し、患者さんが選び同意するというインフォームドコンセントという進め方が多くみられました。でも今はSDM(Shared Decision Making/協働意思決定)が重視される時代です。医療者と患者さんが話し合い、理解を深めながら、一緒に治療法を選んでいきます。

中川:とはいえ、診察室では遠慮してしまう方が多いですよね。「こんなこと聞いていいのかな」と黙ってしまう方が本当に多いのです。

勝俣:「わがままな患者さん」でいいんです。たとえば、「いい患者」であろうと治療の副作用を我慢し、医療者に伝えないという方もいますが、それが後の治療経過に影響を及ぼすこともあります。医療者に遠慮せず、あなたが思っていることはどんどん伝えてほしいです。

矢方:診察中、緊張して言いたいことを忘れてしまうことも多いですよね。

勝俣:質問を紙に書いて持ってくるのもおすすめしています。伝えたいことや聞きたいことは、事前にメモしておけば忘れにくくなりますし、診察後の「聞きそびれた」が減ります。

中川:説明が分からなければ、「もう一度説明してください」と言っていいんです。きちんと理解することが治療の第一歩ですから。

③ みんなで決めると、治療にどんな良い影響があるの?

矢方:治療を医療者と一緒に決めると、どんなメリットがありますか?

勝俣:自分の状況や日常生活への希望を反映した治療を一緒に考え選べることが、最大のメリットです。それによって不安が減り、「納得して進められる」という前向きな気持ちにもつながります。

中川:最終的に何より大事なのは、「自分の人生を生きる」ということ。他人任せの選択では、後悔が残ることもあるんです。

勝俣:診察時間は数分でも、その会話が人生を左右することもあります。だからこそ、主治医との信頼関係はとても大切です。

矢方:ご家族が一緒に病院に行くこともありますよね。

勝俣:家族や信頼できる人と一緒に受診するのは大賛成です。1人では伝えにくいことも、第三者としてサポートしてくれることがありますし、医療者からの話を共有することで患者さんの日常生活での支えにもなります。

中川:もし家族がいなくても、友人や近しい人に付き添ってもらうことも有効です。診察での情報を後から一緒に振り返るだけでも、大きな力になります。

矢方:ここで今日のポイントをまとめてみたいと思います。

① がん治療の選択肢を知ろう。

がん治療には手術、放射線治療、薬物療法など様々な方法があり、またそれぞれの治療にも複数の選択肢があります。それぞれの治療について主治医に質問し、どの治療が今の自分に合うのか、まずは選択肢を知ることが大切です。

② 主治医や医療スタッフと一緒に考えることが大切です。

治療の選択は自分1人ではなく、主治医や医療スタッフと相談しながら進めることでより納得して、そして安心して治療に臨むことができます。そのためには治療選択肢について専門的な意見を聞くことと、自分の状況を伝えることの両方が重要です。看護師や薬剤師、相談センターなどの活用もおすすめです。

③ SDM(Shared Decision Making/協働意思決定)のメリットを実感しよう。

SDMとは、患者さんと医療スタッフが一緒に選択肢について話し合い、治療を決定する方法です。納得して治療を選べることで、不安を減らし、前向きな気持ちで治療を続けることができます。

シニアの皆さんにとって、治療方法を理解すること、そして主治医や医療スタッフと相談しながらご自身が納得した治療を一緒に選択することの大切さがよくわかりました。最後に視聴者の皆さまへのメッセージをお願いします。

中川:ちょっと難しいテーマだったかもしれません。患者さんである皆さんは、がんと診断された時にいろいろな選択をしなければなりません。その時には1つだけしか選択肢がなければ簡単ですが、いくつかの選択肢があり、どうしても迷ってしまうというようなことが起こってきます。

それはとても大事なことで、選択肢があることは恵まれていますよね。だからその機会を十分に活かして、自分に適切な、満足のできる、自分らしい治療方法を選択していただきたいと思っています。そうすれば皆さんの良い豊かな人生を最後まで続けていくことができるというふうに思います。

勝俣先生:がん治療の選択は決して1人で抱え込むものではないです。主治医や看護師や薬剤師、相談センターなど、たくさんの医療スタッフが皆さんの力になれるように準備していきます。

SDMを活用し、ご自身の価値観に合った治療を選択することで、少しでも不安を減らして、納得感のある治療を進めることができると思います。ぜひ信頼できる医療チームとともに、納得のいく治療法を見つけてほしいと思います。

矢方:この動画が皆様の治療の選択の一助となれば幸いです。私自身も、今もがんと向き合うものとして、皆様が少しでも安心して治療に臨めるように、今後も分かりやすい情報をお届けしていきたいと思います。

勝俣先生、そして中川先生、本日はありがとうございました。

<出演者左から>
・勝俣 範之先生(日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授)腫瘍内科医としてSNSでがん医療情報を発信。メディア出演も多く、またSDM普及に関してはパイオニア的存在。

・矢方 美紀さん(声優・歌手・タレント)元SKE48のメンバーとして活動。自身の乳がんの体験からがん啓発活動にも関与。

・中川 和彦先生(近畿大学病院 がんセンター長)元日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会の理事などを務め、患者中心の医療のパイオニア的存在。

※この鼎談の様子を動画でご覧になる方は、メルクバイオファーマ株式会社・がん情報サイト「オンコロ」共催『高齢者のためのわかりやすいがん情報サイト「オンコロ for シニア」』をオンコロYouTube公式アカウントでご覧下さい。
第1回テーマ:がん治療の選び方、一緒に考える大切なこと by オンコロ for シニア「65歳以上のがん患者やそのご家族のための情報サイトです」

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